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Ray and LoveRock「写真を撮る人」Ray and LoveRock(れい あんど らぶろっく)写真を撮る人、ファッションエ ディターでもある人。フツウの人ではありますが、生きることはどちらかという と下手です。文章もロックンロールしていければ良いなぁ。「ものや写真、少し はカルチャーのことなんかを書いていきたいですが、お酒のこと、下ネタも好き なんで、お付き合いください」http://blog.livedoor.jp/rayandloverock/

紙飛行機で宇宙旅行。 --ものについて。時々酒と、下ネタと。--

Ray and LoveRock
「写真を撮る人」
Ray and LoveRock(れい あんど らぶろっく)写真を撮る人、ファッションエ ディターでもある人。フツウの人ではありますが、生きることはどちらかという と下手です。文章もロックンロールしていければ良いなぁ。「ものや写真、少し はカルチャーのことなんかを書いていきたいですが、お酒のこと、下ネタも好き なんで、お付き合いください」

http://blog.livedoor.jp/rayandloverock/

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殺人者になる夢。『犯罪』という短編小説。

2012.07.02

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 ある日の夢の中でのお話。

 世の中が突然腐敗しきって、人々は誰もが寒々しいまでの心になっていて、自分だけよければ、何をしてもいい、そんな荒んだ状況と化していた。

 そして、われわれは狙われた。いや、誰もが狙われていたのだ。殺人者――それは、もはや殺人犯ということもできない。なぜなら、殺人を裁くシステムが機能していないからだ――は殺人者を殺そうとし、その殺人者はまた、殺人者を殺そうとする。そしてまたその殺人者が殺人者を......。

 そう、「としまえん」にある、ニューヨークから1960年代に日本に来たヨーロッパのエレガントな回転木馬「エルドラド」の中みたいに、狭い場所で殺人と略奪が繰り返された。ただし、まったくエレガントではなかった。

 働くものもいた。十分な収入を得ることは難しかったけれど、ささやかに暮らしていくことはさほど難しいものではなかった。

 略奪と殺人さえなければ。

 そして、迫り来る魔の手。ささやかに生きていくことしかできない、ささやかな村に、ささやかに暮らす人々から、すべてを奪おうとする魔の手。

 巡り巡って、その略奪する側が近い将来生きていくことを阻むかもしれない、ささやかな糧とその未来を紡いでいく生産者の命さえ奪おうとする。

 理不尽? そんな言葉に力などない。そもそも理に叶う根本が欠落しているのだから。

 抑止力が何もない場面での、人間の愚かさと退廃、利己主義のエッセンスのような

暴力が目の前に広がっている。

 

 そこでおれ登場、である。

 今までハードボイルドな文章が根底から崩れていく、そんな登場シーンはこんな風だった。

 「また、人を殺さないといけないのか......」犯罪_.jpg


『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ , 酒寄 進一


 

 すでに登場したばかりのおれにおれが質問、っつーか、いつおれ、人殺したんだ???

 そんな疑問を残したまま、とばりが降りて夢終了。

 人間、どれだけ善良に生きていても、犯罪を犯してしまう可能性は否定でない。むしろ、善良であるがゆえに、また、人を愛すがゆえ、人を助けたいがゆえ、その善良な心が犯罪を誘導することもあるだろう。 犯罪のない世の中があり得ないように、犯罪を起こさない(100%)人間など存在しないと思うのだ。

 この『犯罪』に描かれた人間模様は、短編ならではのそれぞれに色を持っている。だが、どこかに共通するところは、善良な市民なればこそ、真面目であればこそ、良い行ないが裏目に出る、そんな雰囲気が漂う。狡賢いのもあるけれど、それはそれで人間味があふれている。時にペーソスたっぷり。時にほっとしたり。時に犯罪を深く考えさせられる。そんな短編集のこの本、おすすめです。

 実は、自分で買ったのではなく、年下のアニキことTakahiro Miyashitaが二人飲みのときプレゼントしてくれた。

 彼はまだ読んでいなかったのだが、「これは面白い(はず)」といってぼくにくれたのだけれど、本当に面白かった。

 「ドイツでの発行部数四十五万部、世界三十二か国で翻訳、クライスト賞はじめ、数々の文学賞を受賞した圧巻の傑作」(アマゾンより)。日本では本屋大賞も取っているのだが、それでも、Takahiro Miyashitaはまるでエスパーではないか? と思うときがある。

 センスといえば、それまでなのかもしれないけれど。