辺境から辺境へ。世界所狭しと、己の琴線に触れる被写体を求め、さすらい続ける写真家の名越啓介。
新作の写真展のタイトルは『DUNE』。
2023年2月から約1か月にわたり、アルジェリアのオアシスであるジャネットをスタート地点としたサハラ砂漠にて撮影を敢行。サハラ砂漠に住む遊牧民として知られるトゥアレグ族とともに砂漠を彷徨い、生活をしながら撮影した写真群が約20点展示されます。
トゥアレグ族といえば〈エルメス(Hermès)〉にも採用されたシルバーアクセサリーや、グラミー賞を受賞した砂漠のブルースバンド「ティナリウェン(TINARIWEN)」を通じて、その名を耳にしたことがある方も多いかと思います。
ただ、トゥアレグ族の伝統や彼らを取り巻く状況について深く知る人は少ないのが現状です。
フランスによる植⺠地時代に引かれた国境線は、トゥアレグ族の故郷を分断しました。そして2014年以降、彼らの一部は領土奪還のために戦士となり、現在も紛争が続いています。特にマリでは戦闘が激化し、ロシアのワグネル部隊によるドローン攻撃などで多くのトゥアレグ族の命が落とされているという現実があります。
2024年8月、名越のもとにトゥアレグ族から一通の写真付きメールが届いたそうです。
時が止まったかのような美しい砂漠の風景のなか、ラクダとともにゴザを引いて焚き火を囲む遊牧民の日常でした。ただそこには、うつ伏せになっている彼等とラクダの脇に流れる大量の血も写っていました。ドローン攻撃の爪痕がまざまざと記録されていたのです。
世界各地でやむのことない紛争。その場所でたくましく生き抜いているトゥアレグ族の姿に、名越は何を感じ、どんな思いでシャッターを切ったのでしょうか。
本展は、日本人の美的感覚に影響を与え続ける理念の一つである「幽玄」と、トゥアレグ族の生き方や砂漠の風景の共通項に焦点を当てた展示となっています。
また、本展では〈スイコック(SUICOKE)〉とコラボレーションした写真集も販売いたします。
以下〈スイコック〉からのコメントとなります。
SUICOKEは毎シーズン、さまざまな都市の風景や文化とプロダクトをリンクさせ、撮影したものを形に残すコレクション オブワークス LANDSCAPEを制作しています。写真集 『TUAREG』は「世界の残すべき文化を写真におさめたい」とう共通の想いから始まったプロジェクトであり、SUICOKEチームも撮影に同行、本の発行にいたりました。 名越さんのフィルターを通して感じることができるトゥアレグ族の今を多くの方々に見てもらえると幸いです。
さらに、とある研究機関とともに、写真史上初の試みが行われました。
熱、温度の変化によって、写真が浮かび上がったり、消えたりするという特別仕様の作品1点が展示されます。
こちらはその変化の様子を克明に記録した、動画から一部を抜粋した写真となります。
最後に、本展開催に寄せた名越のコメントをご紹介させてください。
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砂の惑星
ゆっくりと歪みながら沈む太陽の
逆側に姿を見せる巨大な月。
紅く燃えるあの境界線の
向こう側にはもうあの場所はない。
いつか再会できる日を信じている。
口の無い旅人は心に話しかけた。
ひとりの遊牧民が
砂の上にある記号を
描きながら話しだす。
目の前の砂漠は
間違いなく我々の土地だ。
この砂こそが故郷。
見上げると夜空と地面が
ひっくり返り
衛星が逆流していくのが確認できた。
あの地平線にゆっくりと蠢く
漆黒のあの点
一体何者だ……
名越啓介
名越啓介写真展 「DUNE」
期間:2025年2月11日(火)〜2月22日(土)
会場:Gallery5610
住所:東京都港区南青山5-6-10
時間:11:00〜18:00
※最終日は16:00まで
公式ホームページ
写真集「TUAREG」
部数:限定500部
金額:¥3,850
装丁:ハードカバー
サイズ:B4変形(235mm×303mm)
頁数:80ページ
発売元:株式会社ORGY
※名越啓介サイン入り
名越啓介
1977年奈良県生まれ。大阪芸術大学卒。19才で単身渡米し、スクワッターと共同生活をしながら撮影。その後アジア各国を巡り、2006年に写真集『EXCUSE ME』を発表。世界の辺境の地域やマイノリティーなコミュニティーに入り込んで、寝食を共にしながら撮影をするスタイルを続ける。写真集『SMOKEY MOUNTAIN』『CHICANO』『BLUE FIRE』、はじめて国内を題材にした『Familia 保見団地』では『写真の会』賞受賞。 2023年公開映画「ファミリア」(成島出監督・役所広司主演)の原作の一部となった。2019年8月『バガボンド インド・クンブメーラ 聖者の疾走』、2021年には『ALL.』をリリース、最新写真集では主に自身の祖先の土地を撮影した『よあけ』(2023年)を発売。