メンズ、レディースを問わず、多くのファッション誌や広告で活躍するフォトグラファーの長山一樹さん。自身のInstagramでも時折発信されるとおり、スーツやセットアップという服装で撮影に臨む長山さんのスタイルは、数多のカメラマンがいれど唯一無二。美しいライティングにこだわる彼の撮影スタイルと同様に、強い個性と美学を感じさせるものです。
「元々デザイン性のあるものが欲しい訳でもないし、シャツを毎シーズン探すのも面倒くさいなと思ったんです。それならいっそ自分の身体に合ったシャツをつくった方が早いなと。丈を長くして、首を合わせて。かたちさえ決まっちゃえば、あとは生地だけ変えれば新しいものもがすぐつくれるので楽なんです。その後はスーツもオーダーするようになり、どうせならタイドアップしようという流れで現在に至ります。最初の頃は撮影現場で「この後、何かあるんですか?」とか「セルフブランディング?」なんて言われたりしましたが、自分にとってはこの方がラクだし面倒くさくないんですよ。カジュアルな服装をしていたときの方がよっぽど着る服に悩んで時間がかかっていましたね。
シーズン毎に様々な生地感のセットアップを愛用されている長山さんですが、シャツは常にボタンダウンシャツを選ぶと言います。決してドレスアップしたスタイルとしてセットアップを捉えているのではなく、あくまでスーツが自分にとって楽なものであり、ユニフォームとして愛用している長山さんらしい選択です。
「シャツは完全にボタンダウンシャツですよ。他の襟のシャツは一切着ないです。ドレスっぽいのが苦手なんです。ボタンダウンシャツのカジュアルさが良いんですよね。〈ブルックス ブラザーズ〉のボタンダウンシャツは着たら分かるんですけど、ディテールが凄いアメリカンなんですよね。それこそ、自分がはじめて買ったボタンダウンシャツは〈ブルックス ブラザーズ〉でした。今日着てるやつはサイズ感も、スーピマコットンの柔らかい生地感も良いですね。黄色がかった色味もちょうど良いし。今日は〈ブルックス ブラザーズ〉の代名詞でもある紺ブレに合わせましたけど、ブラウンのチェックのスーツとかにも合わせてみたいですね」
「ドシッとした変わらない哲学があるという安心感が、〈ブルックス ブラザーズ〉と他のブランドとの違いですよね。きっと〈ブルックス ブラザーズ〉のボタンダウンシャツは、一生、地球が亡くなるまで語り継がれていくんじゃないですか? 凄いことですよね。定番になるには時間が必要だと思うんです。どんなに質が高くても、歴史が浅いものは定番と言われないじゃないですか。カメラマンの仕事も一緒で、同じ白バックで撮影するとなったら、キャリアに関係なく仕上がりにそこまで差は出ないんですよ。その上で、この人の白バックは凄いって言わせるには、時間と、無駄を削った質の高い仕事をやり続けることが必要なんです」
「自分はそもそも王道が好きなので、新作には余り興味が無くて。だから割とベタなチョイスになるんです。写真とかもそうなんですけど、突飛な選択をして個性的に見せるってのが余り好きじゃないんです。“そうは見えないけど、個性になる見え方”みたいなものをいつも考えてるから、それは何にでも繋げたくなりますね。よく普遍的って簡単に言うけど、本当に普遍的なものって何だろうって。食しかり建築や椅子もそう、なんでこれが普遍的って言われてるんだろうなって考えるんですよね。その考え方を自分の仕事に落とし込めたら良いなっていつも考えています」
PROFILE
1982年生まれ、神奈川県出身。2001年に麻布スタジオに入社し、2004年に守本勝英氏に師事。その後2007年に独立し、ファッション誌や広告など幅広いフィールドで活躍。2018年には自身初となる個展「ON THE CORNER NYC」を開催するなど、現在注目されているフォトグラファーのひとり。ジャケットにタイドアップをしたトラディショナルな出立ちと、愛機であるハッセルブラッドがトレードマーク。
Photo_Shin Hamada
Text_Maruro Yamashita
Edit_Yosuke Ishii