1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
新たにショップが全て入れ替わりスタートした12シーズン目も今回でラスト! 第96回目は、都立大学の人気ショップ、「ヌーク(NOOK)」の木野山 佳之さん。どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
木野山 佳之 / NOOK 店主
Vol.96_FIELD&STREAMのネルシャツ
ー早速ですが、今回ご紹介いただくニュー・ヴィンテージなアイテムとは?
その前にお訊ねしたいんですが、最近ネルシャツって着たりしますか?
―筆者が10代の頃は古着でも安かったし、ちょっとした羽織りモノとして調子が良かったのでよく着ていましたが、最近はめっきりですね。
ですよね。正直ぼく自身もそうです(笑)。昔はアメカジ古着の定番かつ、ストリートカルチャーと密接に結ぶついたアイテムのひとつとして愛用者も結構いましたが、いまじゃ街でもあまり着ている人を見かけないっていう。でもだからこそネルシャツ、それもヘビーネルがそろそろイイんじゃないかなぁと。そんなワケで今回取り上げるのが、ご存じ〈フィールド&ストリーム(FIELD&STREAM)〉!
―え、有名なんですか?
いえ……ごめんなさい。あくまで“一部のアメカジ古着好きの間では”でした(笑)。ブランドも現存していて、その歴史を紐解くと1915年代に誕生……したみたいですね。勉強不足ですみません(汗)。で、タグのロゴ下には“1871”という数字が記されていますが、これは元々の経営母体の起源に由来するとか。なんとも紛らわしい(苦笑)。どうやらコストコなんかでも販売していたみたいなので、もう本当に“アメリカの普段着”そのものと言いますか。本国では直営店も数店舗あるようです。
―ジャンルとしては何にあたるんでしょうか?
ワークではなく、ハンティング系のアウトドアブランドです。なので他にも色々なアイテムを展開していますが、今回はネルシャツにフォーカスしました。ことヘビーネルに関しては、色・柄のツラが良い個体が見つかるし、なによりお手頃で取り入れやすい。つくり自体も肉厚に分類されるので、これからの時期にオススメです。
―これはいつ位のモノなんですか?
どれも多分00年代くらいだと思うんですが、その辺は勉強不足のぼくが言い切るのはちょっと難しいかも。お店によっては90年代モノと謳っていたりもしますが、どうでしょうかね。ここにも異なる2種類のタグがありますが、それ以外のディテールはほぼ一緒だし。
―年代ごとのディテールの変化とかは?
う〜ん。いわゆるヴィンテージのワークシャツの場合、チンストやマチなど特徴的なディテールがありますが、逆に言うとソレらのディテールを有していないので、どれを選んでも大した違いはない、みたいな。ぼくもいままでヘビーネルの細部を意識して見ることはなかったので、「海外のスケーターっぽいなぁ」とか、自分のライフスタイルに合わせたリアルクロージングとしての目線で、良い意味で適当に選んじゃってます(笑)。
―先ほども仰っていたように、あくまで“普段着”というか。
そうそう。オシャレ着じゃないから、どんな人でも気負わずガシガシ着られるアイテムだと思います。ゆえに、ウンチクを語る必要なんてないのかもしれません。“ネルシャツの前では、人はみな平等”みたいな(笑)。
―名言出ました(笑)。先ほど色・柄の良さについて触れていましたが、木野山さん的な良し・悪しについて教えてもらえますか?
それこそ主観になるので、一概に良し・悪しを言い切ることは出来ませんが、あくまでぼくの中では、チェックなら柄の細かいモノよりも柄が大きめの方が好き。アメカジっぽいところだとバッファローチェックも格好いいんですが、着方次第でちょっとイナタイ感じにはなりそう。その点、今回ピックしたようなオンプレチェックは基本ハズレが少ないかな。暗めの配色に、白が少し加わるとバランスも良いし、ロゴが入ったオリジナルのボタンの色合いとも相性もイイ感じで。
―ヘビーネルといえば古くは〈ビッグマック(BIG MAC)〉、近年では〈ファイブブラザー(FIVE BROTHER)〉なんかが思い浮かびます。
前者は言わずもがなですが、実は〈ファイブブラザー〉も80年代〜90年代のUSAメイドがヴィンテージ扱いされ、値上がりしていたりもします。そういった感じに、あの頃普通に買えていたモノが高騰している中で、変わらずにいてくれるのが〈フィールド&ストリーム〉。イイ感じの色・柄も4〜5000円でどこにでも転がっているし。実際、買い付けに行った際に他のバイヤーは“どこにでもある”からスルーしていますが、“どこにでもある”からこそ、その中から雰囲気の良いモノを選ぶのがセンスなのかなと。なんて、偉そうなこと言っちゃってすみません(汗)。
―むしろその視点こそがニュー・ヴィンテージを探すためには重要なんだと思います。
誰でも手に入るけれど、着方を工夫すればいくらでも格好良くなれるアイテムですからね。
―今回ご用意いただいたモノも生地感がイイし、正直ウンチク抜きでいくならコレで十分イケてるんじゃないかなと。
ですよね。これなんかはほぼ使用感がありませんが、ガシガシ着て・洗ってを繰り返す内に、表面が毛羽立ってきて肌馴染みも良くなってきますし、そうなったらもう手放せなくなりますよ。
―スケーター的目線が、「ヌーク」の古着選びの根幹のひとつにあると感じています。このアイテムに関してはいかがでしょうか?
実はその視点でも考えてみたんです。ぼくらの世代だとアンドリュー・レイノルズとか思い浮かびますが……「◯◯っぽい」とか言えないくらいあまりにもみんな普通に着ていて(苦笑)。昔からスケートボードのビデオを観ていると、東海岸も西海岸も、さらには時代を問わず、スキルだけでなくファッションも格好いい海外スケーターがさり気なく着ているアイテム=ネルシャツって感覚ですかね。
―ご自身の若い頃って、ネルシャツはどのように着ていましたか?
90年代の話なので、それこそグルッと一周していまのノリ近いのかな。バギージーンズに大きめのネルシャツを羽織ったり、その下にフーディを重ねたりとか。同じシャツでもブロード生地だったりキレイめのモノと違って、ネルシャツは脱いでバッグに突っ込んでも問題ないっていう実用性もありますし、羽織るだけでなく、腰や肩に巻いたりとかも出来る。むしろその着やすさが、こなれた感じもあって格好いいみたいな。
―いまならどんな着方がオススメですか?
前回紹介した〈リーバイス®︎ スレイツ®︎(Levi’s®︎ Slates®︎)〉なんかの太めのスラックスとかどうでしょう。で、ネルシャツの下にはサラッと無地Tシャツを。とか言いつつ、〈ディッキーズ(Dickies)〉の874でも良いし、王道のブルージーンズは言わずもがな。要は“好きなように着てください”って感じで(笑)。
木野山 佳之 / NOOK 店主
大学卒業後、紆余曲折を経てスケートボードショップ「ホーク(Hawk)原宿」で約2年間働いた後、古着屋「ループ(LOOP)」大宮店→中目黒店で合計7〜8年間勤め、2011年に独立。自身の古着屋「ヌーク(NOOK)」をオープンし、2015年に都立大学駅徒歩5分の場所に移転リニューアル経て、今年11年目に突入。業界関係者にファンが多く、ジャズのフリースタイルセッションのように、誰もが自分のスタイルで自由に合わせることのできるグッドレギュラー古着&セレクトアイテムが店には並ぶ。
インスタグラム:@nook_toritsudai
公式サイト:https://ameblo.jp/nooker/