2024SSシーズンのスニーカー界の大きなトピックスのひとつである〈ヴァンズ〉の新たな最上級ライン「OTW by Vans」(*以下、OTW)と、アメリカ人アーティスト・スターリング・ルビー率いる「S.R.スタジオ.LA.CA.」のコラボレーションを祝したローンチイベントが、アメリカはロサンゼルスのダウンタウンで行われました。
この記念すべき日にお邪魔し、「OTW」のクリエイティブディレクターを務めるイアン・ギノーザにデビューしたての新ラインについてを伺いつつ、ライブやスケートボードのエキシビジョンで大いに盛り上がったロサンゼルスのアツい一夜をレポートします。
Edit_Yosuke Ishii
OFF THE WALLの精神とFeature Craftをテーマにした、OTWの型破りなクリエイティブ。
「OTW」と「S.R.スタジオ.LA.CA.」のローンチイベント直前に、宿泊先のホテルで「OTW」のクリエイティブディレクターを務めるイアンをキャッチ。よく晴れた青空の元、ダウンタウンの景色を一望できるホテルのルーフトップでコーヒーを飲みながら、「OTW」とは一体どういったラインなのかを訊ねました。
➖まずは改めて、「OTW」とはどういったラインなのかを教えてください。
「OTW」は〈ヴァンズ〉の新しいプラットフォームです。既存の〈ヴァンズ〉にはない、一歩踏み出した実験的なクリエイティブで、新たなブランド像を作り上げることを目的としています。
もちろん、〈ヴァンズ〉の精神やルーツであるスケートボードも大事にしていて、そのカルチャーにまつわる背景や、街やコンクリート、建造物といったスケートボードを想起させる景色など、あらゆるものをデザインに反映しています。
➖ 確かにコレクションを見ると、これまでにない新しい〈ヴァンズ〉という印象を受けました。デザインをするうえで気を配った点はありますか?
〈ヴァンズ〉がこれまで培ってきた”OFF THE WALL”のスピリットを保ちながら、プロトデザインをどのように活かすのかがポイントであり、ミッションでした。
そこで今回は、“フューチャークラフト=未来のモノづくり”をキーワードに掲げて、既存モデルの「ハーフキャブ」とアーカイブモデルの「スピード」をベースモデルとし、ヴィブラム®︎ソールを付けて大胆なアプローチを図りました。
➖まさか〈ヴァンズ〉にヴィブラム®︎ソールが装着されるとは。面白い発想ですね。
これはスケートボーダーならではの視点が活かされています。
スケーボーダーって、物の見方がちょっと変わっているんです。例えばベンチを街中で見ても、スケートボードをやらない人からしたら、ただの座るためのデザインでしかない。けれど、スケートボーダーは「グラインドできるじゃん!」「何がトリックできる?」「どうやって入ろうか?」と、見えないところを見ようとする。そうした視点が、今回のコレクションに反映されています。
➖ヴィブラム®︎ソールの融合も見事で、スタイリッシュな印象を受けました。
既存モデルとヴィブラム®︎ソール、それぞれ元々あるデザインだけど、違和感が出ないようにバランスを取ることに細心の注意を払っています。ポテトヘッドみたいにならないようにね(笑)。
きっとアウトドアでも使えるし、履き心地も良い。スタイリングとしてもかっこいいでしょ?
➖幅広いスタイリングにハマりそうですね。「OTW」でこれからやっていきたいことや、今後の展望などあれば聞かせてください。
今夜お披露目する「S.R.スタジオ」を筆頭に、2024年から2025年にかけておもしろいコラボレーションが控えています。これをきっかけに新しい〈ヴァンズ〉のファンを獲得できると思うし、これまでの〈ヴァンズ〉を愛してくれた人たちも、きっとその方向性を理解できると思う。自分自身もいまから世界中のみんなに見てもらえることが楽しみなんだ。
それと、今回の取り組みでヴィブラム®︎とは良いパートナーシップが築けたので、今後の協業も期待してほしいですね。
➖今夜の「S.R.スタジオ」のイベントも楽しみです。なんでも会場がすごいことになっているとか!
2023年6月のパリ・ファッションウィークで行われた「OTW」のキックオフイベントでも協力してもらった「PlayLab.」に再び依頼して、スターリング・ルビーにもアイデアをもらいながら今回のイベントデザインをしました。巨大なモニュメントに、きっと驚くはずだよ。楽しみにしていて。
街中に突如現れた巨大なスケートセクション。ローンチイベントは大盛り上がり!
さて、時刻は19時30分をちょうどまわったところ。ロサンゼルスはダウンタウンの外れに位置するアートディストリクトの一画にある大きな駐車場で、「OTW」と「S.R.スタジオ.LA.CA.」のコラボレーションモデル「CLASH THE WALL」のローンチイベントが行われました。
この日お祝いをしに集まったのは、世界各国のインフルエンサーや顧客、それにメディア関係者やスケートボーダーといった”〈ヴァンズ〉ファミリー”たち。会場の前は既に多くの人で溢れかえり、入場待ちの長蛇の列ができるほど。早くも熱気ムンムンです。
列に並ぶこと十数分。入場ゲートを抜けると、眼前に現れたのは高さにして3階建ては優にあろう巨大なモニュメント。これがまあデカくて存在感のあること!
別の時間にドローンで撮った写真はこんな感じ。
なんとこちらはスケートパークでした。ご覧の通り、広大な駐車場にでかでかとレイアウトされていて、中央のピラミッド型のセクションは高さ12フィートもあるとか。壁面のくり抜いたところにはライブステージが設置されています。
手がけたのは昨年パリで行われたインスタレーションに引き続き「PlayLab.」と、スターリング・ルビーによる共作。「PlayLab.」が過去に手がけたスケートボードのインスタレーションで出た廃材などを利用してつくったそうです。
サンフランシスコの急斜面の丘をイメージした仮設モニュメントは、スケートセクションとして機能する一方で、アートとしても楽しめます。
〈ヴァンズ〉所属のライダーからお馴染みのレジェンドまで。”OFF THE WALL”の下に集ったスケートボーダーたちが、この巨大セクションに挑みます。
スケートボードをしていない身からすると、高さ12フィートからドロップインするだけでも恐ろしいのに…90度の壁を相手にしたウォールライドや、巨大ピラミッドから繰り出される特大エアーは迫力満点! 爆音DJをBGMに、ビール片手に延々見入ってしまいました。
興奮のデモンストレーションを後に会場内を見てまわると、今回の目玉である「OTW」と「S.R.スタジオ.LA.CA.」による「CLASH THE WALL」のインスタレーションが。発売前のシューズを自由に手に取れる機会とあって、写真を撮ったり試着してみたりと、来場者が思い思いに「CLASH THE WALL」を楽しんでいました。
特に印象的だったのは、蛍光オレンジと蛍光グリーンの本作を、左右非対称に履いて写真を撮っていたツワモノ。ただでさえインパクト十分のシューズなのに、ネガティブ履きしてしまうそのセンスよ。
自由に楽しむ”OFF THE WALL”の精神を勝手に感じてしまったのと同時に、そんな人までをも許容する〈ヴァンズ〉の懐の深さにも触れた瞬間でした。バエまくっていたのは言うまでもありません。
さてさて再び場面をスケートセクションに戻して。デモンストレーションの後に行われたのは、アーティスト2組によるライブステージ。
まず現れたのは、昨年コーチュラ・フェスティバスにも出演して話題になったラップデュオ、PARIS TEXAS。ライブがはじまるやいなや、オーディエンスがスケートセクションに大挙して押し寄せ、たちまちモッシュピットが出来上がり。ヒップホップを根底に置きつつも、所々でロック的なアプローチもあるアグレッシブなステージングにオーディエンスのボルテージも急上昇。ライブとスケート・デモが交差した瞬間は、間違いなくこの日いちばんブチアガった瞬間でした。
続いて現れたのは、エレクトロミュージックのサブジャンルであるウィッチハウスの代表格でカルト的な人気を誇るSALEM。会場全体をスモークで覆った演出は、ダークな音像と相まって幻想的なステージングに。先のライブとは打って変わってダウンテンポのチルいライブでしたが、陰気なメロディと聴き取りづらいノイジーなボーカルにどんどん引き寄せられていました。
気づけば時間は23時を過ぎたころ。そろそろイベントも終焉の時間です。酒を酌み交わしながら、最後の時間を楽しむ〈ヴァンズ〉ファミリーたち。最後は、その中から特に気になった6組をスナップでご紹介。
まずは今回の主役である「OTW」のディレクターであるイアンと、「S.R.スタジオ.LA.CA.」を主宰する現代アーティストのスターリング・ルビーの2ショット。
お次は〈ヴァンズ〉からシグネチャーモデルをリリースしているイライジャ・バール。〈ファッキンオーサム〉のライダーとしても知られています。
こちらは〈ヴァンズ〉所属にして、〈シュプリーム〉初の女性ライダーとしても注目されるベアトリス・ドモンド。ジャマイカ・カラーのニットがクール!
「OTW」のルックにモデルとして参加したエフロン・ダンジグ。アーティストしての顔も持つ多彩な人で、アップカミングなスケートボーダーのひとり。
Z世代のポップ・パンク・スター、ランドン・バーカーの姿も。ちなみに父親はblink-182のドラマー、トラビス・バーカー。〈ヴァンズ〉が似合うのも父親譲りでしょうか。
最後は野村訓市さんと友人のジュールズ・ゲイトンの2ショットを。野村さんと聞いて〈ヴァンズ〉を思い浮かべる人も多いはず。間違いなく日本における〈ヴァンズ〉人気の立役者のひとりといえるでしょう。
というわけで日付が切り替わったと同時に、アツくて楽しかった一夜限りの宴もお開き。と思われましたが、熱気冷めやらぬままアフターパーティへとなだれ込み、まだまだ夜は終わらないのでした……。
〈ヴァンズ〉の根幹でもあるスケートボードを軸に、デザインやアート、そして音楽をも網羅したイベントは、まさに「OTW」のコンセプトそのものを体現したといえるものでした。今後もアッと驚くデザインやコラボレーションが控えているそうなので、「OTW」のあくなきチャレンジと、良い意味で期待を裏切る斬新なクリエイティブを期待しながら引き続きチェックしてまいりましょう。
OFF THE WALLの精神とFeature Craftをテーマにした、OTWの型破りなクリエイティブ。