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COLUMN

文・大島依提亜(おおしま・いであ)

これは、グラフィックデザイナー大島依提亜さんの映画のコラム。映画の周辺をなぞりながら、なんとなしに映画を語っていく、そんなコラムです。懐かしいものから、いま流行りのものまで、大島さんの目にとまった作品を取りあげます。第四回目は、そういえばよく見るあの黒い麺について。まさか韓国映画の記号のひとつだったなんて……。

episode.4 韓国映画の黒い麺

韓国映画を観ていると度々登場する黒い麺がとても気になる。

が、妙な予感が働いて、「チャジャンミョン」という名前であることと、中華料理のジャージャー麺から派生したものらしいということ以外は、深く掘り下げていない。いつか本格的なチャジャンミョンを、できることなら本場韓国で食べるまで、映画を観て想像するだけに留めておいた方が愉しいと思ったからだ。

映画やドラマでよく登場することから、韓国ではごく一般的な食べものだと思うのだが、あの黒々とした麺はなかなかのインパクトだ。

この黒い麺は、その一般性と見た目の異質さから、韓国映画における小道具として効果的に使われる場合が多い。

時に、韓国映画はシリアスとユーモアが同居しているという特徴がある。何か禍々しい事態が進行しているかたわらで、脱力するような日常が並行して描かれたりする。その深刻なパートとユーモアのパートの緩衝材として、あるいはスイッチングとしてチャジャンミョンがしばしば用いられる。

韓国ノワール(=“黒”だけに相性抜群)でいえば、ほとんど拷問すれすれの取り調べをしていた刑事と容疑者が、場面が変わると和気あいあいとチャジャンミョンを食べていたり(『殺人の追憶』2003)、能天気にチャジャンミョンを食べる義理父、その食卓が彼への残酷な復讐の舞台に暗転したり(『チング 永遠の絆』2013)、シリアスからユーモア、ユーモアからシリアスへ、チャジャンミョンを通して縦横無尽に行き来する。

黒い食べ物としてのユーモアと、黒さそのものの不穏さがチャジャンミョン自体に内在されている点も明暗として機能しやすいのかもしれない。

あるいは、空想から現実へと引き戻されるきっかけとしてチャジャンミョンが登場し、食べながら語られる夢との対比で、より現実性が強調される食事シーン(『オアシス』2002)や、子供の霊に乗り移られた青年を表現するために、口のまわりを黒々させながら食べる子どもっぽいしぐさの演出として使われたりと(『ハロー!?ゴースト』2010)、チャジャンミョンを介して現実と非現実がより浮き彫りにされる場合もある。

ある作品では、フライドチキンが食べたいと駄々をこねる孫に対して、手料理のサムゲタン(茹で鶏)を作るものの、さらに機嫌を損ねられてしまう祖母が、孫との折り合いをつけるのはチャジャンミョンであった(『おばあちゃんの家』2002)が、若者と老人のジェネレーションギャップの溝を埋める食べ物として登場するのをみると、老若問わずの国民食としての立ち位置が垣間見れる。

しかし圧倒的に多いのが、巨悪に立ち向かう検事や刑事というシチュエーションではないだろうか。チャジャンミョンを食べようとする度に、腐敗した警察権力(『1987、ある闘いの真実』2017)やマスコミ(『殺人の告白』2012)の邪魔が入るが、時に「麺がのびちまったじゃねえか!」と悪態をつき(『1987、ある闘いの真実』2017)、時にチャジャンミョンをぶちまけ(『殺人の告白』2012)、悪に屈することなく、チャジャンミョン片手に争ってきた。

検事といえば、ファン・ジョンミン扮する熱血検事が、殺人の濡れ衣を着せられ服役する刑務所で食べるチャジャンミョンも印象的だ(『華麗なるリベンジ』2015)。

俳優としてのファン・ジョンミンとチャジャンミョンは何かと相性がよいらしく(韻も踏んでる)、他の作品でも高利貸しの取り立て屋の役でチャジャンミョンを食べていて、事務所で食す日常の風景が日頃の素行と対照的に描かれていて素晴らしい(『傷だらけのふたり』2014)。何よりも両作とも食べっぷりの良さが見ていて気持ちいい。ファン・ジョンミンとチャジャンミョンのコンボは作品としても傑作が多い。

ちなみにこの『傷だらけのふたり』に出てくるチャジャンミョンは色といい艶といい、映画の中で出てくるものとしてはベストチャジャンミョンだと思う。美味しそうという点では『彼と私の漂流日記』(2009)に出てくるものだが、『パラサイト 半地下の家族』(2019)でも出てきた「チャパグリ」というインスタントラーメンのアレンジ料理らしいので次点とさせていただく。

食べたこともないのに何を偉そうにと言われそうなので、映画をみて推測したチャジャンミョンのレシピを考えてみた。あくまで想像上のレシピです。

『チャジャンミョン』Mk-3(←3回試した)

材料(2人分)
生うどんまたは半生パスタ…200~280g ※1
にんにく…1片
しょうが…1片
玉ねぎ…小1個
豚バラ ブロック…120g

A
甜麺醤…大さじ2 1/2
黒ねりごま…大さじ1
オイスターソース…大さじ1
老抽王…大さじ2 ※2
紹興酒…大さじ2
黒糖…小さじ1/2
黒酢…大さじ1
水…50cc

黒胡椒…少々
塩…少々
ごま油…大さじ1
たくあん…4切れ

※1 見た目が似ている麺ならなんでも。
※2 中国醤油。とにかく黒い。

手順
1. にんにく、しょうがはみじん切りにする。玉ねぎは1cmの角切りに。豚バラ肉は0.5cmの角切りにし、塩、胡椒をふる。
2. フライパンにごま油を入れて、豚肉を炒め、白くなってきたら玉ねぎを入れる。玉ねぎがしんなりしてきたら、Aの材料を全て入れ、ひと煮立ちさせ、水を入れる。
3. 適度なとろみで煮詰めて、茹でた麺に載せる。
※余ったタレをご飯にかけて食べても美味しい。

※今回、チャジャンミョンの出てくる映画をTwitterで募集したところ、沢山の方々からご教授いただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

PROFILE

大島依提亜(おおしま・いであ)
グラフィックデザイナー・アートディレクター

栃木県出身、東京造形大学卒業。映画まわりのグラフィックを中心に、展覧会広報物や書籍などのデザインを生業としている。主な仕事に、映画は『パターソン』『ミッドサマー』『旅のおわり、世界のはじまり』、展覧会は「谷川俊太郎展」「ムーミン展」、書籍は「鳥たち/吉本ばなな」「小箱/小川洋子」がある。

INFORMATION

今月の2本

『1987、ある闘いの真実』(2017)
監督:チャン・ジュナン
出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ソル・ギョング、カン・ドンウォン他            

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『傷だらけのふたり』(2014)
監督:ハン・ドンウク
出演:ファン・ジョンミン、ハン・ヘジン他

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出演:ファン・ジョンミン、ハン・ヘジン他

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