着替えてステージに出ないのは、ヒップホップの美学。

ー せいこうさんにとって、ダウンジャケットはヒップホップとの結びつきを感じさせるアイテムですか?
せいこう: やっぱりRun-D.M.C.のファーストアルバムがそうだし、自分もダウンジャケットをジャージの上に着ていたね。当時も日本で〈ファーストダウン〉を着ているやついましたよ。ダウンジャケットは、このままステージに上がれる感じがいいよね。着てきた服でそのままライブする感じが、やっぱりヒップホップなんだよ。着替えてステージに出ないというのは、ひとつの美学なんじゃないかな。



せいこう: それに、80年代当時はターンテーブルが終わりかけの文化だったの。これからはレコードの時代じゃないだろうと思われていたときに、この廃品回収の対象とされていた機材から音楽がドンと生まれた。これがかっこよくてクレバーだったわけだよね。同じようなことがトリニダード・トバゴのスティールパンだと思っていて。あれはドラム缶を切ったものから楽器をつくってる。すごく、いなたいよね。高価な楽器を使うことが当たり前じゃなくて、アイデアひとつでいけるという感じが伝わってきて。
ー 80年代当時はヒップホップのファッションを追っていましたか?
せいこう: みんなほど追ってはなかったかな。ただ、〈アディダス〉がああいう流行り方をするとか、一応は変化を見てきたよね。それを真似るかどうかは別だったけど、ぼくは帽子のツバを曲げるほうが好きだから、ツバが水平になってきてもワザと曲げて被り続けていたくらいで。好きなものを貫いている自信のほうが素敵だと思っているから。

ー メガネもせいこうさんのこだわりを感じさせるアイテムだと思います。黄色のダウンジャケットに紫の八角形のフレームが合っていて。
せいこう: メガネは結構な本数がありますね。このメガネはどう考えても変でしょ? よく行く表参道の「リュネットジュラ」という眼鏡屋さんで買ったんだけど、これみたいな変なメガネを見つけると、トップの高橋さんが「いとうさん、わかってきましたね。これで卒業です」と褒めてくれるんですよ(笑)。
ー いまどきのフレームのメガネはかけないんですか?
せいこう: いまどきのフレームっていくらでもあるけど、それを俺がかけたらどうなのって。だから、すごく目立つハズしにチャレンジしているわけです。もうひとつ変なやつがあって、それをかけたときにユースケ・サンタマリアが喜んでさ。いやー最高だと。俺は変なメガネをかけているのが一番いいんだって。

ー せいこうさんが言う、いなたさなのかもしれませんね。
せいこう: いなたさって何度も定義しようと思ったことはあるんだけど、未だに難しいんだよね。ニュアンスとしては、田舎っぽいけどかっこいいということであって。俺も都会的であることは大事だけど、都会すぎると都会っぽくない。下町には「様子がいい」という言葉があるんだけど、高価なものはひとつだけでさりげないとか、すごくかっこいいのに下駄が欠けているくらいがいいとか、そういうことを意味していて。「いなたい」と「様子がいい」は似ている気がする。俺自身、いなたい要素が抜けないようにと気を付けていますよ。
1980年代にアメリカに生まれたダウンジャケットブランド。90年代に入ると、音楽とファッション好きの若者たちへ急速に受け入れられるようになり、ニューヨークを象徴するブランドへと成長。2018年秋冬より、シルエットやカラーを現代へと「フリークス ストア」が復刻させた。ファーストコレクションは、世界的に有名な某ストリートブランドの元ネタにもなった、テープ使いやリバーシブルのデザインが特徴的なバブルダウンジャケットを中心に、FIRST DOWN の定番とも言えるモデルをラインナップ。ただ復刻するだけではなくシルエットは現代的かつ都会的にアップデートしている。