デザイナーチームを公表しないアノニマスなブランドでありながら、着実にその存在感を高めている〈シティー カントリー シティー(City Country City)〉。そんなブランドの実態を探るべく、設立当初から親交の深いクリエイターたちへのインタビューを行う連載企画。謎のブランドの気になる中身を、あらゆる角度から迫っていきます。
3月16日(土)、原宿のセレクトショップ「GR8」にて〈CITY COUNTRY CITY x OLD PARK x Marmot & GORE-TEX BRAND〉のスペシャルプロダクトが限定リリースされます。
今回はそれを記念して、同店のファウンダー/オーナーである久保光博さんが登場。「長い付き合いがある」と語る〈シティー カントリー シティー〉と久保さんの関係性を深掘りします。
当時のほろ苦い思い出が蘇ってきた感覚があった。
ー久保さんと〈シティー カントリー シティー〉の繋がりについて教えてください。
久保:ぼくが上京して間もない頃に、ブランドのひとたちと知り合って。実はまだ地元にいる頃から一方的に存在は知っていたんです。それも含めるともう30年くらい前かな? 90年代の話ですね。ぼくはファッションが大好きなので、カルチャーよりもまずはルックスが大事なんですが、当時、雑誌とかにブランドのひとたちが載っていて「かっこいい!」と興奮しながら写真を眺めていたのを覚えています。
ー当時は裏原のカルチャーが全盛の頃ですよね?
久保:そうですね。地元から原宿まで行って、いろんなショップを巡るんですけど、服がほぼ無くて(笑)。原宿のラフォーレに行って、「ヴィンテージ・キング」のしたにあった「ノーウェア」も見て、〈バウンティハンター〉も覗くんだけど、どこに行っても商品がなかった。だから奇跡的に服が買えたときはすごくうれしかったですね。
ー当時、地方のお店も勢いがあったんですよね?
久保:めちゃくちゃありました。学生の頃、ぼくらの世代は1学年10クラス近くあって、とにかくひとが多かった。だからそのぶんファッションマーケットも大きかったと思うんです。そう考えると、東京にはとんでもない数のひとがいて、すごく夢が詰まった都市として眺めていました。毎日お祭りですよね。地元にいても賑わいを感じていたんだから、東京なんてもっとでしょっていう。そんな時代にファッションの前線で活躍していたのが〈CCC〉のメンバーで、いろんなものを見ていると思うんです。
だからなのか、〈CCC〉のアイテムをはじめて見たときに、当時のほろ苦い思い出が蘇ってきた感覚がありました。20歳の頃に自分のクローゼットに入っていた服がいまになって出てきた気分というか。
ーほろ苦い、ですか?
久保:「あの頃、めちゃくちゃ怒られたな」とかね(笑)。上京して、ぼくは〈リボルバー〉っていうブランドで働くことになるんですけど、同じように〈CCC〉のメンバーも黒子的に影の存在となって働いていたんです。だから、ある意味では同志的な気持ちがぼくの中ではあるんですよ。
ー「GR8」でのお取り扱いは即決だったんですか?
久保:即決というよりも、もう既にあるものとして存在していたような感覚ですね(笑)。やっぱり当時の思い出を共有できる数少ない仲間だとぼくは思っているので。
もちろんいい思い出もたくさんあって、あの頃にいろんなものを見せてもらった経験がいまの自分を形づくっている。裏原宿で生まれた文化って、いまや世界的なものになっているじゃないですか。その原点となる種のようなものを〈CCC〉はいまもずっと守っているように思えるんです。
ー〈シティー カントリー シティー〉はデザイナーチームが表に出ず、匿名性を守りながらブランド活動を続けています。そうした内容についてはどんなことを思いますか?
久保:いろんなブランドがあっていいと思うんです。Banksyの存在はみんな知っているけど、誰がBanksyなのかは誰も知らないのと一緒ですよね。デザイナーが顔を出すことによって、良くも悪くもブランドの色みたいなものが余計に伝わってしまう可能性がある。それがないってことは、伝えたいメッセージだけを発信できるメリットがあります。
やっぱり彼らは昔からそういう存在だと思うんです。決して表には出ず、舞台裏でしたり顔で頷いているのが〈CCC〉のメンバーなんですよ。それがかっこいい。
久保:ちょっと話が逸れるかもしれないですが、どうして「GR8」がオリジナルアイテムをつくらないかというと、デザイナーにリスペクトがあるからなんです。
だからずっとバイイングした服を売るということを実直にやってきたんですが、一方では〈CCC〉のメンバーも自分たちの仕事に徹している。スターになるためにブランドをやっているわけではない。それが伝わってくるんですよ。
ぼくもバイヤーとしていろんなブランドを見ていますが、デザイナーがかっこいいってすごく重要なんです。「このひとイケてる」って思えるブランドは、そのひとがつくる服もイケてておしゃれなんです。それと同じで、〈CCC〉の服を見れば、メンバーがどんなひとなのか分かると思います。
世代間でも、グローバル的にも化学反応を起こすようなブランドへ。
ー今後〈シティーカントリーシティー〉に期待することはありますか?
久保:若い世代をもっと巻き込むような服をつくってほしいですね。いまのラインナップももちろん素晴らしいんだけど、若い子たちに衝撃を与えるような尖ったデザインのアイテムがあってもいいと思う。
「GR8」でもいま、韓国のテックブランドの調子がすごくいいんです。どこもオリジナルの“テック”を生み出し始めていて、独自の解釈で新しいものが誕生しています。〈CCC〉もスポーツやアウトドアを軸にした“テック”の香りがするじゃないですか。それをさらにアップデートさせて、もう少し背伸びをするような服があってもいいんじゃないかと思います。すると、若い子たちがきっとよろこぶはずなんです。
現在のラインナップはぼくら世代が着るのがちょうどいい。だけど、若い子たちに先ほどの“種”を継承するという意味では、フィット感や素材を検証してみるのもアリだと思う。自分たちが20歳くらいのときにどんな気持ちで、どんな服を着ていたかっていうことを考えると、開けるものがあるんじゃないかと思います。コレクションのすべてをそうする必要はなくて、2型くらいあれば充分。すると、もともとあった服の見え方も際立ってくると思います。
久保:〈CCC〉のこれまでの歩みを見てきて、世代間でもそうですし、グローバル的にも化学反応を起こすようなブランドになってほしいです。自分の個人的な思いとは別に、「GR8」にファッションを求めてくるお客さんのために、そうした服があるとよりおもしろくなるんじゃないかと思います。
久保光博
1975年、愛媛県生まれ。18歳から地元のショップにてスタッフとして経験を積む。2005年には、ラフォーレ原宿にセレクトショップ「GR8」をオープン。同店のファウンダー/オーナーとして活躍する。
Instagram:@________kubo
Photo_Yuta Okuyama
Text_Yuichiro Tsuji