第三講
藤原 裕

‘80s L.L.BEAN ALPAKA PARKA、’70s L.L.BEAN MOUNTAIN PARKA WITH LINNER
藤原: ぼくのひとつめは〈L.L.ビーン〉のフーディジャケットです。起毛素材のアルパカ混パーカは80s、ハードシェルの方は筆記体タグから70sと思われます。両方とも長年探していたモデルを最近ようやく手に入れたもので。

今野: アルパカ混だと、いまじゃかなり高価になるだろうね。
藤原: そうですね。このモコモコした感じは〈コディアック〉(1950年代に〈キャンパス〉内の1ラインとしてリリースされた起毛フリースたち)がやっぱり最終的な憧れではあるのですが、同時にじつはこの〈L.L.ビーン〉のフーディも探していて。
阿部: こっちのマウンパタイプはあまり見かけないモデルだね。
栗原: ぼくも見たことがないですね。
藤原: じつは一昔前にこのジャケットのガワだけ見たことがあったのですが、フードも中綿ライニングも揃った完品に限って探していました。


栗原: 中にもうひとつ製造元の〈ジョンズ テント&オーニング〉ってカナダブランドのタグも付いているね。そもそも〈L.L.ビーン〉って外注アイテムも多いから。
阿部: フリースとかも一時期は〈パタゴニア〉が製造していたみたいだし、その線はあり得るね。
藤原: ベージュといえば、ぼくの中で阿部さんの印象が強いのですが。
阿部: そう?
藤原: はい。個人的にはGジャン本の監修(『Levi’s VINTAGE DENIM JACKETS Type l/Type ll/Typel lll』)もあったので、ここ数年はインディゴばかり着ていた揺り戻しもあってか、最近ベージュが妙に気になって。ちょっと大人な感じもしますし。

阿部: 〈L.L.ビーン〉のヴィンテージって最近はどうなの?
栗原: トートバッグに関しては年々高騰し続けていますし、アパレルもその勢いに若干引っ張られている感じがしますね。
藤原: 特に筆記体タグ時代のものは徐々に高騰していると思います。メジャーブランドではあるものの、ことアパレルに限ってはこれといった看板アイテムが多いわけでもないので。ちょっと変わったものや未見のウエアに関してはなるべくチェックするようにしていますね。
「ブルーデニムとの相性を最優先に考えてしまうところがある」

‘70s SIERRA DESIGNS SOUTIEN COLLAR COAT
藤原: 2つめは〈シェラデザインズ〉のステンカラーコートです。
今野: これなんて、まさに阿部くんな印象(笑)

藤原: ですよね。〈パタゴニア〉のシティレインコート的な雰囲気もありますし。アイテム自体も珍しいですが、先ほどの〈L.L.ビーン〉と同様に、着脱式のダウンライニングが残った完品状態で出てきたことが何よりすごいなと。
栗原: 確かに。そもそもこんなモデルがあったことさえ知らかなったよ。タグを見る限りだと70sってことだよね。

藤原: そうですね。タグに描かれた木が7本だと70s、8本だと80sと簡単に判別できるので。
阿部: それに初期タグは「BERKELEY, CALIFORNIA」表記で、1970年代から「OAKLAND, CA, U.S.A.」に変わるんだったけ?
栗原: そうですね。くわえてボタンにブランドネームが刻印されるのが、80sの特徴的なディテールです。

阿部: そうだよね。この〈クリーガー&サンズ〉ってタグから推測するに、ショップの別注品なのかな?
栗原: どうでしょう?この当時のアウトドアブランドは別注とかはやってなかったんじゃないかと思います。〈アバークロンビー&フィッチ〉なんかと同じでおそらく単なる販売店のタグなんじゃないかと。でも、良い意味で最近の別注モデルかと思わせるような好デザインですよね。
今野: 確かにありそうだね。
藤原: ぼくも阿部さん同様〈パタゴニア〉のシティレインコートは大好きで、XSサイズを持っているのですが、サイズ感的にはこの〈シェラデザインズ〉とMサイズとほぼ同じくらいで、着た感じもどことなく似ていて。

阿部: そうなんだね。表地は60/40クロスなの?
藤原: 60/40ではないです。そもそもコットンナイロンではなく、コットンポリエステルですね。
阿部: へえ。これはぼくも自分サイズなら欲しいね。
藤原: 現行品ならステンカラータイプもありますけど、このチンストラップ付きでアジャスターもベルクロ仕様のものは初見でしたし、マイブームのベージュだったことも決め手のひとつでした。なんだかんだ言って、ブルーデニムとの相性を最優先に考えてしまうところがあるので。
「過熱ぶりを受けて、どこかで差別化を図ろうと考えた結果、ひび割れプリントやユニークなフォントに着地した」

‘70s & ‘80s CHAMPION REVERSE WEAVE CREW NECK
藤原: 3つめは今野さん同様、ぼくも“珍ピオン”から。一風変わったフォントを使ったプリントものです。基本的にはいわゆる単色タグ時代より、80s以降のトリコタグ(トリコロールカラーのタグ)時代のものが好きなんですが、白い方はプリントトリコタグ仕様の80s、グレー杢の方は’90sのもので。
阿部: なんでトリコタグ時代が好きなの?
藤原: スウェット地の質感がなんか違いますよね。それに単色(赤や青など単色プリントのタグ)は単純に高いので(笑)
阿部: まあ、確かに高いよね。

今野: この白い方はリブなどの縫製部が内縫いだけど、90s以降はグレー杢の方みたいに跨いで縫ってあるよね。
栗原: 内縫いは90sリバースウィーブでも一部では見られる仕様ですね。とはいえ、着心地だけで考えたら絶対に後者の方が良いはずですけど。
阿部: でも、単色タグ時代(70s)は逆に後者じゃない?
今野: そういえばそうですね。もしかすると大量に縫う際に内縫いでロックミシンを掛けて手間を省いたのかもしれませんね。
栗原: ヴィンテージスウェットだと黒ボディや雪柄など一部のものでなぜか内縫いのものが多いですよね。
今野: ああ、確かに。何かしら理由があるのかもしれないね。


阿部: この2枚は単純にプリントで選んだの?
藤原: はい。一時は染み込みプリントだけを集めていた時期もあったのですが、ヴィンテージリバースウィーブの過熱ぶりを受けて、どこかで差別化を図ろうと考えた結果、ひび割れプリントやユニークなフォントに着地した感じでして。
今野: これは何段?(ヴィンテージリバースウィーブはプリントの行数、段数が多いほど珍重される傾向にある)
一同: (笑)
栗原: 8段ありますね(笑)

阿部: それにしてもひび割れプリントっていう表現、完全に逆転の発想だよね(笑)。だってひび割れなんてかつては敬遠されていたものが、いまでは味として認められているワケだし。
藤原: 前に今野くんに教えてもらったんですが、あのひび割れた感じはいまのプリント技術だとなかなか再現できないみたいで。

今野: そうだね。ひび割れにしても染み込みにしても、現代だとインクの質が逆に良すぎて、当時みたいな絶妙な風合いが出しづらいんですよね。さらに着込んでいくと生地の色を拾うように透け始めるじゃないですか。あの風合いがぼくみたいな新品屋にはたまらないんですよ。
藤原: まあ、リバースウィーブがここまで再ブレイクするとは思ってもいませんでしたね。
阿部: ホントすごい過熱ぶりだよね。
藤原: いままでにない最大波のブームじゃないですかね。もちろん何度も大きな波はありましたけど、まさかここまで大きくなるとは、ぼくらも予想できなかったので。
「今年こそはカバーオールが来るんじゃなかと」

‘40s THOMPSON.CAP RAIL ROAD JACKET
藤原: 4つめは〈トンプソンキャップ〉というマイナーブランドのレイルロードジャケットで、おそらく1940年代頃のものかと。
今野: 生地の張りがすごいけど、デッドストックで手に入れたの?
藤原: はい。見つけた時はホコリまみれだったので一度水は通してますが。
今野: ぼくもダブルブレストのカバーオールを探していたけど、いいサイズが全然なくて。これはサイズもいいし、切り替えも面白いね。


藤原: 襟は黒コーデュロイ、カフスがデニム、ボディがヒッコリーのスナップボタン仕様ですね。
阿部: 栗くんはこの〈トンプソンキャップ〉ってブランド自体は知ってた?

栗原: 前に切り替えのないデニム地のやつは見たことありますね。このジャケットには「New York, New Haven and Hartford Railroad Co.」(ボストン=ニューヨーク間で1872年から1968年まで運行していた一級鉄道のひとつ)のワッペンがついていますけど、いま検索した限りだと全く同じボディに違う鉄道会社のワッペンがついているものがあるので、ユニフォームブランドだった可能性もありますが。
今野: なるほどね。大体は鉄道会社関係なのかな?
藤原: そうだと思います。また、ダブルブレストものでは、なぜかコード襟が一般的ですよね。
栗原: 確かに多いね。

藤原: ぼくもここ数年はGジャンばかりプッシュしてきましたが、以前から阿部さんはじめ、この企画ではずっと「今年こそはカバーオールが来る」なんて言い続けていますし、いま一度、今年こそは来るんじゃなかと(笑)
阿部: 今野くんもいっぱい持ってるでしょ?
今野: 以前はありましたけど、いまはもう数えるほどしか残してないですね。ただ、サイズが大きい個体はまだまだ出てきますし、確かにちょっとオーバーサイズで着るなら、いまの時代感にハマるかもしれませんね。