とり天が繋げる、実家のおふくろ。

ーまずは今回オーダーされたとり天のお話を聞かせてください。
清永:郷土料理であり、家庭料理でもあり、ノスタルジーというのが一番近いかな。実家に帰省する=とり天みたいになっていて、母がつくってくれる。高級店の料理じゃないけど、自分にとっては特別な料理です。
鳥羽:特別な料理というのは、値段の高い低いとかじゃないですからね。
清永:ちゃんと盛りつけするわけでもなくて、バットに山盛りのとり天がのって出てくる。もしかしたらそのやり取りが、ぼくと母のコミュニケーションかもしれないね。
鳥羽:シェフの立場から話すと、うどんに入っているようなとり天は硬めだけど、大分のはしっとりしておいしいことにびっくりしました。鶏をそぎ切りするんですが、ボリュームが足りない部分を天ぷらにすることでうまみが増すというのは、すごい文化だと思います。今回はド定番な感じではなく、主流の胸肉に加え、もも肉も入れて、新鮮味を出します。味付けは、からし醤油をつける前提の衣にして、下味をきちんとつけるのが特徴です。
ー清永さんは食事をどんな時間として捉えてますか?
清永:絶対においしいものを食べたいひととか、一食も手を抜きたくないひともいるけど、ぼくはそうじゃない。外食はコミュニケーション優先かな。絶対においしいものを食べなきゃ!ってわけでもない。最近、予約が取れない店とかあるけど、店側がどや顔してこないですか?(笑)。おいしいですねって言わなきゃいけないみたいな。気を遣うし、演じなきゃいけない感じがする。
鳥羽:予約が取れないレストランに連れて行ってもらってインスタをあげるというのが、いまの飲食店のハイエンドになってますよね。そういった疲れてしまう風潮に対してつくったのが、朝昼晩の営業で、朝は8時オープンする「Hotel’s」なんですよ。営業時間に幅を持たせて、むしろ少しでも予約が取りやすいようにしたくて。予約が取れない店に行くことを喜ぶひとがいる一方で、そこから離脱するひともたくさんいて。
清永:服もそうで、つくりすぎもよくないけど、限定ばかりでつくらなすぎもよくない。
鳥羽:そういう意味では、キヨさんはあるタイミングでちゃんと買えるようにしたじゃないですか。そこがぼくらと似ている気がして。ぼくらもマスとやるというのは、食文化全体をよくしたいからなんですよね。
清永:お店に電話して、予約は3年後です、とか。いや、行かないよ、死んでるよって(笑)。そこまでして行く必要あるのかな。
鳥羽:そういう世の中の機運は感じますよね。その料理を食べにきているのか、その席に座りたくて来てるのか。

ーたしかにここ数年、飲食店前の行列は増えましたよね。
清永:ぼくは昼飯をあまり食べない生活をしてきました。というのも飯を食べると、思考や集中力が下がる気がする。もう2、30年やっているからそういう体になっちゃった。
鳥羽:わかります。疲れちゃうんですよね。
清永:そもそもで考えると、三食は日本人に合っているのかなと。時代劇を観ても、昼飯のシーンは出てこないよね。昔は電気がなかったから、晩飯は明るいうちにということで、17時ぐらいだったんじゃないのかなと。だから朝飯と晩飯の間が近くて、昼飯を食べなかった可能性もあるよね。
ーおもしろい着眼ですね。