第五十八回犀。
鎌倉で「ロングトラックフーズ」を主宰しているUさんが、以前赤坂で洋書屋さんを営んでいた。ぼくが20代の頃だからずいぶんと昔の話だ。店名はたしか「ハックルベリー」。植物名からとったというより、書店であるからマーク・トゥエインの作名からだろう。
時代はバブルの真っ最中。
ぼくは毎日のように会社が契約してくれている個人タクシーに乗り、リースや打ち合わせで都内を駆け巡っていた。時間が空いたときここにたまにふらっと寄ると、いつもUさんが対応してくれた。
あるとき、Uさんからこれいいよと手渡されたハードカバー写真集がある。パラパラめくり、なにかが駆け巡るものを感じた。そこからぼくとピーター・ビアードの縁が始まる。
署名は『The End of The Game』。ケニアに移住した彼が、乱獲されるアフリカ象や野生動物たちとの関係をまとめたもの。環境保護にいまほど熱心でなかった頃である。先駆的な取り組みだ。
そこから彼のことに関心が向き、関連書籍を買い漁った。すでに絶版になっているものも多かったが、運良く家の近くの古書店などで見つけたときなどは、早く家に帰って読みたいと駆け出したい気持ちになったものだ。
それからしばらくして、ロケの仕事でロスアンゼルスにいくことになった。まずはひとりで渡米し、コーディネーターとロケハンに向かう。
広いロスアンゼルスのあちこちをクルマで駆け巡ながら、いろんなことを話した。いまはコーディネーターをしているけど、その昔彼はパン・アメリカン航空の地上スタッフをしていたそうで、アップグレードされるのはこんな客だ、なんて裏技を聞いたりした。
ブルース・ウェーバーに仕事をお願いできないかなんて話から、写真の話になり、空いた時間にラブレアの写真ギャラリーに案内してもらった。そこで初めてピーター・ビアードの生の写真というか、アートワークされた作品を目の当たりにし、衝撃を受けた。
1960年代頃に撮影されたネガをプリントしたものに、氏が自身で牛の血やインクでイラストや文字などを描き加える。誰の作品とも似ていないまるきりのオリジナル。
すばやくギャラを計算し、この仕事で得られる報酬を天秤にかけ、そのすべて(足りなかったけど)で2作品を手にいれた。
数年後、今度はニューヨークの常設回顧展でたまたま本人に会い、その場で作品のリクエストを出して、特別にぼく用に新たな図案を描いてもらった。これはいまでは家宝である。
2004年にこの会社を改名し、株式会社ライノとした。ライノ、つまり犀である。自分の苗字との単なる語呂合わせ。ずいぶん前に亡くなったロンドンのスタイリスト、レイ・ペトリが率いるチームが「バッファロー」だったことも思い出しながら。
名刺には犀のピクトイラストが入っているし、会社の一階には〈オメルサ〉の犀の革置物も置いてある。世界どこへいっても犀に関するものに関心が向く。しかしピーター・ビアードの犀の作品はまだ手に入れてない。
2年前だか、久々にラブレアのギャラリーを再訪した。そして聞いたところ一枚だけ犀の写真があった。価格は当時の6~7倍! 逡巡したが諦めた。
しかし後悔する出来事が今年の春に起こった。ピーター・ビアードの訃報だ。
アートに詳しい友人に聞くと、これで一気に価格が上がるという。もう手が出ない。
なんだか世界的にアートブーム。ここ東京でもトップクリエーターの最近の話題は「予約の取れない寿司屋」からアートに変わってきた。今後どれだけインフレするんだろう。
自己所有の作品? 投機目的ではなく、純粋に好きで入手したものだから、手放すつもりはまったくない。それでもどうしても、金に糸目はつけんよ、という方がいるなら ――― 相談してください(笑)。

サイ チャーム ¥33,500+TAX、ペンダントチェーン ¥12,500+TAX
〈ティファニー〉が自然との力強いつながりを大切にし、野生動物保護を支援するために2017年に立ち上げた、「Tiffany Save the Wildコレクション」のスターリングシルバー製のチャーム。本コレクションでは、売上利益の100%を野生動物保護ネットワークに寄付しており、これまでにゾウ、サイ、ライオンの保護のために800万ドル以上を寄付しています。
PROFILE

フリー編集者を経て、スタイリストらのマネージメントを行う傍ら、編集/制作を行うプロダクション会社を立ち上げる。2006年、株式会社ライノに社名変更。
ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク
電話:0120-488-712