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古着サミット9 業界屈指の偏狂家たちによる古着放談。
Houyhnhnm Vintage Summit.

古着サミット9 業界屈指の偏狂家たちによる古着放談。

各国のヴィンテージガーメンツを愛してやまない偏狂家たちによる恒例の古着放談『古着サミット』もついに第9弾。今回も、今野智弘、栗原道彦、藤原裕、阿部孝史のレギュラーメンバー4名をお迎えし、それぞれがいま興味を惹かれるアイテムやニュアンスはもちろん、コロナ渦で見えてきた新たな市場動向など、常に現場で掘り続けている彼らならではの視点から、現在進行系の古着の世界をお届けしましょう。

  • Photo_Toyoaki Masuda
  • Text_Takehiro Hakusui
  • Edit_Yosuke Ishii

第二講
栗原道彦

「パタゴニアのように先進性に優れたブランドでも、意外とヘリテージに影響を受けている」

2005y PATAGONIA BOILERPLATE JACKET

栗原: ぼくのひとつめは〈パタゴニア〉から2005年にリリースされたボイラープレートジャケットです。ポケットの形状が〈マックレガー〉のドリズラーと完全に一致しているので、全体的にもドリズラーがサンプリングベースなのかなと。

今野: ホントだ、完全にドリズラーだね。

栗原: はい。1998年にもじつは〈ブラウンズビーチ〉をサンプリングしたシャーリングカーディガンというモデルがリリースされて、ぼくも当時タイムリーで着ていたのですが。

藤原: えっ、そんなモデルもあるの?

栗原: うん。レディースモデルだけどね。そのシャーリングカーディガンも当時のカタログには〈ブラウンズビーチ〉というブランド名こそ伏せてあるものの「40年代の毛織のカーディガンにヒントを得てつくりました」と書いてあるぐらいなので、じつは〈パタゴニア〉のように先進性に優れたブランドでも、意外とヘリテージに影響を受けているんだなと。

阿部: じゃあ、公にドリズラーとは明言していないにしろ、サンプリングはあり得る話だね。

栗原: そうですね。

阿部: とはいえ、これが普通のドリズラーだったら、いまは着ないでしょ?

栗原: 15、6歳くらいの頃、50sにハマっていた時期には着ていましたが、いまはまだ…ないですかね(笑)

一同: (笑)

栗原: この企画では毎回のように2000年代以降の〈パタゴニア〉を何かしら持ってきますが、いまは気になったモデルが見つかった場合、品番で検索すれば大概はモデル名等の詳細がわかるので、探しやすさはありますよね。〈パタゴニア〉は基本的に製造年表記もありますし。

今野: 確かにそうだね。価格はどれくらいなの?

栗原: うちだと1万5000円くらいですかね。まあショップによってまちまちだとは思いますが、段々上がってきている印象はありますね。ぼくの場合はシンチラスナップT辺りのいわゆる王道モデルにはあまり興味がないので、こういった知る人ぞ知るマイナーモデルへの再評価は嬉しいところです。個人的に欲しいモデルなら安いに越したことはないですけど(笑)

一同: (笑)

「ハンティングってかっこいいなとは思うんですけど、個人的にはなかなか使いづらいカテゴリー」

‘50s MASLAND HUNTING VEST & ‘96y PATAGONIA SIMPLE VEST

栗原: 2つめはベストです。グレーの方は同じく〈パタゴニア〉の1996年製シンプルベスト、ブラウンの方は〈マスランド〉(1940~60年代にかけてハンティングやフィッシングなどフィールドスポーツ系アイテムを数多く手掛けている)の50sヴィンテージですが、ともにプルオーバーという括りで。かたやシンプル、かたや多ディテールという両極端な2つを持ってきました。

今野: やっぱり〈マスランド〉は独特なかっこよさがあるよね。

栗原: ですね。じつは以前、メキシコ人ディーラーが持っていたので値段を聞いたらまさかの強気プライス、300ドルを提示されて一旦は諦めた思い出のモデルでもあって。

今野: それはさすがに高いね。

栗原: はい。前々回の買い付け時に同じモデルに適正価格で巡り会えました。

今野: 〈マスランド〉は当時軍モノも生産していたから、1940年代頃にはオリーブドラブのジップテープを採用していたり、ミリタリー好きとしては気になるディテールが多いよね。

栗原: そうですね。N-2AとかD-1Aとかフライト系でよく見かけますよね。

阿部: ああ、あの〈C. H. MASLAND & SONS〉ってコントラクターは、やっぱり〈マスランド〉のことなんだね。

栗原: はい。ただ、ハンティングやフィッシングってかっこいいなとは思うんですけど、個人的にはなかなか使いづらいカテゴリーのひとつでもあって。その点、このベストに関しては普通に使えそうかなと。

藤原: プルオーバーっていうのも珍しいですよね。

栗原: そうだね。それに1950~60年代頃の〈マスランド〉って一部に劣化する素材を使っているじゃない?

藤原: ああ、ポケットのゴム張り部分とかですね。

栗原: そうそう。そういった心配がないのもこのモデルに惹かれた部分でもあって。当時のハンティングカテゴリーって〈ドライバック〉や〈ダックスバック〉、〈レッドヘッド〉とか大手のストアブランドとか、いろいろなブランドが参戦していたけど、言ってみればほぼ同じようなディテールワークじゃない? そういう点でも〈マスランド〉には独自の路線を感じるよね。

今野: そうだね。

阿部: 一方のシンプルベストって、いまはどれくらいの値がつけられてるの?

栗原: 3万くらいですかね。

阿部: 下がってはないんだね。

栗原: ですね。モデル名がメジャーなのと探している人も多いので、eBayとかでも日本国内とほぼ同じ値段で落札されている感じです。ずっと手に入れたいモデルでしたが、思った以上に縁がなく、最近ようやく自分サイズを手に入れることができました。

今野: これは一切値崩れしないよね。

栗原: ですね。当時のカタログを見ると1万3000円くらいなので、その時に新品で買っておけばよかったです…。

阿部: でも、微妙に丈が足りなくない? 特にシャツ。(シンプルベストと同時期にリリースされたカフス袖付き。製品名はシンプルシャツ)

栗原: ああ、確かにシンプルシャツはバランス悪いですよね。でも、ベストもシャツも昔から知名度も人気も高いわりに、ユーズドでは滅多に出ない印象です。

藤原: 確かに。委託品以外ではまず見かけなくなりましたね。

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