CLOSE
FEATURE
着ぶくれ手帖 特別対談 松浦弥太郎と金子恵治が語る、お洒落と自意識と物欲と。前編
Yataro Matsuura × Keiji Kaneko

着ぶくれ手帖 特別対談
松浦弥太郎と金子恵治が語る、
お洒落と自意識と物欲と。前編

バイヤーの金子恵治さんが、ファッションに関するありとあらゆることを掘り下げていく連載「着ぶくれ手帖」。今回は、最近急速に親交を温めている、エッセイストの松浦弥太郎さんとの対談をお届けいたします。多くのものを蒐集、所有してきたお二人だからこそ見えてきた物欲の果てとは? 「結局男ってそういうところあるよね」というような極めて親近感の高い物言いなんかも出てきたりして、対談は大盛り上がり。そんなこんなで前後編でお届けいたします。

  • Photo_Shota Matsumoto
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Komuta

フランシス・フォード・コッポラが着ていたシャツ。

ー今回は“モノ”をキーワードにお話をしていただければと思っています。これまでにさまざまなものに触れてきたお二人に、いま気になるものや、ものを所有することについての哲学などをお伺いできたらと。

松浦: ぼくは10代の頃から服が好きで、いろんなことにチャレンジしてきましたけど、もうふた周りくらいしちゃって、どこか落ち着いてきちゃった部分もあるんですよ。買い物もしないし、同じものをずっと着ているので。だけど、それがいまの自分にとって心地がいい。もの自体よりも、愛着を持つことであったりとか、そういうことに楽しさを感じているというか。

あとは若い頃のように、ものに対して素直に「いいな」と思える感覚がだんだん薄くなってきていて。いまはなんでも手に入るように、ものも情報もあふれていますから。そういう寂しさも最近は感じていますね。

ー今回は、本当に愛用しているという服を着てきていただきました。

松浦: シャツもパンツも30年以上愛用しているものですね。シャツはUS AIR FORCEで支給されていた、オックスフォード地のレギュラーカラーシャツで、パンツは〈リー(LEE)〉の「ウエスターナー」です。

金子: めちゃくちゃかっこいいです。

松浦: 〈ブルックス・ブラザーズ(Brooks Brothers)〉のボタンダウンシャツに憧れて、17歳くらいの頃にオックスフォードの生地に初めて触れたとき、ものすごく衝撃を受けたんですよ。それで〈ラルフ ローレン(Ralph Lauren)〉にも袖を通したりするなかで、あるときこのシャツに出会ったんです。ニューヨークの中華街の近くにある古着屋さんで、このシャツがデッドストックとして積まれていて。よく見るとステッチが白かったり、ボタンも貝じゃなくてプラスチックなんですよ。いわゆる“MADE IN USA”の佇まいというのでしょうか。存在感がものすごくあったんです。

ーデザインそのものというよりは、ものとして惹かれたということですか?

松浦: そうですね。それで試しに買ってみたら、生地がすごくいい。なんなら、いま挙げた二つのブランドよりもいいんじゃないかっていうくらい。

ーオックスフォードを代表するブランドよりもいいっていうのは、衝撃的です。

松浦: もしかしたらこっちのほうが先にオックスフォードを使っているんじゃないかと思ったんですよ。表からは見えないところにミルスペックのスタンプが押してあるんですけど、“1956”と記載があるんです。

ー1956年製ということですね。

松浦: そうなんです。いろんな説がありますけど、いい生地や機能っていうのは、だいたいミリタリーウェアからはじまって、そこから民間に広まっていくじゃないですか。だからオックスフォードもそういう流れなんじゃないかと思ったりして。

金子: 丁寧に手入れされてますよね。30年以上も着られているのに、状態がすごくいいというか。

松浦: 70年近く前につくられたものなのに、まだまだ生地にツヤがありますよね。ぼくはシャツにアイロンをかけるのが好きなんです。もう趣味と言ってもいいくらい。これは持論なんですけど、いいシャツはアイロンがかけやすい。値段が高くて、いくらデザインがよくても、アイロンがかけにくいシャツは、ぼくのなかでちょっと違うんです。このシャツはすごくアイロンがかけやすくて、そういう意味でも実用的だし、普通に洗濯機でガシガシ洗える。さらに金子さんなら分かると思うんですが、ディテールがすごくいいんです。

金子: 見ただけでわかります。すごくいいです。

松浦: オックスフォードのレギュラーカラーシャツがぼくはすごく好きで、ボタンダウンもいいけど、ちょっと学生っぽい香りがするじゃないですか。

ぼくがまだサンフランシスコにいた頃に、フランシス・フォード・コッポラを見かけたことがあるんです。ノースビーチというエリアに「トリエステ」という地元の人たちが朝から晩までいるようなカフェがあって、彼はよくそこで脚本を書いているんですよ。ぼくが見かけたときは、オックスフォードのレギュラーカラーシャツを第2ボタンまで開けて、胸毛を見せて着ていたんです。

金子: へぇ~! すごいですね。

松浦: それがすごくかっこよかった。オックスフォードなんだけどレギュラーカラーっていうことで、なんだか映画監督っぽいというか、すごく大人な感じがしたんです。

金子: 色気があるというか。

松浦: そうですね。思えば若いときはかっこいい人をいつも探していました。かっこいい人の何がかっこいいかを自分なりに解釈して吸収して。そうやって考えることを教わりましたね。その一人にコッポラがいるんです。

金子: すごくいいエピソードですね。

松浦: ボタンがプラスチックだったり、ステッチが白かったり、ボックスシルエットだったり、デザインとまた別の機能的な部分。そういうところに惹かれるんですよね。決してファッションのためにつくられていない感じ。金子さんなら理解してくれると思うんですけど、ダサくてかっこいい感じというか。これからもずっとこのシャツは着続けると思います。

金子: ひとつ一つのディテールが機能としてつくられているから、おしゃれ目的ではないんですよね。でもそれがかっこよくて、意味があるというか。肩のステッチも2本針で打たれていて、きちんと長く着られるように丈夫につくられていますね。

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事#着ぶくれ手帖

もっと見る