歴史を遡った当時のつくりに、いまの要素を入れていく。

使用する生地や部材が決まった後は、ディテールや縫製などの仕様をマスターテイラー・田さんとカウンセリング。細かく指示も受け入れてくれる。
田: クラシックな方向だと、縫製も折り伏せ、シングルができますよ。
金子: それは激アツですね。インシームが折り伏せ縫いっていう、ステッチ一本しか露出しない縫い方なんですけど、ぼくらはそれが結構好きで。裏側を見て、テンションが上がるというか。ミリタリーものとかでも本来ロックミシンで縫われてるところを、わざと折り伏せに変えたりとか。やっぱり丁寧なつくりにするなら折り伏せかな、みたいな。
―コインポケット内もミミ付きですよね?
金子: はい。もう、超スペシャルです。
田: ジャケットの裾も通常のチェーンじゃなくて。通常は分けて縫う前立てと裾を今回は1発でぐるっと縫ってます。その辺りも普通とは違いますよね。
金子: 縫製に興味がある人にはなかなか見応えがあると思います。ただ、あんまりそこに違和感を持ってくれる人っていないと思うんですけど(笑)。

金子さんが選択したレザーパッチとステッチカラー。アーキュエイトステッチのデザインが選べるのも嬉しい。
―目立つ部分で言えば、アーキュエイトも現行のレギュラーとは微妙に違いますよね?
田: いまは通常は2本のステッチが真ん中で交差してるんですけど、’30年代とかのを見ると当時は交差してないんですよ。あれはまだ2本針っていう選択肢がなかったので、そうなってるんですが、「ロット・ナンバーワン」でも全部昔に倣って1本針のシングルステッチでやってます。
金子: なのに、上手だから2本針に見えますよね。普通、1本ずつミシンを入れるから並行にならないことが多いし、下手な人が縫うとそれでわかっちゃうんです。それがアジでもあったりするけど、「ロット・ナンバーワン」のはちゃんとキレイですね。
田: やっぱりデニムの顔なんで、一番練習したかもしれないですね。

6台のミシンを駆使して、田さんひとりで1本のジーンズを縫い上げる。
―糸は綿糸なんですか?
田: これはスパンですね。表だけがコットンで、芯がポリエステルです。
金子: 高まってきましたね。ぼく自身、縫製にめちゃくちゃ詳しいわけではないんですけど。
田: でも、縫いのところにそこまで突っ込んでもらえると嬉しいです。
金子: 歴史をめちゃくちゃ遡った当時のつくりにプラスして、いまの要素を入れていくというか、「もっとこうでいいんじゃないか」っていう考えを入れてるってことですね。だから、本当にお願いしがいがあったなと。やっぱりその辺って細かすぎてニュースとかにも書けないじゃないですか。この「ロット・ナンバーワン」についてのサイトを見たんですけど、もっと簡易的に書かれてて、そこからいまみたいな話の想像はついてなかったので。
田: 本当に伝えづらいですね(笑)。
金子: そうですよね。動画で何時間も説明しないと、絶対わからないと思います。ぼく自身がはじめて服に夢中になったきっかけが〈リーバイス®︎︎︎〉で、「501®︎︎」と〈ヘインズ〉の赤いパックTを買った瞬間からどっぷり服にハマったから、今日はその集大成でもあるなって。

理想のシルエットを追求するべく、実際に試着をしたうえで着丈や袖丈などをミリ単位で調整していく。

ジーンズはヒップ周りの余りを削って、金子さん好みのスッキリとしたシルエットへ。
―実際にオーダーの全工程を経て、いちばん難しかったのは、悩ましかったのはどこでしたか?
金子: いちばんはやっぱりパターンですかね。ちょっと想定外だったんですよ。特に上(ジャケット)が。下もベースの形は一見「501®︎︎」っぽいんですけど、ちょっとだけスラックス的というか。普通の可動域がしっかりある「501®︎︎」とはまたちょっと違って、スッとしていて立ち姿の美しいパンツだなと。それでジャケットも着させてもらったら、やっぱり完璧にそっちだなと。
―古いアメリカンウェアみたいな肩から袖が一直線の形じゃなく、袖山がちゃんとあるパターンでしたよね。
金子: ですね。多分、そこにテコ入れするのは難しいだろうなと思ったし、元々セットアップっていうのにこだわっていたから、ひとまずデニムの歴史みたいなものは一度無視して、普通にテーラードをあつらえる感覚でつくろうと切り替えて。袖を通して立った時のきれいさを重視したフィッティングにしようと切り替えました。多分、ヴィンテージとか、昔のものをイメージして来る人は多いだろうから、そういう人はもしかしたら最初、違和感を持つかも。

試着後は採寸して仕様書を作成。股上やウエストまわりなど、細かな部分も丁寧に採寸していく。これにてカウンセリングも最終段階。
―でも、そうやってフラットに判断して切り替えられる引き出しの多さは金子さんらしいなという気がします。
金子: そういう意味ではスーツに近いですよね。それに、それならセットアップの意味ってすごいあるんじゃないかなと思います。今回は縫い方とかもヴィンテージとは全然変えているし、やっぱり別物ですよね。これを現代でワークウェアとして着る人もあんまりいないだろうから、デイリーウェアとしては着たときの美しさに特化していくのは自然な流れだなと。