CLOSE
FEATURE
着ぶくれ手帖 特別対談松浦弥太郎と金子恵治が語る、お洒落と自意識と物欲と。後編
Yataro Matsuura × Keiji Kaneko

着ぶくれ手帖 特別対談
松浦弥太郎と金子恵治が語る、
お洒落と自意識と物欲と。後編

前編に続き、エッセイストの松浦弥太郎さんと、ミスター着ぶくれこと金子恵治さんの対談をお届けいたします。ものに対して一家言ありまくりのお二人が膝を突き合わせて話したならば、それは当然「なにつくる?」という話になるわけで。さてさて、どんなアイテムができあがるのでしょうか? 前編に続き、長い長い対談ですが、どうぞ最後までお読みください。

  • Photo_Shota Matsumoto
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Komuta

ソックスや下着をきちんと選んでいる人はおしゃれだと思う。

松浦: 金子さんの服についても知りたいです。

金子: ぼくの唯一の30年選手は、このボーダーのカットソーなんですよ。

松浦: ぼくもこれ、持ってます。

ー〈セントジェームス(SAINT JAMES)〉ですか?

金子: そうですね。18か19歳くらいのときに手に入れたんですけど。

松浦: 当時〈セントジェームス〉を買うのって大変じゃないですか? 売っているお店が少ないですよね?

金子: 大変でしたね。きっかけは『ビギン』で連載されていた蔡(俊行 注:フイナムを運営する株式会社ライノ代表)さんの「10年選手モノ語り」を読んだからなんですよ。白と青のボーダーのカットソーが掲載されていて、それを見て憧れて、いろんなお店を探し回ったんです。蔡さんの10年を越えたくて、もちろん外でも着てましたけど、寝間着としても着たりしてました。

当時のぼくにはサイズが大きかったんですけど、歳を重ねていまはちょうどよくなりました。松浦さんが話すようにぼくはこの服に愛着があって、カットソーとしてはお役御免なんですけど、手放せないアイテムのひとつです。

松浦: 海外に行くときに、ぼくはこれを必ず持っていきますね。1枚あるとすごくいいというか。いま金子さんが着ているニットは新しいものですか?

金子: そうなんです。去年久しぶりに海外の出張へ行ったんですけど、コロナ禍で国内で仕入れをしているときは、国内のメーカーやブランドとコラボすることが多かったんです。それでとにかくインポートを超えるものづくりをしようと思ってがんばって。だけどいざ海外へ行っていろんなものを見ていると、品質は絶対に日本のほうが上なんですけど、なんだかワクワクするものがあって。それでひたすらいろんなものを買ってきました。これもそのうちのひとつなんです。

松浦: なんだか形がいまっぽいというか。

金子: サヴィル・ロウにある〈アンダーソン&シェパード(Anderson & Sheppard)〉というテーラーブランドの、カジュアルラインの服ですね。素材は春向けでコットンなんですけど、スコットランドでちゃんとつくってるんです。

松浦: 肩のつくりがたっぷりしてて、着やすそうですね。

金子: たしかにちょっとモダンな感じはしますね。クラシックなものよりは少しだけゆるめにつくられていて、欧米向けだから着丈が少し長くて。自分の体型には合わないんですけど、ものとしてすごく惹かれるから、いろいろ工夫しながら着ているんです。そういうファッションの楽しみ方がぼくは好きなんですよ。

ー着こなしの技術でどうにかしているわけですね。

金子: ぼくが国内でつくるものは、日本人がかっこよくなるようにつくっています。それがいいと思ってやっているんですけど、自分が個人的に惹かれるものはどこかいびつなものが多いですね。コロナ禍を経て気づいたのはそういうことなんです。着にくいものをがんばって着られるようにするというか。それが着こなしのムードにつながってたらいいなと思うんです。

松浦: シャツは〈LE〉ですか?

金子: これは〈ポール ハーデン(Paul Harnden)〉ですね。これも10数年は着ています。「エディフィス」で早いうちから取り扱っていたんですけど、全然売れなくて(笑)。

松浦: 〈ポール ハーデン〉のシャツは衝撃的でした。ぼくも持っているんですけど、クラフト感があるというか、手仕事でつくられていますよね。

金子: いろんなシャツを着てきましたが、これもアンバランスなんですよ。だけど、それでもいいやと思えるところがあって。着倒していけばいつか似合うんじゃないかと思いながら、ずっと着ています。

松浦: パンツはどちらのですか?

金子: これは愛知の尾州にあるデニム屋さんのものですね。〈大江洋服店〉という名前なんですけど。

松浦: オーダーですか?

金子: いえ、量産しているアイテムです。本当に朝から晩までデニムのことしか考えていない人がいて、その人と名古屋の「ミツル(mitsuru)」という古着屋さんがコラボしてつくったジーンズですね。先日、自分の愛用品として「501®XX」を紹介したんですけど、これもいわゆる大戦モデルをベースに微妙な編集がされています。オリジナルはちょっとだけ野暮ったいシルエットなんですが、これはウエストを1サイズ小さくつくっているんです。なので少しだけ細身になっているんですよ。テーパードも弱くて、ストレートで穿けるところも気に入ってます。

松浦: ストレート、いいですよね。

金子: ストレートと謳われているシルエットも、実際にはテーパードしているものが多いなか、これは本当にストレートなんですよ。だからスニーカーでも革靴でもなんでも合う。

それと大江さんの工房にもお邪魔させていただいて、半日くらいお話を伺ったんですけど、それによって思い入れがグッと強くなりました。だから、ただ買っただけとは違うんですよね。

松浦: ブラックデニムはクールですよね。

金子: インディゴも持っているんですけど、最近はブラックがいいなと思ってて。インディゴはワーク色が強くなりますけど、ブラックはファッション的側面が強くなりますよね。タウンユースとしてどこにでも履いて行きやすいんですよ。

松浦: 靴は?

金子: これはウィーンの〈マテルナ(MATERNA)〉という、ハンドメイドのシューズです。昔から憧れていたブランドだったんですけど、買えるところがなくて。だけど、たまたま中古を日本で見つけて、履いてみたらサイズもピッタリだったんですよ。ぼくが持っている靴のなかでいちばんジャストフィットしている靴ですね。

松浦: 黒い革靴に白のソックスという合わせがかっこいいです。

金子: 今日は松浦さんと会うし、ちょっと清潔感を出すために白ソックスにしたんです。

松浦: 黒やグレーにせずに、白っていうところが素敵だなと思いました。

金子: これは〈パンセレラ(Pantherella)〉っていうイギリスのブランドのもので、ぼくはロングホーズという丈の長いソックスをよく履いてます。ドレスのソックスだから夏でも熱くないし、ずり下がるのもあまり好きじゃないんです。ピタッとしているのが気持ちよくて。いま履いているのは別のモデルで下がってくるんですけど、ちょうどいい丈感に収まるんですよ。靴を履いたときの滑りもよくて、気に入っているんです。

松浦: ソックスって選ぶの難しくないですか?

金子: 靴下はやたら買いますね。箱いっぱいに現役のソックスたちが詰まってます。イギリス製のものが多くて、〈コーギー(Corgi)〉もたくさんあるんですけど、ずり下がってくるんですよね。

松浦: ぼくも今日〈コーギー〉を履いてますけど、やっぱりそうなっちゃいます。唯一ぼくが悩むのは靴下ですね。どれを履こうかなって。

金子: 色なのか、厚さや編み方なのか、その両方なのか。

松浦: 基本的には適度な厚さがないと不安になるんです。ソックスって見えるものでもないし、安く済まそうと思えば簡単にそれができるじゃないですか。だけどそこをちゃんと選んで履いている人は、たぶんおしゃれなんだと思う。下着とかも同じですよね。ぼくはできるだけ〈コーギー〉を選んでいますけど、なかなか売っていないから、見つけたときに買うようにしてますね。

金子: 〈コーギー〉は別注ができるので、もしなにかあれば一緒にものづくりしたいですね。

松浦: ゆるゆるで落ちてくるところが気になるんですけど、これが直ってしまうと〈コーギー〉じゃなくなっちゃう気もするんです(笑)。

金子: たしかにそうかもしれないですね(笑)。

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事#着ぶくれ手帖

もっと見る