PROFILE
旅する八百屋として、全国各地を旅してまわり、本当においしい旬のお野菜を日々用意している。販売はオンラインやイベント出店のほか、10周年の新たなチャレンジとして、初の実店舗となる八百屋と出荷場のほか、旬の青果とロスになる素材を活かしたアイスクリーム屋「キキ ナチュラル アイスクリーム(KIKI NATURAL ICECREAM)」を併設した旅の拠点、「micotoya house」が2月末から(プレ)オープン! 今回、お話を聞いたのは、代表の鈴木鉄平さん。
アイスは、キング・オブ・ポップだ。
ー 青果ミコト屋を始めて10年という節目に、初となる路面店を持ってみてどうですか?
鈴木: 誰でも来れるような場所に対する憧れがあったんですが、そんな場所を持ててよかったです。お店があることで、この地域に溶け込んでいっている手応えがあります。だって八百屋のおっちゃんの特権で、道ゆく人に話しかけてもいいわけですから(笑)。もしこうやってエプロンしてなくて、話しかけたらやばい人ですよね(笑)。とにかくこの辺の人たちと、積極的にコミュニケーションとりまくってます。
ー お客さんがみんな楽しそうだし、特に入口から入ってすぐのところにある、ロスになる食材を活かしたアイスクリームをめがけて来る方が多いですね。八百屋にアイスクリームというのは意外でした。
鈴木: 単純に野菜を売るだけのお店だと、商いとして成立させるのは難しいんですよ。野菜は利益率が悪いし、ロスが出てしまうこともあります。だから何か一緒にやった方がいいなと…。野菜は10年やってきてよくわかったんですが、足が早い(傷みやすい)んですよね。生産現場でも、色・艶・形が悪いものは売れないから、農家さんが出荷せずにロスになることがよくあるんです。こういった現場を見てきた自分たちがお店をやるときに、フードロスは一つのテーマでした。農業で当たり前のようにロスしていたものを、できるだけロスしないようにしたいなと。
ー でも、なぜアイスなんですか?
鈴木: アイスは、ロスすることがないんです。正確には、アイスには、賞味期限の表示義務がありません。だから、極論すると捨てなくてもいいので、ロスしません。ちなみにアイスとは別に、漬物の案も出てました。スーパーに行っても添加物入りばかりで、いい漬物があまりないんです。日本には各地に漬物文化があって、僕自身が好きなのもあり、旅する八百屋として地方の漬物屋を巡ることもありました。漬物には、それぞれの場所の文化や背景、知恵が詰まっていて面白い。でもいかんせん臭うので、漬物は次のステップかなと(笑)。
ー 頂いたアイスのフレーバーは、どれも他では見ないようなオリジナリティがあって驚きました。
鈴木: 僕らも、野菜の産地を巡っていて色々な人や場所に出会って知ったことがいっぱいあります。そのなかで、フードロスのことを考えているときに、「そういえば宮城のワイナリーでもロスの話を聞いたな」と思い出して「赤ワインの絞りカス」の味を考えたり。あと、畑にもロスはいっぱいあります。不揃いだからと弾かれたいちごとか、落下して売り物にならない果物は、意識せずとも集まってきます。(フレーバーの一つの)月桂樹は、この建物の裏の庭のもの。使ってみたらすごくおいしいアイスができました。アイスは、そういうロスを使ってもおいしいものを作れるんです。
ー 本来は、フードロスになってしまう運命の食材を、積極的に活用しているんですね。
鈴木: はい。フレーバーとして使うエスプレッソは、東京の「オニバスコーヒー(ONIBUS COFFEE)」のロスを利用しています。ほかにも、兵庫県にある「タニガキ(TANIGAKI)」という居酒屋が作っている、朝倉山椒とレモンを使ったシロップはうちで取り扱ってますが、漉して残った朝倉山椒とレモンのカスをアイスに使ってます。どちらもまだ開発中なのですが。
ー それにしても、アイスはどれも本当においしかったです! アイスというのが、なんかいいですよね。
鈴木: 例えば、一つひとつの農家の背景や、在来種という種の問題とかっていう真面目な話は、野菜を通じてだと、若干説教くさくなりそうじゃないですか。でも、アイスだとポップになる。キング・オブ・ポップなんですよ。しかも、コーンに塗りながら盛っていくジェラートじゃなくて、丸いアイスをポンポンっと。何個も乗ったアイスが不安定なのは、こっちもわかっていますし、食べようとしてベチャって落としてしまってもいいんですよ(笑)。実際に落としてしまった人もいるし、その人にはアイスを新しく差し上げました。たとえ落ちちゃっても、許されるのがアイスなんです(笑)。それにこういうアイスを通じて、規格外や不揃いの野菜が当たり前のように出てくるんだということを、お客さんにも感じてもらえますよね。そのためにも、まずはおいしいことや、ポップであるということが大前提です。
ー 確かに、大事なことをそのまま真面目に語ってしまうと、見向きされにくいという現実はありますね。
鈴木: 僕も青果ミコト屋を始めたばかりの頃は、「この野菜は自然栽培なんです!」と力いっぱい説明してました。あと、当時靴を履かずに裸足で街を歩いて、そういったスタイルがナチュラルだと思ってましたが、今考えるとそれは引かれるなと(笑)。靴を履いてないやつに、耳なんて貸さないですよね(笑)。変わった奴が変わったことをやっているという見え方ではダメで、みんながわかるようなポップさやカジュアルさが必要ですよね。