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着ぶくれ手帖FOUNDOURを通して見つめる金子恵治の“はずし”の美学。
What is FOUNDOUR?

着ぶくれ手帖
FOUNDOURを通して見つめる金子恵治の“はずし”の美学。

ファッションバイヤーとしてはもちろん、一方ではさまざまなブランドのディレクターとして、八面六臂の活躍をする金子恵治さん。そんな彼がヴィンテージ・ディレクターの河田新平さんをパートナーに迎えて、新たなブランドをスタートさせます。その名も〈ファウンダ(FOUNDOUR)〉。ヴィンテージの山の中から気になるアイテムをピックアップし、そこから服づくりのアイデアを膨らませ、最高のパターンと仕立てでモダンな感性を加える。そうして生まれるのは単なるレプリカにあらず、「ワードローブに差し込める“はずし”となる服」だと話します。毎度一筋縄ではいかないものづくりをする金子さんですが、今回も御多分に洩れず、ファッションに対するあくなき探究心がそこには注がれている模様。ではさっそく、そんな新ブランドについて語ってもらいましょう。

ぼくなりのチープシックみたいな感覚。

ー具体的に〈ファウンダ〉には、どういった服がラインナップしているんですか?

金子: どのアイテムもヴィンテージをリファレンスにものづくりをしています。たくさんの古着の山から気になる服を探し出して、そこに自分なりのアイデアを加えて、最高のパタンナーや工場と一緒にものづくりをする。「FOUND=探し出す」、「OUR=最高のチーム」という言葉を掛け合わせた造語がブランド名の由来です。

それとヴィンテージ・ディレクターの河田新平がパートナーにいることも〈ファウンダ)〉の強みです。彼のおかげで信じられないぐらい珍しいものや貴重なものに出会えるし、それこそリファレンスとなった服の中には何百万円もする価値のあるものも存在していて、ぼくの憧れがベースとしてありますね。そうしたアイテムをパタンナーと一緒にシルエットの分析をして、パターンをつくって、それを縫える工場に縫製を依頼しています。

ー服自体にしっかりと意味が込められているというか、ストーリーがあるわけですね。

金子: もちろんです。一見すると本当に普通の服だから、言われなければわからないようなネタが詰まっています。だけど、それをあえて一般的な生地でつくることによってはずしとしての効果が生まれる。価値のあるヴィンテージだと主張が出てしまうと思うんですが、それを隠すようにつくっているのがポイントです。

ー単なるレプリカではなく、金子さん流の視点で編集されていると。

金子: 大昔につくられたヴィンテージの服に、2025年現在の生地を当て込む。それってすごく違和感があるように思うかもしれないけど、そこにぼくなりの視点で文脈を繋ぎ合わせて意味を持たせています。そうしたアプローチはこれまでのぼくの経験から見出すしかなくて、その作業がすごく楽しいんです。ちょっとした洒落といえばいいのかな。生まれたアイテムが結果的におもしろくないといけないので、そこにこだわってますね。

ー具体的に服を見たほうがわかりやすいかもしれないですね。ブランドを象徴するようなアイテムはありますか?

金子: たとえばこのデニムは、みんなが知る定番のジーンズをリファレンスにした1本です。1937年製のモデルを参考にしているんですが、シルエットがとにかく綺麗なんですよ。腰回りにゆとりがあって、膝下がストレートに落ちて誰でも似合う。そのパターンを踏襲しながら、シンチバックや股下のリベットも取り入れて、ディテールはそのままにしつつ、あえてノンセルヴィッチの普通のデニム生地でつくりました。

これに安物のパーカとかを合わせちゃうと本当に普通のスタイリングになっちゃうけど、上質なカシミヤのニットと老舗ブランドの革靴とかを合わせれば、めちゃくちゃ旨味が出てくると思うんです。

ーハイとローを際立たせることによって、スタイリングにひねりが生まれると。

金子: そうですね。だけどシルエットやディテールを踏襲しただけでは意味がなくて、普通の生地を使っているぶん、しっかりと縫製もいいものにしないとコーディネートの受け皿としての耐性が脆くなってしまいます。だから縫製とか工場選びもすごく大事にしてますね。服として本物であるというのは前提としてきちんとしたいんです。

ーなるほど。こういう合わせをするにしても、むかしの金子さんだったらセルヴィッチのデニムじゃないと物足りなさを感じていたんじゃないですか?

金子: 数年前、とある撮影用に自分の私物でモデルのスタイリングを組んだことがあるんです。ただ、そのときに自分のデニムだとモデルとサイズが合わなくて探す必要があったんですよ。なるべく低予算でかっこいいものを探そうと思って古着屋を回っていたら、90年代のアメリカ製の「550」を見つけて。それがなんだかいいなって思えたんですよね。自分用ではないから、なんか寛容になれたというか。モデルの子だったらかっこよく穿いてくれそうだなって。

金子: 結果的にすごくかっこいいスタイリングが組めたんですけど、その後もデニムはずっと家に置いてあって気になっていたんですよ。それであるとき丈を詰めて、洗って、サイズがデカいから絞って穿いてみたら、めちゃくちゃよかったんですよね(笑)。

それまでぼくは“いいもの”に走っていたと思うんですけど、こういうレギュラーの古着を合わせてコーディネートをはずす楽しさを久しぶりに思い出したというか。そのデニムも当然セルヴィッチじゃなくて、ただのカラーデニムでボロいし汚れもあって、サイズもデカいからめちゃくちゃ安かったんですけど、それを工夫して穿く楽しさがあって。それでいろいろ気づいたことがあって、こうした服を肯定できるようになったんです。

ー金子さんの中でアイデアが凝り固まっていて、はずしのはずがいつの間にか定番の型みたいになってしまっていたと。

金子: まさにそうですね。自分がそこに囚われていたような気がします。いい古着とかいい新品の服をたくさん買ってきたんだけど、いまいち自分らしく着こなせていなかった。もうちょっと引き出しがあったはずなんですよ(笑)。それを思い出させてくれたのが、レギュラーの古着だったんです。

PULLOVER SHIRT ¥27,500
こちらはアメリカのストアブランドのプルオーバーシャツをリファレンスにした1着。「ボタンダウンの襟の顔立ちが端正なのと、前立ての剣先が丸く処理されているところが気に入りました」と金子さん。驚くほど軽量で涼しいインド産のマドラスチェック地を使って、脱ぎ着がしやすいように身幅を大きく広げて仕立てた。

ー〈ファウンダ〉もそうやって、コーディネートに差し込むような感覚で楽しめたらいいですよね。

金子: トータルでコーディネートしても合うことは合うんですけど、みなさんのワードローブにある頑張って買った服と一緒に組み合わせることで光る。そこに醍醐味があります。だからプライスも、はずしの服で高くしたくないから、上がらないように気を使ってますね。ぼくなりのチープシックみたいな感覚です。

ー今日は金子さんの私物も持ってきてもらいました。

金子: あそこの奥にかかっているのは、まさに自分のワードローブです。こういう服がクローゼットの中でつまらなそうに佇んでいて(笑)。気に入っているんだけど、おもしろい着こなしができなかった服なんですよ。でも、〈ファウンダ〉を合わせることによって、こういうものが活きてくる。

OXFORD HOODIE ¥26,400

金子: たとえばこれは自分用につくった手縫いのスラックスです。素材もそれなりのもので仕立てたんですけど、これにいいニットを合わせると、ただのクラシックおじさんになっちゃいますよね。だけど、あえてこうゆうキャンバスっぽい生地で仕立てたパーカを持ってくることによって、手縫いの良さが引き立つ。

BLACK DENIM PANTS ¥36,300

金子: 一方でこちらは〈エルメス〉のコートなんですが、化繊でつくられているからスポーティなんですよ。いつもだったら〈ベルナール ザンス〉とかヴィンテージのデニムを合わせると思うんですけど、ここにさっき紹介したデニムのブラックを合わせてみたり。ブラックデニムはあえてストレッチ素材を使っているので、スポーティという文脈で合わせやすい。〈エルメス〉にストレッチのデニムって、めちゃくちゃはずしになるなと。

DENIM TRACKER JACKET ¥39,600

金子: インナーにファーストタイプのデニムジャケットを合わせるのもいいなと思ってます。ここにヴィンテージの本物のファーストを持ってくると、主張が強くて結構お腹いっぱいになっちゃいますよね。だけど、これはライトオンスの普通の生地でつくっているから、いい具合に抜けが生まれます。そういう着こなしが、いま楽しいんです。

INFORMATION

FAIR’S FAIR inc.

MAIL : info@fairsfair.jp
foundour.jp
*2025 年3月1日オープン予定

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