ブレイキンの歴史を新たな切り口で表現。

今年の8月に、2日間にわたって撮影された本作品。日本のブレイキンのレジェンドが多数駆けつけ、歴史を映像で表現しました。
―映像作品『Rhythms in Motion: Japanese Breaking Chronicle』を拝見しました。とても興味深い仕上がりでしたね! そもそも、おふたりに関係性はあったんですか?
Shigekix: 大先輩です!
KURO THE ROCK: イベントなどでよく一緒になっているんですよ。ぼくが審査員をやらせてもらった去年のセッションではShigekixが優勝しました。
―じゃあ、かなり長いお付き合いなんですね。
KURO THE ROCK: Shigekixが8歳くらいかな? バトルに出場し始めたころから認識していて、すごい子がいるなって思っていました。首とか大丈夫なのかな? って思うくらいすごかった(笑)。
Shigekix: 嬉しいです。ぼくが知るブレイキンの歴史は浅いから、長い年月かけてシーンを広げてきたKUROさんだからこそ、今回のムービーを作れたと思っています。

撮影を振り返り、「’80年代とか’90年代を自分の目で見られていない悔しさを感じました。原点回帰した心境です」とShigekixさん。
―このオファーがあったときの心境はいかがでしたか?
Shigekix: レジェンドの先輩たちと一緒に作品を制作できるのが嬉しかったです。コンセプトを聞いた段階で、すごくかっこいい映像ができあがるのをイメージできました。
KURO THE ROCK: こういうブレイキンの歴史の映像って、過去にもあったんですよ。でも、それはインタビューが中心。歴史を語るなら言葉で語ったほうが確実に伝わりやすいので、すごくよかったんですけど、この作品ではインタビューは少なめにして。

撮影でCHINOさんとFlashさんが対峙した瞬間が1番興奮したと話すKURO THE ROCKさん。「まだまだ、このひとたちには勝てないなって実感しました」
―ダンスや音楽で歴史を表現したと。
KURO THE ROCK: そうなんです。ディレクターを任せてもらったのは、ぼくと「GROUNDRIDDIM」のまっちゃんさん(松本さん)。まっちゃんさんが、背景に過去の映像を流しつつ、その前で踊る形を提案してくれました。映像全体の主軸はまっちゃんさんがつくってくれています。
Shigekix: その演出、めちゃくちゃかっこよかったですよね。過去の映像が流れたり、グラフィティのタギングの文字が浮かんできたり、ヒップホップの歴史を感じる部分もあって。伝わりやすくて、深さがあると思います。同じ空間で撮影してたのに、出演する世代によってタイムスリップしたみたいな感覚になりましたよ。

アーカイブ映像の前で踊る本人たち。過去と現在を繋ぎ、歴史を感じる演出です。

作品中で使用されているタギングを描いたWOODさん。
KURO THE ROCK: グラフィティのタギングを描いてくれたWOODさんや、年代によって違う音源を緻密に制作してくれたDJ UPPERCUTさんも元々B-BOYなので、まさにB-BOYの感覚を詰め込めた作品だと思います。
楽曲に関しては、その年代のアンセムとなり得る楽曲の音像感や特徴を反映してオリジナルでつくってもらっています。カバーではないのに「こんな曲あったかも!」とリアルタイムを知っている人にも感じてもらえる楽曲に仕上がりました。
―B-BOY彫刻家のTAKU OBATAさんも出演されていましたね。
KURO THE ROCK: ぼくは「RhythmSneakers」というチームに所属していて、そのライバル関係にあった「UNITY SELECTIONS」というチームにTAKUくんが所属していたんですよ。年齢も近い同世代でした。TAKUくんが作るB-BOYの彫刻は、誰が見ても伝わるものがあるパワーを持っていると思います。まさか撮影現場まで作品を持ってきてくれてうれしかったですね。
―日本のブレイキンの歴史について、話を聞いたことはありましたか?
Shigekix: あります。日本のブレイキンは一度も途切れることなくシーンが受け継がれてきたので、「こういう時代があった」「こんな出来事があった」って先輩たちが教えてくれていました。でも、自分の目で見てきたわけじゃないから、この映像に出演されているB-BOYの先輩でも、ちゃんとお話したことない方もいて。
KURO THE ROCK: CHINOさんとFlashさんは、ぼくよりも上の世代だからね。ぼくにとっても大先輩。

左から、CHINOさん、Shigekixさん、Flashさん。世代を超えたセッションに注目です。
Shigekix: ブレイキンは世代の垣根を超えますけど、CHINOさんとFlashさんとは一緒に踊る機会はありませんでした。だから、それを実現できて嬉しかったです。撮影中、完成したらどうなるんだろうって期待値が上がりまくって、実際に編集が終わった映像を観てみたら、これはとんでもない作品ができたなと思いました。
―映像から分かるように、80年代と現在で動きがまったく違いましたね。
KURO THE ROCK: 時代によって流行りのスタイルが生まれているんですよ。’80年だったら、シンプルなフットワークが中心ですが、現代では複雑化していて。’80年のパワームーブ、要するに大きい技は、ウインドミルとかトーマスとか名前が付いているんですよ。でも現代だと、それなに? みたいなパワームーブがある。


Shigekix: 現場でKUROさんに、この時代はベーシックな動きから進化したから、こういう動きにしようって提案してもらったんですよ。コンセプトに合わせて誰とどういう演出で踊るかを意識しつつも、あくまでぼく自身のスタイルはキープしました。ぼくが1番年下だったから、ぼくの踊りで現代を表現したくて。
―時代によって進化していくブレイキンですが、明確な転換期となった時期はあるんですか?
KURO THE ROCK: ぼくの視点だったら、2000年代かな。もちろん’90年代もオリジナリティを持っているひとがたくさんいたけど、映像のなかでJACKさんが話しているとおり、2000年代からいろんなスタイルが生まれてきて、パワームーブも進化した。ぼく世代だと、スタイラーかパワームーバーに分かれていたんです。
―スタイルが分岐した2000年以降、オリジナルかつ難易度の高いパワームーブを武器にするスタイルが増えて、エアートラックスのような大技も連続するのが当たり前に。そしてそれ以降ではより音楽性も重視されて、いわゆる“音ハメ”のように音と動きをシンクロさせるひとが増えて、ダンス的な側面も重視されるようになりましたよね。
Shigekix: ぼくがブレイキンを始めたのが2009年だから、練習では2000年以降の動きを参考にしていましたよ。
―2日間にわたって撮影したそうですね。どんな現場でしたか?
KURO THE ROCK: やっぱり印象に残っているのは、CHINOさんとFlashさん。CHINOさんは東京の「ROCKSTEADY CREW JAPAN」や「TOKYO B-BOYS」に、Flashさんは横浜の「FLOOR MASTERS」に所属していて。当時は東京と横浜はライバル関係で、特にその2人はサシでバトルするくらいバチバチだったそうです。


―40年近く経った現在はどうでした?
KURO THE ROCK: すごく仲よし(笑)。『ビート・ストリート』(’84年)っていう映画を一緒に観ながら「ここの入りが!」って話をしていたんですよ。中学生みたいに盛り上がっていて、ほっこりしました。
Shigekix: レジェンドのみなさんになにを言われるんだろう……怒られるのか、褒められるのかって考えていました(笑)。ぼくのことを誇らしいと言ってくださる方もいれば、お前ならもっとB-BOYになれると叱咤激励してくださる方もいて、モチベーションが上がる嬉しい言葉でした。