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着ぶくれ手帖 特別対談松浦弥太郎と金子恵治が語る、お洒落と自意識と物欲と。後編
Yataro Matsuura × Keiji Kaneko

着ぶくれ手帖 特別対談
松浦弥太郎と金子恵治が語る、
お洒落と自意識と物欲と。後編

前編に続き、エッセイストの松浦弥太郎さんと、ミスター着ぶくれこと金子恵治さんの対談をお届けいたします。ものに対して一家言ありまくりのお二人が膝を突き合わせて話したならば、それは当然「なにつくる?」という話になるわけで。さてさて、どんなアイテムができあがるのでしょうか? 前編に続き、長い長い対談ですが、どうぞ最後までお読みください。

  • Photo_Shota Matsumoto
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Komuta

いまのままの自分でいいとは思っていない。

松浦: ぼくがもし金子さんと一緒に服づくりにチャレンジするとしたら、このシャツをつくりたいですね。オックスフォードのレギュラーカラーシャツ。プラスチックボタンで、このステッチを再現して。

金子: このシャツ、前身頃はドレスシャツとしてつくられているけど、袖のディテールを見るとワークっぽいですよね。要するに軍人の制服としてつくられていたんでしょうね。前はネクタイを締めて、ジャケットを羽織ったときも様になるようになってて。

松浦: このシャツがまたあったら買いたいなって思います。

金子: 一緒につくりましょう!

ーお二人の知恵を出し合いながら服づくりをしたら、素敵なものができそうですね。

松浦: そう思いますね。このシャツにはもちろん愛着があるんで、これも大事にしたいですけどね。

話をしながら気づいたんですけど、長い旅行へ行くときに何を持っていくか、何を選ぶかというところに、その人のライフスタイルや価値観が表れるような気がします。

ー短い旅行や出張だと、機能などを重視する傾向にありますが、期間が長くなると、愛着のあるものを選ぶかもしれないですね。

金子: 海外のファッションウィークに出張へ行く人を空港で待ち構えて、松浦さんが荷物チェックしたら面白そうですね(笑)。

松浦: 見てみたいですね。それこそいろんな考えの人がいて面白そうです。そこそこ長く生きていると、自分の持ち物や愛用しているものについていろいろと語り尽くせるということが今日わかった気がします。あとは帽子やバッグ、メガネとかもありますし。

金子: そのメガネも気になりますね。

松浦: これは60年代に「FRAME FRANCE」というフランスの眼鏡工房で手作りされたメガネで、ずっと探していたんですよ。デビット・ホックニーとか、建築家のフィリップ・ジョンソンがしていたのと全く同じものです。

ー独特の形をしていますよね。

松浦: ただの丸メガネではないですね。ツルも短いし、結構独特です。絵描きとかそういうクリエイターが使うような丸メガネで、最近買いました。こだわって昔ふうにガラスレンズにしています。ガラスなので本当に真透明なんですよ。視力が弱くなってメガネが必要になったときにいろんなものを試して、これからの人生でどれかひとつに絞ろうと思って、やっと出会ったんです。

金子: それで見つけたアイテムということですね。以前会ったとき、古いクルマとかも処分されたって仰ってましたよね。いつ頃からそういうムードというか、ものを減らす方向に考え方が変わったんですか?

松浦: 10年ほど前ですね。時計やカメラもコレクションをするのが好きだったんですけど、45歳くらいになって、ものを所有することに興味を失ったんです。

ーそれは年齢的なものですか? それとも時代のムードも多少は影響しているのでしょうか。

松浦: 年齢的なものだと思います。コレクションって時間も手間もかかるし、いろんな心配事が増えるんですよ。気持ちが削がれてしまうじゃないですか。

ー何かひとつ手に入れたら、何かひとつ手放したほうがいいって言いますよね。

松浦: そうそう、そういう感じにしたんです。ぼくは自分が好きになったものに対して突き詰めてしまう性格なんですけど、結果として疲れてしまった。だから普段着も時計もメガネも、決まったものでいいやってなったんです。

カメラも〈ライカ(Leica)〉を処分したんですけど、最近またそのブームが再燃していて。いまはスマホで気軽に写真が撮れますけど、その中でもう一度フィルムに面白さを感じてきたんです。むかしはスナップカメラで日常を切り取って、フィルムを現像して楽しんでいましたけど、いまはスマホでそれができるじゃないですか。だけど、フィルムだったら自分はいま何を撮るんだろうっていうことに興味が出てきたんです。それでどうせなら〈ライカ〉がいいなということで、もう1度買い直す予定です。

金子: なんていうモデルですか?

松浦: 「M2」ですね。レンズは「ズミクロン(Summicron)」の8枚玉のブラックペイントです。それを福岡まで買いに行こうと思ってます。空港でコレクターの方と待ち合わせて、ものを拝見して、そのまま買って帰るっていう(笑)。

金子: そこまでして手に入れたいカメラなんですね。

松浦: そうでもしないと手に入らないんですよ。

ー最近はフィルムの値段がすごく高騰しているそうですね。

松浦: そうなんですよ。そういう条件のなかで自分がなにを撮るか。

ーそれは自分に対する興味ですか?

松浦: そうですね。ぼくは何を撮りたいんだろうっていう。

金子: 気になりますね。そういうフェーズがまたやってきたわけですよね。

松浦: 自分に対する関心ですね。

金子: そういうところがいいですよね。いろいろ処分しながらも、まだ自分の興味に対して正直というか。新たにものを買っているというところが。

ーお話を伺いながら、ものを減らしてどんどん研ぎ澄まされていくのかと思いきや、まだまだ物欲がありそうですね(笑)。

松浦: いつも揺れ動いているんですよ。なんだかんだいって、やっぱりモテたい気持ちは捨てきれないんです(笑)。

金子: 今日はやたらモテの話が多いですね(笑)。

松浦: 思春期にどういう自分になりたいかと考えたり、何を着ようか選ぶ気持ちの裏側には、やっぱり「モテたい」という思いが原動力としてあると思うんですよ。そのために何を所有して、どういう生活をしたいか考えるのは、健康的なことだとぼくは思います。

金子: ぼくもモテについて考えてみようかな(笑)。

松浦: まず、定義について考える必要があると思いますよ。ぼくや金子さんの考える“モテ”って、どういうことなのか。

ぼく自身いまのままでいいとは思ってなくて、弱さやなにか欠けているものがあるから、それをプラスできるようにすれば、もっと人として魅力的になれると思うんです。だから常に何かを探しているわけなんですけど。

金子: たしかに。探すことは止めないですね。ものを増やしたいわけではないけど、探す手は常に動いているというか。

松浦: 「買わないよ」って言っているわけではないんです。

金子: そうですよね。なんだか今回、すごくいいお話が聞けてよかったです。

松浦: なにか一緒につくりたいですね。

ーやっぱりオックスフォードのレギュラーカラーシャツでしょうか。

松浦: シャツつくりたいですね。これの白が欲しいんですよ。

金子: あったらよさそうですね。ぜひ一緒につくりましょう!

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