本当に小さなプロジェクトだから成り立つ部分もある。
ー生地だけではなくて、小さなディテールも見逃さずに検証されていたんですよね。
松浦: ぼくも長年着ていたけど、金子さんとやりとりをしながら見れば見るほど発見することが多かったですね。
金子: ありましたね~(笑)。
松浦: このふたつのオリジナルアイテムは、微妙にポケットの形が違うんです。

金子: 「U.S. AIR FORCE」のほうはなんか丸っこくて愛嬌のある形をしていて。そっちのほうがかわいいよねっていうことで、そのディテールを採用しましたね。
松浦: よく見ると襟のパターンもちょっと違ったりして。あとはカフスもそうだし。

金子: そうそう。〈ヴァン・ヒューゼン〉は剣ボロがあってドレスな仕様。一方で「U.S. AIR FORCE」はイッテコイというワークウェアに見られるディテールになっていて。
松浦: イッテコイだとヴィンテージ感が強くなりすぎてしまうんです。
金子: それでぼくらは結局、剣ボロの仕様を採用することにしたんです。古着って同じアイテムでもつくられた時期によってちょっとした個体差が生まれますよね。どうしてそうなるんだろう? っていつも思うんですけど。

ーおふたりで話し合いながらどのディテールを採用するか決めていったわけですね。
松浦: そうですね。でも、すごく感覚的でしたよ。完全に好みの話だから。
金子: ルールはないですもんね。お互いの気分を探り合いながら、「こっちにしましょうか」っていう決め方をして。

松浦: あとはステッチですよね。それをどこまで再現するかと、前立ての裏にある白いパッチをどうするか。結局パッチは活かしたんですけど。
金子: こういうのも色気がないけど、なんだか惹かれてしまうんです(笑)。
ーこうゆうディテールはヨーロッパものの古着にはなさそうですよね。
松浦: そう思いますね。
金子: こんなダサいことはしないっていうか、全然ファッションじゃないんですよね。でも、そこがいい。
松浦: ファッションではなくて道具なんですよね。
金子: そこに我々が勝手に萌えている(笑)。
ー完成したシャツは〈ヴァン・ヒューゼン〉寄りになっていますか?

金子: そうですね。日本でものづくりをしようとすると、どうしても丁寧なつくりになるんです。どうやっても“MADE IN USA”のクオリティにはならない。それも考慮して、こっちをベースにしたというのもありますね。
ーよく見ると、細部がこだわったつくりになっているのが分かります。
金子: 50年代はそういうことをしていた時代なんだと思います。それ以降になると大量生産が当たり前になって、余計なことをしなくなるんですけど。

金子: よく見ると襟もカーブしているんですよ。真っ直ぐのほうが絶対につくりやすいのに。「U.S. AIR FORCE」も近年のものはすごく雑なつくりになっていて、これが最後のいい時代なんじゃないかなと思います。

松浦: あとは背中のプリーツもいいですよね。この中途半端な感じが可愛いらしくて(笑)。もうちょっと摘めばタックとして、しっかりとした表情が出たはずなのに。
ーそうしたディテールの積み重ねがモノの魅力に繋がっているような気がします。
松浦: そう思います。ぼくらかすると萌えるポイントがいっぱいあるんですよ。
金子: あと、生地は苦戦したところがあったんです。ところどころに節が入っちゃうんですよ。つくる前から生地屋さんに「絶対に出るんでB品にはしないでください」って言われてて、
松浦: ぼくからしたらそれはすごくうれしいポイントなんですけどね。自分が持ってるオックスフォードは、みんなそんな感じだから。
金子: やっぱりこの生地を目指すと、安定しないものになるっていう。お店で接客して販売するならOKかもしれないけど、いまはECでも販売しなきゃやっていけない時代だから、後々面倒なことになることを考えると、納得のいくものづくりができないっていうことが絶対に起こると思うんです。だけど、ぼくらの場合は本当に小さなプロジェクトとしてやっているので、成り立つ部分もあるのかなと。

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