CLOSE
FEATURE
写真家山谷佑介を巡る 旅、写真集、書店、その他いろいろ。
TRAVEL,PHOTOBOOK,BOOKSTORE

写真家山谷佑介を巡る
旅、写真集、書店、その他いろいろ。

昨年の夏、自分自身をさらけ出したドラムパフォーマンスをひっさげてバンドマンよろしく欧州を旅して回った写真家の山谷佑介。その旅の模様をつぶさに記録したのが、400ページ強の大作『Doors』です。今となっては自由に旅ができなくなってしまいましたが、旅が写真、写真集、写真家に与える影響とはどんなものなのでしょうか?この度、『Doors』というひとつの作品を軸に、かねてより山谷と交流のある野村訓市、「flotsam books」の小林孝行が集まり、3人で旅、写真、書店などについて果てしのない会話を繰り広げました。

野村:一方で、俺の友達で、いつもカリカリメモを書いてるやつがいて。ようは本にするためにみんなと遊んでるわけ。俺たちと出会ったときも、「でたらめなやつに会ったぞ」みたいな風に書く気だろうって。目的がそういうことっていうのは、まぁいいんだけど、なんかつまんない気がするんだよね、いつもそうだと。もちろん今は、旅行行けるんだったなら仕事受けます、ってなってるけどさ(笑)。とにかく駆け出しの頃って、そういう気持ちがあったんだよね。ネタがないから行くとかそういうことじゃなくて、旅に行きたいから企画をなんとかして考えてさ。で、そのままだったらお金が入ってこないから、本にしなきゃなみたいな感じがいいなって思って。今回はこういうのを撮ろうって思ってるんで、なにかの仕事をくっつけて、みたいなことをしているひとにはよく会うけど、山谷くんは(クラウドファンディングで)金を集めたのに何をどうするっていうのが全然聞こえてこないから、むしろそういう方が嘘くさくなくてすごくいいなって思ったんだよ。

山谷:今回、クルマでヨーロッパを回ったんですけど、ひとには「いやぁ荷物も多いんで、自分で運転しなきゃなんですよ…」なんて言ってたんですけど、実はめちゃ楽しみで。クルマでヨーロッパを回るなんてしたことなかったし、そういうのに憧れてた。それこそ訓市さんたちがダブルデッカーで日本を回った、みたいなそういうのに憧れてたんです。

野村:それで、いわゆる旅の写真集みたいな感じにしてきたらやだなって思ってたら、良くも悪くも違ったから、やっぱり面白いな山谷くんは、って思ったんだよね。

山谷:そう言われて思いましたけど、そもそも俺自身が“撮りたいから”っていうことでいままでやってきてないんですよね。大学に行くときに東京に出てきて、卒業したあと写真スタジオに入ったんですけど、性に合わなくてやめて、さてどうしようと。で、日本のローカルが見たい、それも端っこが見たいと思って、とりあえず長崎に行ってみたんです。結局1年ぐらい住んだんですけど。

野村:師匠がそっちにいなかったけ?

山谷:たまたまそこで、東松照明という写真家に出会って。けど、そもそも彼の存在を全然知らなくて。

野村:(笑)。それも普通だったら、長崎にそういうひとがいるから行って、みたいな美しい話になるのに、知らなかったっていうのがいいよね。

山谷:当時、森山大道ぐらいは知ってたんですけど、勉強不足で東松照明は知らなくて。周りの珈琲屋のおっちゃんとかに、あのひとすごいよって言われて、それで写真を見せに行ったりして。そのあと長崎でやることがなくなったので、大阪に行こうって。友達もいるし。で、そこに1年弱住んで撮ったのが最初の写真集『Tsugi no yoru e』で。

そこに辿り着くまでに、ヨーロッパを放浪したりしたんだけど、そのときに思ったのは「あれ、海外放浪しながら写真撮ってるひと、知り合いにいたなって」。それが今日ここにいる名越さんなんですけど(笑)。名越さん、そういえばスクワットに行ってたな、なんか無料で泊めてくれるところらしいぞって。

野村:いや、要約するとそうなんだけど、スクワットは決して無料の宿泊所ではないけどね(笑)。

山谷:最初、ロンドンに行ったんです。バックパッカーのメッカだって聞いてたんで。けど、そのときがロンドンオリンピックの前年ぐらいで、国の施策でスクワットがどんどん潰されていたときで。

野村:ロンドンでスクワットがたくさんあったのなんて、もっともっと前だよ。俺が行ってたときでも、ロンドン市内にはもう残ってなかったし。サッチャーのときに始まったんじゃなかったかな。

山谷:サッチャーが一回閉めて、そのあともう一回増えたんですかね。

野村:サッチャーがいたときぐらいに始まって、オアシスとかが出てきて、景気が良くなるときにはもうほぼなかった気がする。

山谷:俺の友達は、2000年の半ばくらいに向うに住んでて、パンクスとかはスクワットとかでパーティやったてたぞって言ってたんです。それを聞いたから行ってみたんですけどね。

野村:それはロンドンの真ん中ではないだろうね。

山谷:エレキャス(エレファントアンドキャッスル)あたりにあるって聞いて、そこを訪ねて行ったら、その日たまたますごい人がいて。音楽もガンガンなってるし。おぉ、スクワットってめっちゃ楽しそうじゃんって思ったら、その日はサヨナラパーティで(笑)。みんなすごい楽しそうななか、誰とも喋らない日本人が一人いるっていう。

野村:(笑)。ロンドンでそういうのが下火になったあと、ドイツとかオランダの方が本場になってて。そのあと東ヨーロッパの方にいったんじゃないかな。

山谷:そうですね。ドイツも厳しくなって、そのあとスペインとか、ポルトガルとか、南に下っていったみたいですね。僕は2013年くらいに、ミラノのスクワットに3週間くらい泊めてもらって。そこはアナーキスト(無政府主義者)たちの場所だったから、農園をやって、動物がいて、みたいな。それで写真を撮ってZINEにして、日本に帰って友達に見せてましたね。なんかZINEってこういう感じだったよなって。それを最初に小林さんに渡しましたよね。

小林:うん、もらったもらった。

山谷:そのときも、こういう写真の撮り方っていいなって思ったんだけど、ここに超えられない巨匠(名越啓介)がいたんですよね。

名越:

山谷:この手法見たことある!って(笑)。

小林:そういうところ冷静だよね。

野村:犬の勘みたいなね。こっちいったら喰われるぞっていう(笑)。

小林:どこの国に行っても、すっと入り込めるの?

山谷:いや俺はそれができなかったんです。名越さんはそれができるんですよね。俺はずっと一人でいました。あと、ヒッピーの街でゆるくていいらしいぞってことで、コペンハーゲンのクリスチャニアにも行ってみました。

野村:クリスチャニアね。いろいろ美化されてる部分もあるよね。行く前に色々話を聞いて妄想してたんだけど、聞いてたのとはちょっと違ったかな。

山谷:そうなんですね。けど俺はあんなところ見たことなくて、そこにも3週間くらいいたのかな。毎日フラフラしてれば誰かと仲良くなって泊めてくれるだろうって思ったんだけど、結局誰とも仲良くなれずに、毎日寝袋でそのへんで寝るっていう(笑)。湖が真ん中にあってすごく綺麗なんですよね

野村:そこまで行って誰にも声をかけられないっていう、またも話が美しくまとまらないところがいいよね(笑)。普通すぐに仲良くなっちゃってそこに入れてもらって、すごい経験をして、そのときの写真がこれですってなりがちなんだけど、全然なってない(笑)。

山谷:そうなんですよね。けど根っから旅は好きですよ。そのあとアジア、インドネシアとかもちょっと回って。そこにはギターを弾いてお金をもらうようなパンクスがけっこういて。そいつらとは結構仲良くなったんですけど、でもなんか違うなって。そこから海外に一人で行く、みたいなことは少なくなりましたね。結婚もしましたし。

野村:そうだね。結婚して子供ができると非常にやりづらくなるよね。遊びじゃねえか、って言われるし。

山谷:今回は嫁を納得させるためにも、「ほら、お金ももらっちゃったし、写真集を作らなきゃいけないし」って。

野村:嘘こけ、本当はツアーに行きたかっただけだろって(笑)。

山谷:それは内緒の話だったんですけど(笑)。

野村:今は行けなくなっちゃったけど、やっぱり毎年ツアーに行きたくなるもんなの?

山谷:ヨーロッパから帰ってきて思ったのは、次はアメリカツアーかな、ってことでしたね。今はまたフツフツしてきてます。でも、この作品ってツアーをやるって決めたはいいけど、実はさてどうやってやろうかなって感じだったんですよね。バンドをやってるわけじゃないし、ブッキングマネージャーもいないし。なので、行きたい国をピックアップして、その国に知り合いがいればそのひとに頼んで、いなかったら誰かに紹介してもらって。

そういうひとたちがキュレート、コーディネイトしてくれて、この日、この場所なら押さえられたよ、っていう感じでひとつひとつ決めてくれたんです。結果、7箇所での開催を決めて行きました。向こうってアート系のクラブっていうような言い方をする場所ってあるじゃないですか。アーティストが表現もするし、DJが来て音楽のイベントもするし、みたいな場所。そういうところでやったり。あとは国際的な写真フェアに合わせてやったりでしたね。

そのなかですごく印象的だったのは、ベルリンでした。「アートベルリン」っていう世界中のギャラリーが集まるアートフェアがあって、そこに合わせて行ったんです。噂に聞くとベルリンってすごいゆるいから、ゲリラでできるんじゃないかって。で、現地のひとと話してもできそうだねってなったので、やったんです。オープニングパーティのときの駐車場で、10分間でバババって。で、終わってやりきったときに係員のひとがきて「今日アートフェアだから、ここでドラムとか叩いたらダメだよ」って話しかけてきたんです。

野村:うんうん。

山谷:それを聞いたとき、あぁベルリンすごいなって思ったんです。というのは、そのひとはずっと見てたわけですよ。いつでも止められるのに、終わったときに声をかけてきたんです。その一瞬の出来事で、ベルリンのことをみんなが良く言ってることが理解できた気がしたんです。

野村:山谷的にね(笑)。

山谷:こいつは何かをやりたいんだ、それがなんなのかは最後まで見て声をかけようと思ってくれたんだなって。

野村:見てもわかんなかったから、声かけてきたのかもよ(笑)。30分ぐらいプログレみたいなやつをやってたら、途中で声かけてきたと思うよ(笑)。

山谷:かもしれないですね。けど、とにかくその空気感がいいなって思ったんですよね。

野村:そうだね。でも日本でも許してくれるかもよ。原宿駅前でやってみようよ(笑)。

山谷:(笑)。調べてみたら、日本って建前では許可を取らないといけないんだけど、基本みんな許可なんてとってない。注意されて従えばそれでOKみたいで。で、ベルリンでのそういう経験もあったんで、このパフォーマンスはゲリラでやるのが一番いいんじゃないかって思うようになったんです。

写真を撮る側だから、いつも俺は見ていたけど、見るだけじゃなくて見られていることの両方を含めて、ひとつのパフォーマンスで表現できたらと思ってこの形に辿り着いたんで、俺を目指して見に来たひとよりも、たまたま通りがかったひとが写り込むことが面白いと思うんです。そのなかで興味があるひとだけが立ち止まる、そっちの方がいいんじゃないかなって。大きな意味でのスナップ写真というか。そんなことをちょっと思いました。

野村:いや、全然ちょっとじゃないじゃん、めちゃくちゃ考えてるじゃん(笑)。

山谷:日本国内もやりたいなとは思ってます、このご時世でどこまでできるかわからないけど。

野村:俺もパーティをよくやるんだけどさ、、、

(ここで突然、デザイナーの鈴木聖さんが登場。)

山谷:おぉ、今回の『Doors』のデザインをやってくれたデザイナーの鈴木さんです。

デザイナーの鈴木聖氏。

INFORMATION

flotsam books

住所:東京都杉並区和泉1-10-7
営業:14:00-20:00
営業日:要確認

ww.flotsambooks.com

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事#山谷佑介

もっと見る