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写真家山谷佑介を巡る 旅、写真集、書店、その他いろいろ。
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写真家山谷佑介を巡る
旅、写真集、書店、その他いろいろ。

昨年の夏、自分自身をさらけ出したドラムパフォーマンスをひっさげてバンドマンよろしく欧州を旅して回った写真家の山谷佑介。その旅の模様をつぶさに記録したのが、400ページ強の大作『Doors』です。今となっては自由に旅ができなくなってしまいましたが、旅が写真、写真集、写真家に与える影響とはどんなものなのでしょうか?この度、『Doors』というひとつの作品を軸に、かねてより山谷と交流のある野村訓市、「flotsam books」の小林孝行が集まり、3人で旅、写真、書店などについて果てしのない会話を繰り広げました。

野村:あと俺がやってたときの『スタジオボイス』もやってもらってたよね。こんなに昼間に会うのは初めてなんじゃないの(笑)。

山谷:今日は見学ということで。

野村:そうそう、今ってひとを集めるのが難しいじゃない? 不特定多数のひとたちに、集まってください、見てくださいっていうのができない。だからカメラマンのひとたちが、デジタル展示会とかやってたりするんだけど、そういうのひとつも見てない、なんか見れてないんだよね。みんな「作品としてすごいよ」とかっていうんだけど、今はなんかそういうのを見る気分になれない。デジタルはすごく便利だけど、この自粛中により嫌いになってしまって。ネットフリックスのこれが面白いとか、みんな色々送ってきてくれたんだけど、3ヶ月間、1本も映画観てない。家にいて知識を貯めようとか、そういうのはごもっともなんだけど、どうもひとと接してないと、そういうのに興味が持てなくなってしまって。

今までだったら、仕事してストレスがたまったから朝まで飲んで、でも本も読みたいから、その合間に音を立てないでトイレで読むとか、風呂入りながら携帯で映画を観るとか。そういうことに対しての欲求があったんだけど、外に行けないってなると、その欲求がなくなってしまって。今、東京に6ヶ月くらいいるんだけど、それって過去30年くらいで初めてだと思うんだよね。けど、それに慣れてしまっている自分もいて。禁煙したことないけど、禁煙に成功した気分(笑)。

野村:ただ、コロナが落ち着いても、俺を海外に連れていってくれていたような仕事は、もう戻らないよね。だから、これからは昔みたいに勝手にどこかヘ行って、それで面白いと思ったことをどっかに売り込んで金に変えないといけないんだろうし、興味のあるところに行かなきゃダメなんだなって。今まではいつの間にか仕事が入るようになってたし、とくにNYはよく行ってた。そこには友達がたくさんいるし、そこで出会う若い絵描きとかスケーターと仲良くなっていくうちに、彼らとなにかをやっていくことがサイクルになってたんだよね、ここずっと。そういう仲間を何世代にわたる幅かのなかで持ってると飽きなくて。だから今まで楽しい時間を過ごせてきたけれど、それも今回ので止まった。でも考えてみると、そもそも最初でNYで友達をつくったときって、俺は仕事をしてたかというと、してない。ただ道で会ったやつだったりしたんだよね。それが仕事になったから、また同じことを始めようかなと。

山谷:うんうん、だからまた全然違うところに行かないといけないですよね。

野村:そう。今までは、例えばフイナムが「訓市さん、アメリカとか行かないんですか?」「今度行くよ」「お! 乗っかっていいですか?」みたいなさ。そういうのがあったじゃない。

山谷:ありますね。けど、俺は全く逆のパターンで、「今度アメリカ行くんですけど、なんかありませんか?」って言ってフイナムに仕事もらったことあります(笑)。

野村:そのときは、もう揉み手になってたでしょ?(笑)けど、それが今じゃ実際にアメリカに行かなくてもzoomで取材して、その画面を撮ればいいか、みたいなことで、本当にできてしまったから、わざわざ時間とお金をかけてやるべきなのかって考えるよね。俺も俺なりに改めて考えてみると「これ俺が行く必要ないな」って気づいた過去仕事はいくつもあるもの。自分でも薄々気づいてはいたけどさ(笑)。だから、これからどういう旅をするっていうのは、すごく考えなきゃなって思う。いまここにカメラマンが二人いるけど、どうやってこれから海外に行って写真を撮るのかっていうこととかさ。

山谷:この時代を写すってことならば、「ドアーズ」みたいなやり方で、日本国内を写すのは意味があるのかなって思ったんです。いま路上でパフォーマンスをしているひとってそんなにいないと思うんで。

野村:それ、迷惑系ユーチューバーとか言われない?(笑)

山谷:親戚みたいなもんですね(笑)。誰も近づいてこないと思いますよ。ただ、カメラは回転しながら俺と周辺を写しているわけで、そこに俺しかいない感じとか、この時代にしか撮れないドキュメントになってくるのかなって。写真って記録するというのが大元だし、そういうことと近しいのかなって思って、美術系の助成金にそのアイデアをそのまま出したら、見事に落ちましたね。やっぱりそういうプロポーザルは今は通用しないんだなって実感しました。

野村:今日の取材をフイナムに載っけて、もう一回ツアーに行くから、クラウドファンディングすればいいんじゃない? 今度はユーロじゃなくて、円が欲しいって(笑)。

山谷:もう助成金も取れないし、一人でやるしかない!ってことですね。写真集買ってくれではなく、もう一回クラウドファンディングか。

野村:写真集を買うのは当然なんだけど、クラウドファンディングやってまたツアー行くぞっていう方が君っぽいんじゃないの?

山谷:さっき訓市さんも言ってましたけど、自由な時間がたくさんできたんだけど、俺も映画なんてほぼ観てないんですよ。

野村:「はい、時間あるよ」って言われても全く見れないんだよね。子供と一緒に映画でも観るかって思って、トレーラーとか見ても全く心に響かないんだよね。じゃあなにも考えなくていいような映画ならいけるのかと思ったけど、そういうのすら気分じゃないわけ。じゃぁ、俺の今の気分ってなんなんだって。

山谷:それって自由の問題につながってくるんじゃないですか。

野村:そう。俺は制約がないとダメなんだなって。

山谷:うんうん。みんな、「この時間を使って、自分のためになにかしなきゃいけない」って言ってたけど、いやそんなの意味ないでしょと思ってて。

野村:そうそう。プロダクティブ(生産的)にしろ、って言うじゃない。けど、俺はひとがいない時間に自転車でグルグルするような時間が増えたよ。目的のためになにかをやるってことが、今はやりづらくて。

山谷:それ本当わかります。

野村:フリーランスって、サラリーマンより自由がないと思ってるんだよね。

山谷:うん、その通りですね。

野村:まぁ(サラリーマンを)やったことはないけど(笑)。友達を見てるとすごく忙しい時期もあるけど、それが過ぎるとちょっと時間ができるわけ。けど、その期間も忙しかったときと同じ給料がもらえるでしょ。で、ボーナスももらえるじゃない。俺たちは未だに文字数とか時給で動いてるし、思うようには休めないし。休みを取ろうと思っても、休んでる間に定期的にやってた仕事が別のひとに振られて、それがまた戻ってこないかもしれないっていう恐怖があるじゃない。

山谷:そうですね。365日、仕事みたいなもんですよね。

野村:じゃぁフリーランスの良さってなんだろうって思ったときに、いざとなったら今この場でやめてやる!って言えることが自由だと思うの。実際は怖くてできないんだけど(笑)。けど、それがあるから毎日不自由でもなんとかやってきたのに、なんだか自粛期間でその自由のカードが奪われたような気がしたよ。

俺もう47歳なんだけどさ、例えば同年代の友達と飯に行こうとすると、だいたい6時スタートなわけ。早いのよ(笑)。だから1年に1回くらいしか飯に行けないんだよね。「12時くらいに仕事が終わるから三次会くらいで行くよ」って伝えると「いや、もう帰るよ」って。というか「お前の歳でデスクワークしてるの? 悲惨だね」なんて言われたり。けど、こっちとしては好きなことをやってるわけだし、それで幸せだったんだよね。で、いざとなったら辞めれるしって。でもそういう気分じゃなくなってきたな。

INFORMATION

flotsam books

住所:東京都杉並区和泉1-10-7
営業:14:00-20:00
営業日:要確認

ww.flotsambooks.com

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