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FEATURE
着ぶくれ手帖 特別対談松浦弥太郎と金子恵治が語る、お洒落と自意識と物欲と。後編
Yataro Matsuura × Keiji Kaneko

着ぶくれ手帖 特別対談
松浦弥太郎と金子恵治が語る、
お洒落と自意識と物欲と。後編

前編に続き、エッセイストの松浦弥太郎さんと、ミスター着ぶくれこと金子恵治さんの対談をお届けいたします。ものに対して一家言ありまくりのお二人が膝を突き合わせて話したならば、それは当然「なにつくる?」という話になるわけで。さてさて、どんなアイテムができあがるのでしょうか? 前編に続き、長い長い対談ですが、どうぞ最後までお読みください。

  • Photo_Shota Matsumoto
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Komuta

PROFILE

松浦弥太郎

1965年東京生まれ。2002年、中目黒にセレクトブックストア「COW BOOKS」をオープン。2006年より9年間『暮しの手帖』の編集長を務めたのち、2015年春からクックパッド株式会社に入社。同年にウェブメディア『くらしのきほん』を立ち上げる。2017年には株式会社おいしい健康の共同CEOに就任。さらに『DEAN & DELUCA MAGAZINE』の編集長としても活躍。これまでに多くの書籍を出版しており、代表作として『今日もていねいに』(PHP文庫)、『しごとのきほん くらしのきほん100』(マガジンハウス)など。

PROFILE

金子恵治

ファッションバイヤー。セレクトショップ「エディフィス」にてバイヤーを務めた後に独立。自身の活動を経て、2015年に「レショップ」を立ち上げる。現在は同ショップのコンセプターを務めるとともに、さまざまなブランドやレーベルの監修も行う。

着ぶくれ手帖 特別対談
松浦弥太郎と金子恵治が語る、お洒落と自意識と物欲と。前編

コミュニケーションではあるけれど、プレゼンテーションではない。

ー前編では松浦さんが着ている服について、そのストーリーも教えてもらいました。どれも特別な愛着があって、長く着られている。アイテムによっては30年以上もワードローブの定番として愛用されている服があるなかで、マンネリ化することはないんですか?

松浦: 飽きないですね。ぼくはシーズンを通してコーディネートのパターンが5つくらいしかなくて、それを繰り返しているだけなんです。これは人におすすめしないし、ぼくのダメなところでもあるんですけど、毎日何を着ようか考えるのがしんどいんです。

金子: 昔はそうじゃなかったんですか?

松浦: それを楽しんでいた時期もあったけど、自分を着飾るということは、結局のところ何かを演じることになりますよね。ぼく自身はそうすることで、照れくさいというか、どこかウソをついているような気持ちになってしまって。それがどうも居心地がよくなくて、それだったら自分が決めているパターンを続けたほうがラクなんです。それはやっぱりひとつ一つのアイテムに愛着があるからなんですよ。そこにはぼくのストーリーがあるから、誰にどんな印象を持たれても構わない。

ーファッションはコミュニケーションツールとして機能する側面がありますが、ある種の自己満足に近い気持ちがあるということですか?

松浦: もちろんコミュニケーションではあるけれど、プレゼンテーションではないんです。プレゼンをする必要はない。自分はこれが等身大で、自分の価値観はこうだっていうのが定まっているだけなんです。それでコミュニケーションはできるけど、あえて自分をそれ以上に見せるようなプレゼンはしないということですね。

金子: 松浦さんを街で何度も見かけているんですけど、今日話していたように、服を日常の道具として着られている感じがぼくには伝わってきて。秋を迎えてちょっと肌寒くなってきた時期に〈パタゴニア(patagonia)〉のフリースを着て商店街を歩いていたんですけど、それを見たときにぼくは「秋がやってきたんだな」と思ったんです(笑)。

一同: (笑)。

金子: 木の葉がだんだんと紅く染まっていくのと同じように、季節の移り変わりを松浦さんから感じたんです。ぼくがつくっている〈LE〉も、松浦さんのような方に自然に日常のなかで着てほしいなと、初めて理想の“LE像”みたいなものが見えました。

この前会ったときもラガーシャツを着られていて、絶対に古着だろうなと思ったら、そちらも30年以上着られているとのことでした。それで「最近はこういう服がなくて困っている」とお話をされていて。ぼくの周りにはファッションを生業としている人がたくさんいますが、そういう会話をする機会がほとんどないんです。松浦さんはちょっと次元が違う。

だけど、お話を聞いていて共感をする部分がすごく多くて。まだ自分はそこまでいけてないけど、なんかわかるというか。

松浦: とはいえ、ぼくも物欲が生まれて、新しいものを買ったりするときもあるんです。それで失敗したなと思うこともたくさんあったんですけど。やっぱりいつもと変わらない暮らしが基本としてあって、自分の持っているもの、着ているものがそこから遠くなっていくとストレスを感じてしまう。だから等身大というか、自分と距離が近いものだとラクだし、いいなぁと思うんですよ。

ー金子さんのお仕事は、そうして得られたインスピレーションをファッションとして提案するのが役割ですよね。日常の道具をかっこよくプレゼンしなければならなくて、そこに難しさは感じないですか?

金子: 結局、ぼくのやっていることも“モテ”にはつながっていないという実感があるんです。でも一方では、それを着てくれる人たちにとってしっくりくる服になっているという実感もある。「501®」はモテないというお話がありましたけど、ぼくらはそれをアレンジして、もうすこしみんなが穿きやすかったり、馴染みやすく感じられるように提案するのが役割だと考えているんです。

松浦: 金子さんは服を通してライフスタイルを発信していますよね。服を通して物語をつくるとか、服を通して生活を考えるとか、服を一冊の本のように楽しむ。そうした動きを促進するようなアプローチを感じるんです。

明日ぼくは長野の塩尻という山へ行くんですけど、そこへ行くのにアウトドアメーカーの服を着たいとは思わなくて。だから〈LE〉のシャツを着ようと思っているんです。

金子: そうなんですか? それはうれしいです。

松浦: 自然のなかでアウトドアの服を着ていると様になるんだけど、自分の中ではオーバースペックな気がするんですよ。山奥になれば話は変わりますけど、クルマで行けるところだし、普通の服でいいんじゃないかな? と思うわけです。〈LE〉のシャツって真っ白いですよね。それを自然のなかで着たら気持ちよさそうじゃないですか? そういう発想です。

ーそうした考え方に松浦さんと金子さんの共通点があるような気がします。

金子: あのシャツの値段は高すぎず安すぎずで、変な話、汚れてもすぐに買い換えられるギリギリの価格帯を目指したんですよ。クオリティもあれ以上いい必要はない。だけど、着込めばすごく味がでる生地を使っていて。

松浦: アイロンをかけてから3日目くらいがちょうどいいですね。だから昨日アイロンをかけて、明日着てちょうどいいくらい。

金子: 山へ行くために白シャツにアイロンをかけているあたりが、やっぱり松浦さんですね(笑)。

松浦: ただ自分が心地いいことをしているだけなんです。日常のツールとして服を選んで、せっせと手入れをして、ずっと愛着を持つということは、気分的にすごくいいですよ。だけど一長一短で、ぼくは気にしてないですが、トレンドに対して線を引いちゃうところがある。つまり情報に疎くなっちゃうんですよ。それがいき過ぎて、情報を否定してしまう怖さもあって。そこはバランスが必要だなと思います。

「昔のものがいい」「丈夫なものがいい」「現代のものはいらない」っていうような人にはなりたくないじゃないですか。だからそのあたりは、堅くなりすぎないようにしないといけないですよね。

金子: いろんな服を着て、山に対しても経験があるからこそ、白シャツで十分ってことですよね。その経験値が大事だと思います。

松浦: オーバースペックになると、ちょっと気恥ずかしいですよね。何かをするためにいろんな用意をしなければならない。本当はそんなことする必要がないのに。

金子: まだ若いうちは準備が楽しかったりとか、あれこれと考えることも必要だと思います。

松浦: そうですね、ぼくもそう思います。そのうえで道具を選んだり身につけるときは、日々しっかりと手入れをすることが大事です。手入れをしておけば長く使えるし、愛着が湧くし、ものへの理解も深まりますから。

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