ワードローブを整えるような感覚がどこかにある。
ー“はずし”ってなんなんですかね(笑)。
金子: たしかに。なんではずさないといけないんだろう(笑)。だけど、粋だなって思う人たちってみんな力が抜けているんですよ。
ーはずしって、正統派があるからこそ生まれるものだと思うんです。それを知らずにはずすとなると、もはやはずしでもなくなりますよね。
金子: そうですね、そういう基礎的な着こなしの上で成り立つものだと思います。〈パタゴニア〉の服も、本来自然の中で着るものだからはずしになりますよね。街中で四駆のクルマに乗るのも、そういう意味でははずしになる。それを知っててやるのと、知らずにやるのでは意味が変わってきますよね。ほぼ自己満に近いんだけど、共感してもらえたらうれしい。
ー金子さんは常にそういうことを考えているんですか?
金子: 考えていますね。すごくコンプレックスがあるので、直球でおしゃれをしても、通用しないってどこか思っているんです。だからひとよりもかっこよくなりたいなら、はずすしかない。そのセンスで勝負するしかないんです。

ーそのセンスって、やっぱりバイヤーとしての経験によって培われたんですか?
金子: そう思います。本当に世界中いろいろ回ってきたし、いろんな文化に触れて知識を得て、着こなしもたくさん見てきたので。その中でこれは正しい、これは違うという判断基準みたいなものが養われてきたように思います。
〈ファウンダ〉に関しても、リファレンスとなる服は年代もジャンルもバラバラなんですよ。ほとんどアメリカものなんですけど、それ以外は全然ちがう服の寄せ集めなんです。だけど本当にぼくが好きなものであるところは揺るぎない。ワードローブを整えるような感覚がどこかにありますね。

MOUNTAIN PARKA ¥74,800
1970年代に誕生し、80年代には姿を消してしまった知る人ぞ知るアウトドアブランドのマウンテンパーカをベースにした1着。特徴的なベルクロのデザインを踏襲しながら、高密度に織ったコットン地の無双仕立てでつくることにより、薄く中綿が入ったような不思議なバランスに仕立てている。クラシックなマンパとは異なる、当時のテクニカルなムードが漂うデザインもいい。都会での着用を意識したカラーリングも魅力。

DENIM PANTS ¥36300、BLACK DENIM PANTS ¥36,300
デニムパンツの定番と知られるあの品番の1937年製のモデルは、誰にでも似合うストレートシルエットが魅力。こちらは、そんなアイテムを下敷きにしながら、あえてノンセルヴィッチの生地で仕立てた1本。シンチバックや股下のリベットなど、当時のディテールを踏襲しながら、つくりは本格。ヴィンテージと新品のいいとこ取りをした、ハイブリッドなデザインが魅力。ブラックはストレッチの効いた生地を使用しているのもポイント。

W FACE HOODIE ¥35,200
ダブルフェイスの後付けパーカは、その希少性からヴィンテージ市場でも価格が高騰しているアイテム。厚手の生地を二枚重ねしていることからヘヴィな着心地で、濡れたら乾きづらいのがネックだった。それでも好事家にとっては憧れで、〈FOUNDOUR〉では後付けしたフードや広めに取られた身幅など、当時のディテールを再現。さらにポリエステル100%の生地を使用し、軽くて、速乾性を高め、現代に通用するアイテムへと進化させている。
ーこれから全国のショップで展開されるということですが、実際にバイヤーさんたちの反応はどうだったんですか?
金子: アイテムのストーリーを楽しく聞いてもらえた感覚があります。それぞれのアイテムにいろんな小ネタが詰まっていて、たとえばダブルフェイスのパーカーなんかは、ヴィンテージだと重くて着づらいし、乾きにくいのがネックだったりするじゃないですか。だけど、それをあえてポリエステルの生地でつくることによって着心地をよくして、洗濯したあとのケアもしやすくなっている。そういうちょっとした洒落の効いたストーリーをおもしろがって聞いてくれた感触はありますね。
そうした物語をお客さまへどう伝えるかが課題です。本当に一見すると普通の服なので、ぼくのアイデアをどう解釈してコーディネートに落とし込むかという点でスタイリング力が試されると思います。もちろん服としてちゃんとしたものにはなっているので、深く読めなくても楽しめるものにはしているのですが、わかるひとはもっと楽しめると思いますね。
ーそこに金子さんらしい天邪鬼さが表れてますね(笑)。
金子: この考え方が浸透していったら、ファッションがもっと楽しめると思います。こういうアプローチって日本独特の文化だと思うんですよ。ヴィンテージとか、チープシックとか、いろんなカルチャーがあると思うんですけど、それをスタイリングでミックスする楽しさみたいなもの。それが伝わったらうれしいですね。


ーまだスタートしたばかりですが、〈ファウンダ〉のこれからについても聞きたいです。
金子: 〈ファウンダ〉に対するぼくのロジックは変わらないと思いますが、服づくりを覚えてきたら、今度は生地をつくってみようとなるかもしれない。いい生地をつくって、あえて変な縫製で服をつくってみたり。そういう可能性はあるかもしれないです。まだまだ先のことですけどね(笑)。
あとは誰かとコラボレーションするのもおもしろいかもしれない。ぼくの選ぶものがすべてだとは思っていないので、別のセレクターを立てて、そのひとのモノ選びの視点で服をつくるのもアリですよね。
女性にも着てほしいと思っているんですが、ヴィンテージがどうこうっていう話は刺さりにくい。でもパターンがいいので、着てみると結構女性にも合うと思うんですよ。だからあまり語らずに、服として勝負する。そうすると、また違った視点でおもしろいスタイリングも生まれそうな気がしています。
ーどんどん視野が広がっていきそうですね。
金子: ぼくもいまだにいろんな服を買うし、いろんなプロジェクトにも参加しています。そこで吸収したぶん、いろいろ見方も変化すると思う。そこで得た視点を今後も活かしていきたいですね。