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二極化していくアウトドアスタイル。 MONTHLY JOURNAL May. 2022 vol.2
Minimal

二極化していくアウトドアスタイル。
MONTHLY JOURNAL May. 2022 vol.2

ここ数年のアウトドアブームは、これまでの日本アウトドア史のなかでも最高到達点を記録したと言っていいでしょう。そのなかで、より多くの人がアウトドアの基本を知り、ギアの知識を身につけました。そしていま、アウトドアのスタイルは二極化しています。ラグジュアリーに不自由なくアウトドアを楽しむか、アウトドアの不便さを享受して自然に溶け込むか。今月のマンスリージャーナルは、そんな2つのスタイルのいまを探っていきます。Vol.2は、ミニマルにアウトドアを楽しむ編。

  • Photo_Utoo Takuma
  • Text_Keisuke Kimura
  • Edit_Yuka Koga

Masayuki Nakaya 写真家・中矢昌行がはじめた身近な山暮らし。

PROFILE

中矢 昌行
フォトグラファー

1976年生まれ、愛媛県出身。松山大学法学部を卒業後、桑沢デザイン研究所の夜間部に通いながらデザインと写真を学ぶ。卒業後に写真スタジオに3年半勤めて2008年に独立。現在は雑誌『BRUTUS』をはじめ、ブランドのカタログや商社のお堅い仕事など、幅広いフィールドで活躍中。大のネコ好き。

コンパクトカーサイズでギリギリ通れる坂道の先の先にある、写真家・中矢昌行さんの山の家。2021年の春から、東京と山の家の二拠点生活をスタートした。

「それまでは中目黒に20年以上住んでいたんですけど、コロナだったり、娘の進学であったり、いろんなタイミングが重なってこの中古物件を買ったんです」と中矢さん。一家でここへ完全移住する案もあったというけど、仕事をする上では不便だったから、現在はこの家と、都内のマンションで二拠点生活。都内での生活をベースに、暇さえあればここへやってくるという。

引っ越して、最初に作ったのが家の門。すべてハンドメイドで、慣れない工具を使って2週間かけて完成させた。

裏山に生える腐った木を間引いたり、草刈りをしたり、家のなかをリノベーションしたりと、山の家にいるときの中矢さんはずっと忙しい。「最初に来たときは『田舎って気持ちいいなー』って感じでしたけど、いざ住んでみるといろんなところが気になって、ずっと体を動かしてますね。やることが本当になくならなくて。でも、いまのところは家っていうよりも遊び場です」と笑う。

最近完成した、薪を乾燥させるためのホルツハウゼン(ドイツ語で「木の家」の意)。ここから2年の歳月をかけ、良質な薪を作っていく。

「ホルツハウゼンいいでしょ?(笑)。難しそうに見えますけど、YouTubeを見れば作り方が丁寧に解説されているので。これは20mほどのコナラの木を2本くらい使っています。その木も自分で伐採してね。」

中矢さんは大工でもなければ、木工の経験もない。けれど家の門もホルツハウゼンも、誰の力も借りず、見よう見真似で完成させた。すべてが遊びの延長で、四季を感じられる時間が、最高に愉しいという。

いまはこうして、日課である家の整備をしては、焚き火をしたり、ハンモックでゴロゴロしたり、本を読んだりして過ごす。自然のなかでひっそり、必要最小限のもので黙々と過ごす。本人は「ミニマルとかは意識していないんですけどね」とは言うものの、その生活にこそ、物質と精神の両面で、ミニマリズムがありました。

そんな憧れの「二拠点生活」は移動もたいへんそうだし、お金もかかるし、ハードルが多いように感じるけど、中矢さんの話を聞くと意外にもそうでなかったりする。

「やっぱり仕事もあるから、都内まで3時間かかったりすると自分には合わない。ここは1時間あれば都内に着けるし、山を降りればすぐに街だから利便性も高いんです。それと、家賃も驚くほど安いから、都内でシェアオフィスを借りてるくらいの感覚に近いかも。」

これまでの二拠点生活は「山を買う」とか「別荘を持つ」とか、感覚的にも金銭的にも届かず、簡単にははじめられないイメージだったけど、中矢さんの山暮らしはとてもリアルで現実的。たしかに、ちょっと投資してこんなミニマルな生活が手に入るなら、悪くないかも。

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