第3の何かはジャマイカから生まれる。

ー 続いて4枚目はスペシャルズのセルフタイトルです。ジャンル的にはスカですね。
せいこう: スペシャルズはフリートウッドマックの次に、ぼくがライブを観た海外バンドなんですよ。中野サンプラザで来日公演をやるはずだったのにキャンセルして、新宿の狭いライブハウスに振り替えてライブをやったんだよね。未だにかっこいい裏打ちのブルービートも、レゲエがないと生まれなかったわけであって。80年代はダブ、ヒップホップ、スカがあって、跳ねたビートのいろいろな音楽が並走していたんですよ。ヒップホップの連中がスカ寄りになることもあれば、その逆もあって、個人的にはその間がおもしろかったな。元を辿れば、スカもジャマイカ発祥の音楽だから、ぼくは第3の何かがジャマイカから生まれるんじゃないかって常に張ってます(笑)。
ー スペシャルズはファッションにも影響を与えた人たちですよね。
せいこう: レゲエの出身なのに、いわゆるモッズのスタイルなんだよね。

ー 5枚目のマルコム・マクラーレンはファッションの文脈でも語られますし、ヒップホップの開拓者としても重要人物ですよね。
せいこう: そうそう。この人の葬式の写真を検索してみて。めっちゃかっこいいから。個人的に『Duck Rock』は20世紀の名盤5枚の1枚に入りますね。これは今の若い子たちが知らない、ロンドンにしかなかったお洒落なヒップホップなんですよ。アフリカの音楽をたくさん混ぜて、セックス・ピストルズをプロデュースしていた男がヒップホップ側にシフトした最高のアルバムです。マルコムの元には藤原ヒロシもいて、彼に「TINNIE PUNX」と呼ばれたことからTINNIE PUNXが生まれたというエピソードもあるくらいで。

せいこう: ぼくは会ったことがないけれど、この人のセンスには今も惚れ惚れしますね。このアルバムは80年代全体の推移と言っても過言ではないくらいに超オシャレ。音楽以外にも、ジャケットの絵をキース・ヘリングが描いているんだから。

ー 6枚目は日本のレコードですか?
せいこう: 柳ジョージ&レイニーウッドの『Y.O.K.O.H.A.M.A.』です。柳さんは日本語でブルースのロックをやっていたんだよね。ちなみに、ぼくが高校生の頃に深夜ラジオを聴いていたら、ネズミ小僧というDJがサザンオールスターズのデビュー前のブルース曲を2つくらい紹介して、それが流れたときにぶっ飛んだ衝撃を受けたんですよ。日本語がブルースに完全に乗っていて。「この人はいつデビューするんだろう?」と待ち望んでいたら、ラテンの「勝手にシンドバット」という曲でデビューして、なんてふざけているんだろうと思った(笑)。
ー 桑田佳祐さんだったんですね。
せいこう: そうなんですよ。桑田さんのブルースの曲を聴いたときに、柳ジョージさんの言葉の乗せ方をやっているなと思って。それを桑田流に進化させたものがサザンオールスターズなんだけど、みんな柳ジョージさんの存在を忘れがちなんだよね。この柳ジョージ&レイニーウッドはちょっと湿った情景を歌っているんだけど、歌謡曲とブルースが融合した音楽に日本語が見事に乗っていて。柳さんがその価値ほどは評価されていないのは不当だなと思う。この完成度で日本語が西洋の音楽に乗っていることは歴史的に見てもすごいと思うし、もっと深く掘ると、いろいろなアイデアが出てくるような気がする。