YOSHIROTTENの頭の中を可視化した「FUTURE NATURE Ⅱ in Kagoshima」
―先日、大盛況のうちに幕を閉じた「霧島アートの森」での展示『FUTURE NATURE Ⅱ in Kagoshima』。今回開催するに至ったきっかけはなんだったのでしょう?
数年前から様々な形で作品を発表してきて、その度に新たな目標ができていき、いつかは美術館で大きな展示をしたいと思っていたんです。そして初めて美術館での個展をするなら、自分のルーツである故郷で開催できたらいいなとも思っていました。この数年はファインアートの活動に注力していて、地元鹿児島の浜辺でのインスタレーションも実施したりと積極的に外へアプローチしていた最中、「鹿児島県霧島アートの森」から個展のオファーをいただき、開催することになりました。
―今回の展示を企画していくにあたって具体的にどんなイメージを持っていたのですか?
2018年に初めて披露した『FUTURE NATURE』という個展が僕にとってやりたいことを思い切り表現できた大きな展覧会だったのですが、そのテーマを改めて鹿児島の自然をモチーフに再構築して表現したいと思ったんです。『FUTURE NATURE』は自然や宇宙、さらには光そのものの新しい角度から伝えるというコンセプトにしているのですが、雄大な自然に囲まれながら、アートとも見事に調和した「鹿児島県霧島アートの森」は、その展示内容との親和性もあり、まさにぴったりな場所だと感じたんです。
―前回の『FUTURE NATURE』からアップデートした点を精選するならどんな部分でしょうか?
2018年の『FUTURE NATURE』ではまだできなかったことを今回はいくつかアップデートしました。なかでも「Tranthrow」という作品は宇宙へと向かう機体の壁に映る光を捉えた作品ですが、前回はあくまでも想像をもとに描いた作品でしたが、それを今回は独自の分光器を開発して太陽光のデータでラインを描く作品に昇華したり、霧島の色々な場所を巡りフィールドワークして得た素材をもとにすべて制作していきました。
―その一方でデジタルの文脈でも進化を感じる作品もありましたよね。
巨大なLEDパネルや先ほど述べた独自のセンターをリアルタイムで映し出した作品などがそうですね。自然をモチーフにしながらも僕が長年追い求めてきた光との繋がりによって生み出されていくものを映像やプリントはもちろん、実験的にデジタルの媒介を通じて新しい景色として表現しているんです。また空間全体も巨大なインスタレーションとして天候や時間帯など光の移り変わりによって表情が異なるよう設計しているので、訪れた人にとってなにかしらの気付きや“もしも”という視座を持つきっかけにもなったのではと思っています。
―事前の準備にも膨大な時間を費やし、構成や空間も緻密に練られていて、YOSHIROTTENさんの頭の中を覗き見ているような感覚に浸れるかもしれないですね。
そうですね。ベースとなるグラフィック制作ではアブストラクトな作品も多くて、実は制作している時の僕自身の感情としては虚無というか、何も覚えてなかったりするんです。なのでそこには一切の計画や狙いとかないんです。今回は特に沢山の素材を筆でペインティングするようにコンピューター上でコラージュして、抽象絵画のように仕上がった作品も多かったからかもしれないですけど。そうした意味では、商業美術やクライアントワークとしてのデザインも行なっている時の作業とは異なり、無邪気というか心のままにというか、とにかく純度の高い作品たちと会える空間だったかもしれませんね。
―来場された方たちからの反響などはいかがでしたか?
初日のレセプションも東京や海外、地方から300人近い友人たちが集まってくれたり、会期中も県外の人も含めて沢山の人が足を運んでくれたんです。なかには霧島に行くまでの道中で大自然に触れたり、展示を見終わった後も鹿児島という土地の中で余韻に浸ったりと、展示以外の時間も今回の『FUTURE NATURE Ⅱ in Kagoshima』を通じて、得られるものがあったという言葉もあって、それこそまさに僕が思い描いていた理想的な体験の形でもあったので嬉しかったですね。