活動の根幹であり、精神的な支えともなっている表現活動
―そうしたいわゆるクライアントワークを手掛ける一方で、ご自身の表現活動として個展の開催やグループ展の参加、またZINEの制作なども精力的に行なっていた印象も強いですが、いかがですか?
はい。なにかを作ることにストレスを感じたことがなくて、絶えず作り続けることで自分の精神を保っていた部分もある気がしていて、そう考えると時期に関係なく常になにかを作っていたんだと思います。最初の個展は原宿の洋服屋さんと作ったギャラリースペースで、その後に西麻布の 「CALM&PUNK GALLERY」での『PUDDLE』。次にベルリンで初めてミュージシャンと組んだ個展『As We Collide』、その後ロンドンで『Floating Future』と立て続けに実施しました。今改めて振り返ると自分の作品を発信する意識と同時に海外に対する想いが強かったタイミングだったのかなと感じますね。あとはこの当時たくさんZINEもリリースしています。〈GASBOOK〉というレーベルからは2冊の作品集を出版しました。
―その結果、企業のキャンペーンビジュアルや商業美術など、表現領域の拡張にも繋がっていったのでしょうか?
2015年以降はファッション広告も数多くやり始めた時期でもあり、「Amazon」からの依頼で手掛けた『AT TOKYO』や『Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO』、〈G-SHOCK〉のキャンペーンビジュアルのアートディレクションは広い層のお客さんに対して自分の作風を知ってもらうきっかけにもなった気がします。
『G-SHOCK 35th ANNIVERSARY(2017)』
「G-SHOCK」の生誕35周年を祝したアニバーサリーキャンペーンのキービジュアル制作を担当。2017年のニューヨークでローンチされたワールドプレミアから2018年の渋谷で開催されたファンフェスタまで、大規模なプロジェクトとして話題となった。その後、40周年を記念した東京限定のモデルのキービジュアルの制作も担当。
『AMAZON FASHION “AT TOKYO”(2017)』
日本で活躍するデザイナーにグローバルな基盤を提供し、コミュニティを継続的にサポートする「AMAZON」によるファッションプログラム『AT
TOKYO』。2017年度の同イベントのアート領域におけるディレクションは、YOSHIROTTEN自身が独自の視点で東京のカルチャーとファッションを融合することを目指し、キービジュアルから映像、様々な販促物までのディレクションを担当。
『Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO(2014)』
2015年10月に実施された「一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構」が主催するファッションウィークのキービジュアルを担当。その後も同社の新型モデルのローンチイベントなどでもアートディレクションを担うなど蜜月な関係性を築く。
―〈HERMÈS〉との取り組みも当時は大きな話題を呼びました。
〈HERMÈS〉との取り組みは、個人的にはとても思い入れの深い仕事で、『Radio Hermès』のロゴ制作やイベント空間の演出を含むアートディレクションを皮切りに、『HERMÈS OMOTESANDO』や2022-23年秋冬のウィメンズコレクションの世界観を表現した一夜限りのナイトクラブとしての『TECHNO EQUESTRE』、また2023年春夏のメンズコレクションにおける『SPLASH TOKYO』というイベントなど、僕自身のキャリアを形成する上で大きな影響を与えてくれたプロジェクトや取り組みに繋がりました。それは過去の積み重ねも当然ありながら、2018年に開催した初めての大規模な個展だった『FUTURE NATURE』でしっかりと自分の表現やアイデアを発信して届けられたからだと思っています。
『RADIO HERMÈS(2019)』
2019年の9月から1ヶ月間、東京・原宿のアートスペース「CASE W」をジャックして開催されたポップアップステーションの『RADIO
HERMÈS』。〈HERMÈS〉のメンズコレクションの世界観がラジオを通して表現されており、期間中はステーション内で様々なクリエイターの生放送を配信したり、VR体験や展示も行ったりするなど大きな話題に。そのアーティスティックディレクションを担当。
『HERMÈS OMOTESANDO(2021)』
2021年に表参道にオープンした〈HERMÈS〉の路面店。オープンを告知するキービジュアルやファサードで採用されたグラフィックは、漫画家の竹宮惠子氏が手掛けた『エルメスの道』の作品を使用したYOSHIROTTENとのコラボレーションによるもの。他にもウィンドウのデザインなども担当。
『TECHNO EQUESTRE(2022)』
〈HERMÈS〉の2022年秋冬シーズンのウィメンズの世界観を体感するイベントとして、東京湾を望む会場に一夜限りのナイトクラブが出現。乗馬が描かれた色とりどりのシルクスカーフをはじめ、花で作られた馬のモニュメントやネオンサインなど、臨場感溢れる空間の演出やデザインを担当。
『SPLASH TOKYO(2023)』
パリで発表された〈HERMÈS〉の2023年春夏シーズンのメンズコレクション。その東京版として国内では実に7年ぶりに開催されたランウィショーとアフターパーティーが「SPLASH TOKYO」。ロゴやインビテーション、空間や映像演出などデザインにまつわるトータルのプロデュースを行なった。
―この頃から近年のお仕事は、YOSHIROTTENさんの代名詞とも言えるようなプロジェクトが充実していますよね。
そうかもしれないですね。〈Dries Van Noten〉のメンズウェアへのグラフィック提供や韓国で行った『Jennie for Calvin Klein』でのインスタレーションもありました。同じアジアで言えば、香港で最大級となるショッピングモールの「LANDMARK」では大規模な作品の展示もさせてもらいました。あとは山下達郎さんや宇多田ヒカルさんともお仕事をさせてもらったり、個人的にも印象に残るお仕事ばかりですね。

『Dries Van Noten 2020S/S LOOK(2020)』
〈Dries Van
Noten〉の2020年シーズンのメンズコレクションにて、蜷川実花とYOSHIROTTENによるコラボレーションのアートワークが起用された。同ブランドが日本人アーティストとコラボレーションを行うのは初の事例。

『Jennie for Calvin Klein(2023)』
韓国・ソウルでクリエイターズスポットとして注目を集める聖水洞の「Scene Seoul」にて開催された〈Calvin
Klein〉によるポップアップストア。世界的ガールズグループ「BLACKPINK」のメンバーであるJENNIEがグローバル・アンバサダーを務めたことから『Jennie for Calvin
Klein』と銘打たれ、インスタレーションやファサードの装飾を担当。

『Fluid Garden(2023)』
これまでにFUTURAや草間彌生など世界的なアーティストが作品展示を行ってきた「LANDMARK」の吹き抜け部分で、象徴的な噴水を活かしたままの新たな景色として庭をモチーフにした展示『Fluid
Garden』を発表。

『山下達郎/SPARKLE(2023)』
山下達郎の初期の名作として知られる『SPARKLE』が40年の歳月を超えて映像作品となり、そのMVのアートディレクションを担当。

『HIKARU UTADA/SCIENCE FICTON(2024)』
デビューから25年間で制作した全作品から宇多田ヒカル自身が厳選した初のオールタイムベストアルバムのアートディレクションを担当。2枚組となったCDに加え、YOSHIROTTENのアートワークによって制作したスペシャルブックレットも付属された3枚組のレコードもリリース。