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着ぶくれ手帖金子恵治とバウワウによる、愛嬌のあるものづくり。
Keiji Kaneko × BOW WOW

着ぶくれ手帖
金子恵治とバウワウによる、愛嬌のあるものづくり。

バイヤーの金子恵治さんが、ファッションに関するありとあらゆることを掘り下げていく連載「着ぶくれ手帖」。今回は、ストリート経由の視点で古着を見つめる〈バウワウ〉のディレクター、権守健一さんが登場。リアルなヴィンテージ加工を得意とする同ブランドのアイテムを、金子さんが調理したら、見事なまでに素朴で“愛嬌”のある服が生まれした。古着をキーワードとしたふたりのファッション談義を中心に、今回のコレクションが生まれた背景に至るまで、服に対する果てしない情念の記録をお届けします。

加工の系統の中でも、権守さんは流派が違う。

ー権守さんはもともと、原宿の「ロストヒルズ」でオリジナルアイテムやライセンスブランドの企画や生産をされていたんですよね。

権守: そうですね。「ロストヒルズ」の前は千葉のセレクトショップにいて。

金子: なんていうお店ですか?

権守: 「エンプティ」と「クロス」っていうお店です。どちらも友人と共同経営をしていました。

ー全国的に影響力のあるお店だったというのを聞いたことがあります。

権守: 当初はストリート系のお店だったんですが、途中から王道のアメカジアイテムも取り扱うようになって。

ー当時の権守さんはどんなファッションが好きだったんですか?

権守: 裏原が好きでしたね。10代の頃は毎週のように原宿に行ってました。20代の前半はレコードしか買ってなかったんで、その頃はファッションに対してそこまで情熱がなくなってて。その後、少しずつ復活して、服屋をはじめて。だんだんと服がつくりたいっていう気持ちが湧いてきたんですけど、つくり方がわからなくて(笑)。いろんなブランドが古着を参考にしているのは分かっていたので、古着を掘り下げる様になったんですよ。

金子: その頃から服をつくりたいと思っていたんですね。

権守: そういう気持ちがありました。でも、自分がいたお店でつくっても売れないだろうなって思っていたので、「ロストヒルズ」に入っていろいろやらせてもらって。そのあとに独立したんです。

金子: じゃあ「ロストヒルズ」でものづくりを独学で学んだということですか? 専門学校とかに通ったわけでもなく。

権守: そうですね。ただ好きっていう気持ちだけで。

ー独学のスタイルでものづくりをはじめるところに〈バウワウ〉のおもしろさがあるんですかね。そして、そこに金子さんが目をつけるのもユニークというか。

金子: すごくリアルな感じがしたんですよ。「これってヴィンテージ? 」って思うくらいスムーズだったというか。そうゆうレベルだったんです。裏側が見えないというか。

ーありとあらゆる服を見てきた金子さんでも、そんなことを思うんですね。

金子: 二歩も三歩も奥に入りこんでいる感じがして。加工って、絶対にどこか妥協している部分があると思うんです。どのブランドも色気を出したいから、やりすぎないようにしていて。

だけど権守さんの場合は、加工の突き詰め方が半端じゃない。そのぶん色気はないんですけど、また違うベクトルの魅力があって。きっと自分が納得するものづくりを目指しているんだろうなと感じるんです。加工の系統の中でも、権守さんは流派が違うというか。ぼくが古着を見る視点で見てても、わからないくらいのレベルまで行っちゃってるんです。

権守: 自分の中でずっと意識していることがあって。それは“愛嬌”なんですよ。それだけを表現しようと思ってて。自分は古着が好きで、いまでもいっぱい買うんですけど、たくさんアイテムがある中で自分がいいなって思うのはそんなに多くないんですよね。なにを目安に選んでいるんだろうって考えたことがあって、辿り着いた答えが愛嬌だったんです。

金子: それ、めっちゃわかります。

権守: 新品の服はあまり見ないんですけど、友達の服には愛嬌を感じるんですよね。だから自分でつくる服は愛嬌のあるものしか出さないと決めていて。

金子: 古着をベースにしたものづくりをしていても、元ネタのサンプリングがすごく特殊なんですよ。そこにはたしかに愛嬌があるかもしれない。リアルさばかりに目を奪われていたけど、たしかにぼくが気になったものって愛嬌があるものばかりですね。

権守: ぼくは金子さんが着ているものにも愛嬌を感じますね。

金子: お客さんに「古着をどうやって選んでるんですか?」ってよく聞かれるんですけど、ぼくなりに光るものが見えるときがあって。パッと手に取ると、これだってなるんです。それもたぶん愛嬌なのかもしれないな。

ーその“愛嬌”という言葉をもっと掘り下げたいですね。

権守: ひとそれぞれだとは思うんですが、古着を突き詰めていくと、みんな同じものに反応するんですよ。海外の話を聞くと、エディ・スリマンやカール・ラガーフェルドも、みんな古着を掘っていて。この前、うちのお店にラフ・シモンズが来たんですけど、触る古着にはどれも愛嬌があって。その感じを〈バウワウ〉でも出したいんです。

金子: 正統派な感じではないですよね。これは余談ですけど、ぼくがむかしいたセレクトショップの社長がめちゃくちゃ愛嬌っていう言葉を使っていたのを思い出しました。オリジナルのアイテムに対しても「これには愛嬌がない」って言ったりして、定番のアイテムも毎シーズン、数ミリ単位で調整をしながら愛嬌を出すようにしてたんです。

権守: 最高っすね(笑)。

金子: そういう視点を入れると、つくるアイテムも変わってきますよね。

権守: サンプルが上がってくると、最初はたいがい愛嬌がないんです。そこからどうやって愛嬌を出すか考えて、納得のいくものをつくってます。

ー加工に愛嬌を乗せていくということですか?

権守: 服には生地、パターン、縫製の3要素があるんですけど、生地にもパターンにも愛嬌が出るように意識してますね。加工はあえてやりすぎたりしてリアルさを追求してますね。

INFORMATION

『バウワウのすゝめ』 金子恵治

会期:12月2日(土)〜12月3日(日)
場所:BOUTIQUE
住所:東京都港区北青山2-12-42 秀和第二北青山レジデンス 1F
時間:12:00〜19:00

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