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写真家山谷佑介を巡る 旅、写真集、書店、その他いろいろ。
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写真家山谷佑介を巡る
旅、写真集、書店、その他いろいろ。

昨年の夏、自分自身をさらけ出したドラムパフォーマンスをひっさげてバンドマンよろしく欧州を旅して回った写真家の山谷佑介。その旅の模様をつぶさに記録したのが、400ページ強の大作『Doors』です。今となっては自由に旅ができなくなってしまいましたが、旅が写真、写真集、写真家に与える影響とはどんなものなのでしょうか?この度、『Doors』というひとつの作品を軸に、かねてより山谷と交流のある野村訓市、「flotsam books」の小林孝行が集まり、3人で旅、写真、書店などについて果てしのない会話を繰り広げました。

山谷:ちょっと話ズレるかもしれないですけど、今までグラデーションのなかで生きてきたなって思うんです。仕事と休みがきっちり分かれている方が本当はいいのかもしれないけど、そうではなくてグラデーションのなかにいた方が俺は居心地がよかったんです。見ることやること全てが作品につながる感じというか。けど世の中って極端だから、今回のコロナでも「世の中の常識が全部切り替わったぞ」みたいな。本当にそうかなって? そもそも今まで通常とされていたことが、本当に通常だったのかさえ、もうわからないし。

野村:そうだね。

山谷:で、自分に子供が生まれたら、自分と他者ということをすごく意識するようになったし。全ては流動的だと思うんですよ。最近は住む場所についてもすごく考えるようになったし。田舎に生まれたんで、やっぱり自然があるところの方が居心地がいいんですよね。

野村:うん、住むところについては考えるようになったね。というのも、俺は飲み歩くのが好きなわけ。友達が近くにいてすぐ集まれるのが好きだから都心に住んでる。飲み屋から歩いて帰れるのが最高で、そのためにおカネ払ってたわけだけど、集まっちゃだめだとかそういうことになってくると、もう前提が違うぞって。

山谷:俺もこのへん(代田橋周辺)にしかいなかったですね。けど、最近俺、家買ったんですよ。

野村:まじで!

山谷:はい。横須賀に買っちゃいました。今まで自分がやってたことを拡張していって、もっと自分の都合で動いていきたいなと。で、それはどこに住んでもできるのかなって。

野村:へー、じゃぁこれから横須賀に住むの?

山谷:はい。来年の3月くらいから。

野村:あ、随分先じゃない。

山谷:そうですね。中古物件なんで自分たちでリフォームしようと思ってます。図面を描ける友人がいたので、一緒にああだこうだいいながらやってます。で、俺は大工の見習いみたいな感じでやろうかなって。

野村:すげえな。俺なんて家とか何も持ってないのに。資産がない(笑)。

山谷:いや、こちらも資産価値は全然ないんですけど、100坪くらいあるんで、やりがいはありますね。

野村:100坪!? まじか。

山谷:葉山とか行っちゃうとすごい高くなるんですけど、横須賀だと一気に安くなるんですよね。俺、横須賀の空気が好きなんですよ、ゲットー感が残ってるっていうか。外国人がいてもブルーカラーしかいないし。あと米兵とか。なんか全部が新鮮なんですよね。あと自分の家を変えるっていうのが、旅と同じような感覚だなって思いました。

野村:いや、お前は守りに入ったぞ。

一同:

野村:そんなに美しいもんじゃないぞ。それは旅じゃない。ローンの旅だ(笑)。

山谷:制約の中での自由です(笑)。いやでも、一発当てたらすぐ返せるぐらいの金額ですよ。下手に都内で5~6000万の家のローンは到底背負えないので。

野村:数字が妙に具体的なんだよな(笑)。

小林:すごい調べてるんですよ。

野村:さっき聞いた、妙に冷静なところがあるってのがこれだな?(笑)

山谷:物を作るうえで、何かやりたいっていう欲求はずっとあるわけですよ。で、今はこういう時代だし時間もあるから、大工なんてしたこともないし何にも知らないけど、家も自分で作ってみようっていう。そんで建築家とか歴史とか調べてみたら、これがまた沼で。めちゃくちゃ面白いですね、建築の世界は。やりようによっては、これがまた写真集になるじゃんって(笑)。

野村:あとは『カーサ ブルータス』とかに売り込まないと(笑)。

山谷:たしかに(笑)。けど、今までの変わらないスタンスでなにかをやるとなると、次は家かって自然と出てきましたけどね。

野村:変わらないものと、変わらざるを得ないものがコロナではっきりとしたと思うのね。今までずっと写真を撮ってきたけど、なにかを作るのが好きだとしてそれがたまたま写真だったっていうこともあるわけで。写真を撮り続けるぞって思うのも素晴らしいけど、作るものをコロンと変えてしまうのがアリな時代になったのかなとは思うよね。

山谷:そうですね。周りにいる写真家より、どうにでもなるような生き方をしているとは思います。何に関しても決めてはいないので。ただ、たまたま出会ったものですけど写真が性格に合ったんですよね。ここまでハマるとは思わなかったですけど。まだこれでしばらくいけそうだなって。

野村:(笑)。まだ撮りたいものはあるの? いや違うか、、

山谷:撮りたいものっていうのは俺はないんですよ。

野村:そうだね、ないよね、君は。自粛中に写真集とかさ、、いやその前に写真集とか見るの?

山谷:見ますよ。写真集好きです。結構買います。

小林:意外と勉強熱心なんですよ(笑)

山谷:勉強熱心って言いかたやめましょうよ(笑)。

小林:いい本買っていってくれますし、すごくセンスがいいなって思います。

山谷:この作品も写真史に言及しながら作ったつもりです(笑)。

野村:鈴木くん、デザイナーさんとしてどう?

山谷:一言ください(笑)。この本は、コロナで周りが動かなくなったときに、このあたりで鈴木さんと会いながら作ったんです。けど、鈴木さんもコロナでいろいろ考えるところがあったのか、写真を投げてから、しばらく音沙汰が無かったです。

野村:それはそんなに考えてたわけじゃなくて、金になる仕事を先にやったんだよ(笑)

山谷:まぁ、400ページありますしね。

野村:にしても、君が写真集をたくさん見て、勉強してるとか知らなかったよ。あ、勉強って言っちゃいけないのか(笑)。これ、一応旅の写真集だって言ってたじゃない。個人的に旅の写真集で気に入ってるものってあるの?

山谷:今回の話の流れでいうと、いつもいいなって思うのはこれ(『WRITTEN IN THE WEST』)です。

野村:あぁ、ヴィム・ヴェンダースのね。

山谷:これって、“ついで”じゃないですか。映画『パリ、テキサス』のロケハンの写真だし。その感じがやっぱり好きで。

野村:けど、これは目的を持ってロケハンをしてて、アメリカンな風景を探してたんだと思うよ。

山谷:確かに目的はあるんですけど、写真集みたいに誰かに見せて発表するような写真の撮り方ではなかったような気がするんです。そういう意味では、ある程度型にはまっている撮り方で、しっかりと真正面からものを捉えるというか。そこがなんかヌケてるんだけど文型として成り立ってるし。他のアメリカのこういうの、、例えばスティーブン・ショアの大判の作品とはまた違った感じがあるっていうか。

野村:まさか山谷くんが、他人の作品をこんなに雄弁に語れるとは。びっくりしちゃったんだけど(笑)。

小林:いや、かなり喋れますよ(笑)。

山谷:好きなんですよ(笑)。あと、このヤコブ・フォルト(JACOB HOLDT)っていうオランダ人はずっと気になってて。結構マイナーなひとなんですけど、この作品(『BILDER AUS AMERIKA』)は(ロバート・フランクの)『THE AMERICANS』の20年後ぐらいですかね。オランダからアメリカにバックパックで旅して、彼の親が「今お前は何してるんだ?」っていうことでカメラを送ってきたから、ただ撮ってたっていうやつなんです。その当時の貧困層を写してるんで、どうしても黒人が多いんですけど、今回のBLMの話になったときにもう一回見てみたら、全然違う見え方がして。その時代がやっぱりしっかり出てるんだなぁって。

野村:ていうか、さりげなくすべてここに用意されてるな(笑)。(まとめてさりげなく積んである)

小林:冷静なんで(笑)。

野村:面白いのは、今話に上がったのって全部アメリカの写真なんだけど、撮ってるのが全員アメリカ人じゃないんだよね。

山谷:その通りですね。

野村:俺、例えば『THE AMERICANS』を撮ったロバート・フランクはアメリカ人だって最初思ってた。モロにアメリカ人の名前だから、まさか移民だとは思わなかったんだよね。高校生のときにアメカジみたいなのが好きで、あとはスケボーとかも好きだったからアメリカ的なものに憧れてて。でも、風景とかアメリカ的だなって思うものはだいたいアメリカ人が撮ってないんだよね。アウトサイダーというか、外のひとじゃないとこういうのは撮れないのかなっていうのが、写真の面白いところかな。

序文を書いてるのが(ジャック)ケルアックで、彼もカナダのひとで、小さい時は英語が喋れなかったんだって。彼はケベックのひとだから、フランス語なんだよね。だからやっぱり疎外感があったみたい。アメリカに行ってコロンビア大学に行って放浪して、ってプロフィールだけ見ると美しいんだけど、実はフットボールの特待生で入ったんだけど元々は英語が苦手で疎外感があって、何をするにも他者の目を持っているというか。何かをドキュメントするひとって、なんだかんだで他人の目というか、外から見る目がないと、なかのことは綺麗に描写できないのかもね。アメリカ人でアメリカで育って、自分の身の回りのアメリカっぽいところを撮るのって実は難しいんだろうね。

鈴木:外に広がっていかないんでしょうね。内輪で撮ってるシーンの写真って、スケーターとか身内でやってるの多いじゃないですか。けど、そういう仲間内のスナップって、若いうちは評価されるけど、時間が経っても残るかっていうと、そんなこともないんですよね。

野村:そうだね。それで思い出したけど、スケートボードでドッグタウンってあったじゃない。Z-BOYS。今は写真集もあるよね。グレン(フリードマン)が撮ったやつとか。向こうのOGのスケーターのじいさんと喋ったら、プールでああいう滑り方をしたのはZ-BOYSが最初じゃないって言うのよ。なんかサンディエゴの方にもなんとかっていうチームがあったと。だけどなんでドッグタウンが残ったかっていうと、ドッグタウンには(クレッグ)ステシックっていう編集者のおっさんがいたり、写真を撮るようなやつらもいたんだよね。年齢とかもまったく違うんだけど、彼らのことを見て面白いって言って、写真にとって雑誌に出したから残ったんだと。サンディエゴの方のチームは、かっこよかったんだけど、同年代の子たちしかいなかったから、自意識もあるし、誰もそれを残さなかなったんだよね。

ヘルズ・エンジェルスもそうだって言うよね。彼らもメディアに出たから、今みたいに有名になったけど、他にももっとでかいチームはあったんだって。だから、だれか必ず外から来たひとで、それを翻訳して、映像なり文章なりで外に出す人がいないと出てこないっていう。

鈴木:ラリー・クラークもそうですよね。ちょうど今後ろに顔が見えたんで、思い出しましたけど(笑)。彼も『KIDS』とかやってますけど、彼自身、別にスケーターじゃないし。

野村:ハーモニー(コリン)だけだったら、やっぱりああいう風にはなってないよね。

山谷:俺、一回タルサに行ったことあって。夜にバーで飲んでたら“WORLD WAR II”って書いてるTシャツを着たおっさんが踊り狂ってて、そのひとが「写真やってるのか。俺はこの街で何十年も生きてる。この街のことだったら何でも知ってる」っていうから「ラリー・クラークってやっぱり有名なんですか?」って聞いたら、「そいつのことは知らねぇ」って(笑)。『タルサ』はすごいけど、あの街で有名ってわけじゃないんだなって。

野村:だって、いまの子たちにラリー・クラークって言ったってわかんないよ。

鈴木:コロナ期間中に、ここ(フロットサム ブックス)で高校を卒業したばっかりの女の子の写真展をやってたんですけど、写真に対しての初期衝動がここに置かれてるような本じゃないんですよね。名作の写真集を見せても「何がいいかわかんない」って。

小林:気持ち悪いって言ってましたよね。

山谷:生きてるみたいって。

鈴木:iPhoneで始めちゃってるから、やっぱり全然違うんですよね。

INFORMATION

flotsam books

住所:東京都杉並区和泉1-10-7
営業:14:00-20:00
営業日:要確認

ww.flotsambooks.com

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