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FEATURE
古着サミット8 好事家たちの古着放談。
Houyhnhnm Vintage Summit.

古着サミット8 好事家たちの古着放談。

業界屈指のヴィンテージアディクトたちによる恒例の古着放談『古着サミット』もいよいよ第8弾。令和初にして2010年代最後を締めくくる今回も、今野智弘、栗原道彦、藤原裕、阿部孝史のレギュラーメンバー4名をお迎えし、いままさに彼らが惹かれるアイテムはもちろん、国内外での気になるプレミアバリューまで、現在進行系の古着の世界を、いつも以上にマニアックワード全開でお届けしちゃいます。

  • Photo_Toyoaki Masuda
  • Text_Takehiro Hakusui
  • Edit_Yosuke Ishii

PROFILE

今野智弘
NEXUSVII. デザイナー

1977年生まれ。2001年 N.Yより〈ネクサスセブン〉を始動。去る11月にリニューアルオープンした「渋谷PARCO」にて新店をオープン。『AKIRA ART OF WALL Katsuhiro Otomo × Kosuke Kawamura AKIRA ART EXHIBITION』とコラボレーションしたアイテムが話題に。

PROFILE

栗原道彦
ヴィンテージバイヤー

1977年生まれ。2011年よりフリーバイヤーとしての活動を開始。古着屋のみならず数々のセレクトショップやブランドからも絶大な信頼を集める日本屈指のヴィンテージバイヤー。自身のショップ「ミスタークリーン 横浜」では新春セールを予定。

PROFILE

藤原 裕
BerBerJin ディレクター

1977年生まれ。L.A.発のデニムブランド〈ヤヌーク(YANUK)〉のアドバイザーとしても知られ、昨年6月からは自身のYouTubeチャンネルを立ち上げ、YouTuberとしても活躍。去る11月にリニューアルオープンした「渋谷PARCO」にて新店舗もスタート。

PROFILE

阿部孝史
ビームス オンラインショップ スタッフ

1976年生まれ。これまで編集・ライターとしてメンズファッション誌に携わり、多くの古着関連の記事を扱ってきた有識者。現在は自社サイトでライティングなどを担当する一方、ヴィンテージバンダナのコレクターとしても知られる。

第一講 今野智弘

「ミリタリー物か否か。10年以上前に手に入れた未見のブルゾン。」

‘50s HOWARD WICKLUND SPORTING GOODS SPORTS JACKET

今野:ぼくのひとつめは、正直なところ詳細不明なんですよね。手に入れたのは、おそらく10年以上前なんですが、この間、倉庫を整理していたら出てきたんで、みんなに見てもらって意見をもらえたらなと。

栗原:あまり覚えていないってことは、結構安く手に入れてるんですよね?

今野:たぶん(笑)。ただ、これに似た感じのミリタリージャケットを持っていて、もしかすると同じカテゴリーなのかなと。

阿部:何よりこのポケット(胸の縦長ポケット)が気になるよね。一見するとスポーツウェアだけど、このポケットがあるってことは、運動中に着るものではなさそうだけど。何用なんだろう?

藤原:ペン差しでしょうね。それに素材もちょっと変わってますよね。ボディはサテンですか?

今野:たぶんサテンだね。この〈HOWARD WICKLUND SPORTING GOODS〉っていうブランド自体は、じつは軍モノでも何度か見たことがあって。

栗原:確かにありますね。まあ、このジャケット自体も正規の納入品ではないにしろ、軍関係のものなのかもしれないですし。

阿部:スポーツじゃなくて?

栗原:〈ウィルソン〉のネイビーシリーズ(シカゴに拠点を置く古参アスレティックウェアブランドがアメリカ海軍、あるいは海軍士官学校に納入していたアパレルたち。ラガーシャツタイプのチンスト付きプルオーバーやクリアビニールのジャケット、ハットなどがあるよう)みたいに、軍で一部使用されたアスレティックウェアというか。ペン差しが付いているので、例えばコーチが着ていたとか、審判が着ていたとか。

阿部:なるほどね。年代は’40sぐらいかな?

藤原:ジップが棒タロン(棒型タロン社製)なんで、おそらくは’50sなんじゃないかと。

栗原:パッチポケットとかディテールから見ると’40sですが、確かにジップは’50sなんで’50年代初期とかですかね。この会社はもうないんですよね?

今野:おそらくいまはないと思うんだよね。(後にビル・ベアードなる地元セーラムのマイナーリーガーが従業員となり、1960年に社長に就任、同じく社名を〈Bill Beard Sporting Goods〉へと変更し、’90年代まで確認されている)

栗原:名前から察するにヨーロッパ系移民の家系だと思いますね。はじめて見るブランドです。

今野:さっきクリくんも話していた〈ウィルソン〉の方は、そんなにしょっちゅうではないにしろ、年間1、2回ぐらいは見かけるじゃないですか? でも、これは未見だったから、おそらく買ったと思うんだよね。

栗原:士官クラスの個人オーダーって線もあるのかもしれませんね。


「アートピースとしての価値も高い逸品。」

‘60s HAND PAINTED TROUSERS

今野:2つめはブランドタグはないものの、ともにボディは同じコーデュロイパンツで、おそらく記念日や式典の際に穿かれたものだと思うんですが。

阿部:プリンストンのジャケット(『古着サミット3』、『古着サミット6』を参照)みたいな感じのものだよね。このパンツって大抵ベージュのコーデュロイベースじゃない?

栗原:ですね。しかも不思議とトップスは出てこないので、おそらくパンツ単体で穿いたものなんじゃないかと。

阿部:しかも、どれも全部手描きじゃない? かといって、寄せ書きにしては画風も統一されてるし、何より普通の学生が揃ってこんなに上手なワケがないじゃない?

藤原:確かにそうですね。66と年数も描かれているので年代判別は簡単ですが、何のためにつくられたものなのか、それに実際に穿かれたものかも気になるところですよね?

栗原:チーム名とかも描かれてますね。

今野:これもそんなにしょっちゅうではないにしろ、他でも何度か見かけたことがあるんですが、不思議と穿けるサイズではなく、小さな個体ばかりで。

阿部:なんでなんだろうね? やっぱり穿く目的じゃなく、寄せ書き用のパンツなのかな?

栗原:ぼくも’50年代ぐらいの個体を持っていて、それは時代も時代なんでタックが入っていたり、もうちょっと太かったりするんですが、確かにそれもサイジングは小さめだったかと。ただ、穿かれた形跡は少なからずあるんですよ。とはいえ、どの個体もコンディションが良いので、毎日のように穿くものではなかったとも考えていて。

阿部:サイズ感からもカレッジではなく、ハイスクールやジュニアハイスクールとかの記念品って可能性もあるね。

栗原:ただ、学校関係だけでなく、組合や軍関係機関などのイラストやロゴも描かれているので、おそらくソーシャルクラブ系のパーティとかで穿かれたものなんじゃないかと。

阿部:なるほどね。

栗原:あと、この手のアイテムに関してはアメリカ本国の方が断然高いんですよ。見かけても高過ぎて手が出せないくらい。

阿部:日本では概ね4万円アップっていうイメージだけど、アメリカだとどれくらいつけられてるの?

栗原:モノを知ってるディーラーが持ってると300~500ドルぐらいするイメージですね。

阿部:ちなみに今野くんはこれ穿いてるの?

今野:はい。でも、さすがにキャラが濃いのでトップスは無地にして、しかもロングコートとかでパンツの全貌が見えないようにしますけどね。

栗原:国内外問わず、実際に穿いてる人を見たことは一度もないですね(笑)

藤原:まあ、実用は問わずとも、言わばアートピースとしての価値や面白みもありますよね。


「凝ったディテールがおもしろい
ウールメルトンの変形ジャケット3着。」

WOOL MELTON JACKET

今野:3つめはウールメルトンの変形ジャケット。ブランドや年代はバラバラですが、凝ったディテールが見られるものを何着か持ってきました。

阿部:(アンカーボタンを備えた写真中央の〈ディスカバリー〉のブルゾンタイプを指しながら)これは’80年代ぐらいかな?

今野:そうですね。

栗原:でも、フラップポケット辺りは’20年代くらいのアビエイタージャケットなんかにもありそうな仕様ですね。

今野:そうそう。前にローズボウルで購入したんだけど、出していたディーラーが旧めのグッチとかメゾン系を得意としてる方で、’80年代とはいえ結構な価格、確か80ドルとかついていて。

栗原:いや、それは安いですよ(笑)。自分だったら3万はつけるかな。ヴィンテージ云々抜きにして、服作りをしている人たちに響くディテールワークだと思うので。

藤原:そうですね。でも、ウチ(ベルベルジン)だったら80ドルでも手を出さないかな。

今野:ブランドの詳細自体は一切わからないんですが、ちょっとこれから掘ってみようかなと。続く2つめは〈マーティン〉というブランドのもの(写真左)。

栗原:このブランドは他にも結構変わったもの出してますよね?

今野:そうね。サイドレースアップだったり、個人的には好みのディテールワークが多いブランドで、柄シャツやマドラスチェックのコットンブルゾンをちょくちょく見かける印象かな。

栗原:アイビーっぽいアイテムが多いですね。

阿部:年代はどれくらいなの?

藤原:(グリッパー)ジップから判断すると’60sですかね。

今野:総じてクセが強いんだけど、特にこの身頃のポケットは面白いよね。

栗原:ですね。

今野:3つめは〈ピューリタン〉のもの(写真右)。

阿部:このプルオーバーはすごく変わってるね。

今野:変わってますよね。一般的なプルオーバーならジップがもっと短いですし、ここまで開くならフルジップにすればイイのにって思いますよね。

阿部:これも’60sぐらいかな?

藤原:おそらく’60年代後半とかですかね。

栗原:前開きのジップは無駄に長いのに、サイドスリットのジップは短くて、いろいろ中途半端な感じがユニークですよね。

阿部:これもアイビー的な雰囲気があるよね。

今野:そうですね。このブランドもさっきの〈マーティン〉同様に、襟にフードを備えたブルゾンとか、アイビーを意識したアイテムも結構見ますしね。

栗原:でも、もしぼくが今野くんの立場だったら、こういうものこそ(こういう場で)出さないと思いますね。やっぱりものづくりをしている人からすると格好のサンプルソースだと思うので。

今野:ぼくも自分で買っておきながら倉庫で10年以上眠らせていたので偉そうなことは言えないんですが、みなさんパクらないでくださいね(笑)

一同:(笑)


「用途不明の変形ジャケット。
配色からして、おそらくプリンストン大学関係のものかと。」

‘20s PRINCETON UNIV. WOOL JACKET

今野:最後となる4つめは、おそらく配色からプリンストン大学関係のブルゾンで、これもサイドレースアップだったり、バックルだったり、ディテールワークがユニークで。

藤原:’40sですかね? というのも、このバックルなんですが、ユリの刻印があったり、大戦中に〈リーバイス〉が採用していたものとデザインが全く一緒なんですよね。

今野:ただ、メッキがブルーメッキだから、個人的にはもうちょい旧いものだと思うんだけど。

阿部:確かにタグ(AMERICAN SPORTING GOODS Co.)とかも’20~’30sぐらいの面影あるし。

栗原:おそらく背面のレタード(28)は卒業年度だと思いますね。もちろん、卒業年度が記されているからといって、その前後に製造されたものとは限らないんですが、この個体に関してはほぼ同時期なんじゃないかと。

藤原:みなさんの仰る通り、フランネルの質感も確かに’40s以前ではあって。

今野:バックル自体は汎用品として’20年代ぐらいから継続的につくられていたものなのかもね。

阿部:これはどこで手に入れたの?

今野:eBayです。すごい安いワケでも高いワケでもなかったと記憶しているんですが、とにかくディテールの面白さに惹かれて。おそらくプリンストン関係だとは思うんですけど、何に使われたものかは全く見当がつかなくて。

阿部:セレモニー系かね?

今野:確かに。こんな針(バックル)がついているものを運動中に着るなんて考え難いので。

藤原:ちょっと珍品過ぎて用途までは特定できないですね。でも、ディテール満載でモノとしての迫力というか、魅力は高いですよね。

阿部:確かに。今野くんが好きそうなディテールの宝庫だよね。まあ、あと黒ベースっていうのもイイよね。

栗原:黒×オレンジって他にもオレゴン州立大学とかも採用しているカラーリングなんですが、そちらはあまり旧いものは出てこない印象なので、ぼくもプリンストン関係だと思いますね。

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