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古着サミット8 好事家たちの古着放談。
Houyhnhnm Vintage Summit.

古着サミット8 好事家たちの古着放談。

業界屈指のヴィンテージアディクトたちによる恒例の古着放談『古着サミット』もいよいよ第8弾。令和初にして2010年代最後を締めくくる今回も、今野智弘、栗原道彦、藤原裕、阿部孝史のレギュラーメンバー4名をお迎えし、いままさに彼らが惹かれるアイテムはもちろん、国内外での気になるプレミアバリューまで、現在進行系の古着の世界を、いつも以上にマニアックワード全開でお届けしちゃいます。

  • Photo_Toyoaki Masuda
  • Text_Takehiro Hakusui
  • Edit_Yosuke Ishii

第三講 藤原 裕

「家族お揃いのファースト。
ようやくキッズサイズを手に入れました。」

LEVI’S 506XX

藤原:ひとつめは〈リーバイス〉の「506XX」、いわゆるファーストと呼ばれるデニムジャケットを。家族お揃いで着れるように、自分のものと(写真左)、妻のもの(写真中央)、それと息子のもの(写真右)の3着を揃えました。

阿部:家族お揃いはすごいね。ただでさえファーストなんてなかなか無いのに、レディースやキッズを探すのは大変そう。年代はすべてバラバラなの?

藤原:はい。シンチバックを見ると分かるんですが、息子のものが1番古くて1930年代、次いで自分のものが1941年頃、そして妻のものが1947年代ですね。いまうち(ベルベルジン)でも、Gジャンブームと言い切ってしまっても差し支えないほど、デニムジャケットの需要が伸びていて。特にサイズ40オーバーとなると、価格も大変なことになっています。

阿部:やっぱり特にTバック(背面の中央でデニム地を接ぎ合わせたビッグサイズならではのディテール)は変わらず高いの?

藤原:そうですね。もちろん色落ち具合にもよりますが、今日ぼくが持ってきた私物ぐらいの濃さなら200万円くらいしちゃいますね。

今野:ええ。200万!?

藤原:はい。最近はウチでもほとんど出せてない、と言いますか、とにかく玉数が少ないので。この間、久しぶりに都内のショップでTバックが出たらしく、それをウチの常連さんが買って後日見せていただいたんですが、それは中でも特に大きなサイズで50オーバー。54とか56とかあったんじゃないかと。

今野:そんなにデカイのもあるんだ?

藤原:パッチは欠損していましたが、おそらく「506XX EEE」表記だったと思います。

今野:「506XX E」の場合、サイズはどれくらいなの?

藤原:年代によって多少の微差もあるようですが、現段階では「506XX E」が44~46、「506XX EE」が48~50、で、おそらく「506XX EEE」が50オーバー、さらに特注品だったと考えています。

阿部:カタログにはEEまでしかないの?

藤原:そうですね。大戦中は48、戦後は50までしか掲載されていないんですよ。

栗原:ファーストとかセカンド(507XX)ってサード以降と違ってフロントにプリーツがあるじゃないですか。この間会ったアメリカ人のディーラーが言ってたんですが、当時はこのプリーツを留めているステッチを切ってサイズ調整をしていたって説があるみたいですね。

阿部:へえ。なるほどね。

今野:だから切れてる個体も見かけるワケね。確かにシングルニードルで1周してるだけだしね。

藤原:その説も確かにあるみたですね。でも、個人的には切れてない完品がイイですね。

栗原:それはもちろんそうだけど。

藤原:ここに関しては、切れていたり、糸抜けしたりしていた場合、どんだけ糸を厳選して針目を合わせても後から縫った感じが絶対出ちゃうんですよね。

栗原:そうなんだよね。

藤原:まあ、とにかくファーストにしろ、セカンドにしろ、最近はホントに出てこなくなってきましたし、出たとしても価格が尋常じゃなく、今後はもう上がる一方なのかなと。

阿部:今野くんとかはこの辺あまり興味ないの?

今野:一応、大戦モデルを2着持っています。もう何年も着ているんですが、裕くんみたいな色が濃いのはないですし、いまみたいに100万アップとかだったらまず手を出さないですね。

栗原:まあ、そうですよね(笑)


「Gジャンが盛り上がってるいまだからこそ、
ファーストやセカンド以外にもフォーカスしておきたい。」

LEVI’S 70505E & 71205E

藤原:2つめもGジャン続きで、同じく〈リーバイス〉の「70505」と「71205」のカスタム仕様です。

阿部:「71205」は「70505」のロングモデルだよね?

藤原:はい。やっぱりロングの方が、いまは着やすいですし。

栗原:昔は年代的な背景もありましたが「70505」が着丈が長いってことで、その前身となる「557」(サード)の方が短いしイイって風潮だったのが、いつしか長い方が着やすいって流れになり、裕のはさらにそのロングなんで、時代の変化を感じますよね。

今野:確かに。まあ、また短い方がイイって時代が来るのかもしれないけど。

阿部:ボディもさることながら、ワッペンがイイよね。全部当時のオリジナルみたいだし。

栗原:アメリカ人のセンスにしては珍しくダサいものが混ざってないですよね(笑)。

藤原:そうですね。ネタがエロだったり、ドラッグだったり、若干教育上良くないとも思うので、子供の前ではちょっと着づらいんですが(笑)。一方、チェーンステッチの方も’90年代だったら10万円とかザラでしたけど、最近は逆に人気薄で手に入れやすいってものありまして。まあ、背面刺繍がなく、前身頃だけなので中でも着やすいのを選んでますが。

阿部:実際に着てるの?

藤原:はい。ただ、この辺はセットアップだとコッテリなりがちなので、合わせはなるべくキレイなものを選んではいますね。

阿部:この辺も日本よりアメリカの方が評価が高そうだよね。

栗原:ですね。やっぱりアメリカだとビッグEってだけで色程度関係なく200ドルくらいつけてる古着屋がほとんどですし、いまでも刺繍入りの方が評価が高かったりするので。とはいえ、その値段で売れてるかっていったら全然売れてはいなくて毎回残ってるんですけど。若いディーラーからしてみれば滅多に見つからないものなんで、しょうがないといえばしょうがないんでしょうね。

阿部:中でもロングの方が高いの?

藤原:そうですね。ただ、それは日本人の間での話ですが。

栗原:確かに〈リー〉でもロングの方が日本では人気あるしね。

藤原:まあ、何より久しぶりにGジャンが盛り上がっているので、何十万も何百万もするファーストやセカンドだけじゃなく、この辺もフォーカスしておきたいなと。


「デッドストックから洗わずに毎日穿き続けて出来上がった鬼ヒゲの501。」

501 66 MODEL

藤原:3つめも〈リーバイス〉つながりで、「501」66モデルです。この(色が)薄い方は中古で手に入れたんですが、濃い方に関してはデッドストックから毎日穿き続けたらどんな色落ちをするのか検証も兼ね、糊付けから全てゼロからぼくだけで育てたもので。

今野:いわゆるオニヒゲってヤツだね。どれくらい穿き続けたの?

藤原:1年7ヶ月です。今日持ってきた2本、表記上では全くの同サイズなんですね。中古の方は前任が普通に洗って乾燥機をかけたり、いろいろしていると思うのですが、ぼくが育てた方は毎日穿き続けていたので逆に生地が伸びて全体的にサイズアップしていて。

阿部:やっぱり毎日穿くと伸びるんだね。

藤原:はい。最終的には熱湯で洗ったので少しだけ縮みましたけど、もともとW34表記が洗う前はW35まで伸びていましたね。

今野:サルファ(硫化染め)が施されてる時代だよね?

藤原:’74年ですが、「501」は採用されていません。

今野:じゃあ、生機だから伸びるんだろうね。サルファっていつから採用されたの?

藤原:「501」だと’76年くらいからサルファの生地が使われてようになり、色の濃さが変わってしまいます。よく、“66”前期と後期の色落ちが違うと言われるのは、そういった理由からですね。また、“66”モデルは’70年代後半までは6ボタン(トップボタンの裏にある刻印が6のもの)ですが、たまに16ボタンも見つかります。これに関しては’75年辺りが多いですかね。

栗原:それ以前の方がやっぱり色も深いし、独特な風合いがあるよね。

阿部:休みの日でもない限り毎日穿いていたいのは知ってるけど、何か特別なこととかしてたの?

藤原:通勤でピストバイクに乗っていたのと、酔っ払ってラーメンを2回ぐらいこぼしたくらいですかね。

阿部:えっ?:それでも洗わなかったの?

藤原:はい(笑)

栗原:それはさすがに洗おうよ(笑)

藤原:いやいや、先にも話したようにあくまで検証でもあって、ウチの常連さんたちからも仕上がりを見たいという声が多かったので。

阿部:洗った時はやっぱり色落ちした?

藤原:ヴィンテージデニム用の「ビヨンデックス」という洗剤を使ったので、黒ずみやラーメンの汚れはしっかり落ちましたが、インディゴの退色はほぼなかったと思います。

阿部:で、もうそのジーンズは穿かないの?

藤原:一応は検証結果として、しばらくはお店に展示している感じですね。

阿部:欲しいっていう人いたでしょ?

藤原:20万円で売って欲しいって方はいましたね。

今野:25万円だったら売ってたでしょ?

藤原:30万円なら。

今野:リアルだなぁ(笑)

一同:(笑)


「多くのバリエーションが存在する奥深きYALEのリバースウィーブ。」

CHAMPION REVERSE WEAVE YALE PRINTED

藤原:最後は〈チャンピオン〉の「リバースウィーブ」、しかもイエール大学の’80sと’90sを1点ずつ持ってきました。以前はウチの社長(『古着サミット7』参照)がイエールものを集めていたので、ぼくが手を出しづらい感じがあったんですが、最近はあまり興味がないみたいで(笑)

阿部:山田さんの「Y」ってことかな?

藤原:そういうワケでもないみたいですが、ぼくの場合は一応、裕の「Y」ってことで。ただ、集め始めたらなかなか出てこないんですよね。今日持ってきた以外にも前身頃だけに「Y」のイニシャルがプリントされた通称フロントYというモデルもあるのですが、その辺も気づいた時はすでに4万円前後まで高騰していて…。

阿部:この前身頃YALE、背面Yのヤツ、この間某オークションサイトで24万円で売れてたよ。

藤原:まあ、さすがにそれは高過ぎますけど、前YALE、背面Yの両面プリントはクルーネックのスウェットのみでパーカにはない仕様なので、欲しい人は欲しいんでしょうね。

今野:前Y、背面YALEの、逆の仕様もあるよね?

藤原:人気はさておき、そっちの方が珍しいとは思いますね。

阿部:あれはイレギュラーなのかな?

今野:リバースウィーブって前後にほぼ差寸がないんですよ。だから単純に見間違えてプリントしちゃったものだと思うんですよね。

阿部:でも、タタキ(タグの四辺が縫着された通称タタキタグ)でも見たことあるんだよね。

藤原:他にもバックプリントのみっていうのもあって、それは今野くんの言うようにミスプリントなのかなって、ぼくも思っていて。

栗原:でも、後付け(フード一体型ではなく、クルースウェットに後からフードを縫着した通称後付けパーカ)とかだと、バックプリントだけのものも少なくないじゃない? 競技によっては背面から、例えば観客から見えるようにプリントしていたとかっていう可能性もあるような。

今野:なるほどね。

藤原:あと、このカラーリングの反転版(ネイビーボディ+白の染み込みプリント)もあって、できればそっちも欲しいんですが、高騰し過ぎてちょっと手が出せなくなっていて。

栗原:ただ、これってぼくらはもちろんやっちゃいけないんだけど、無地の目無しボディーに上手くリプリントしたらつくれちゃうってこともあって、数十万の価値があるとは個人的には思えなくて。

藤原:まあ、やろうと思えばできるよね。

今野:前に教えてもらったんですが、ランタグ(通称トリコタグへと変遷する前に非リバースウィーブモデルに採用されていたランナーズタグ。さらにブランドネームのC内部にランナーが描かれた後期タイプ)時代に通称「ブラックシリーズ」と呼ばれる、黒ボディに校名を白プリントしただけのものがあるらしくて。

栗原:カレッジカラーに関係なくってことですよね?

今野:そう。全校黒ボディに白プリントだけのものがあるみたい。ぼくがたまたまそのシリーズのハーバードの個体を持っていて、それを着てアメリカへ行った時、向こうのディーラーから「集めてるの?」って話しかけられて知ったんだけど。

阿部:へえ。そんなのもあるんだね。

今野:裕くん、ブラックシリーズのイエールも探してみなよ。そのディーラー曰くイエールもあるらしいから。

藤原:そうなんですね。今後は気にして見てみます。

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