デザイナーを公表しないアノニマスなブランドでありながら、着実にその存在感を高めている〈シティー カントリー シティー(City Country City)〉。そんなブランドの実態を探るべく、設立当初から親交の深いクリエイターたちへのインタビューを行う連載企画。謎のブランドの気になる中身を、あらゆる角度から迫っていきます。
今回登場するのは〈イズネス(is-ness)〉および〈イズネスミュージック( ISNESS MUSIC)〉のデザイナーを務めるキシタトモミさん。今回、ハウスミュージックを軸とした音楽カルチャーに精通し、それにまつわるクリエイションを手がける彼と、〈シティー カントリー シティー〉のコラボレーションが実現。過去から現在に至るまでの両ブランドの関係性を追いかけます。
音楽やカルチャーの趣味が合うと、言葉の壁を越えて通じ合える。
ーキシタさんと〈シティー カントリー シティー〉のつながりを教えてください。
キシタ:もう30年近く前の話になるんですが、“ブランドのひと”と一緒に遊んでいた仲なんです。当時、私は1994年に原宿にオープンした「パーヴ(PERV)」というショップの店長をしていました。ロンドンのダンスミュージックやストリートファッションなど、むこうのアンダーグラウンドを紹介するお店だったんです。アパレルやレコードなどの販売はもちろん、オーナーのDJ MarboさんがDJ Harveyと一緒にパーティをしていて、そのスタッフとしてもお手伝いをしていました。
ー90年代はハウスミュージックの黎明期でもありますよね。
キシタ:そうですね。とくに日本ではニューヨークのハウスがいちばんメジャーでした。ディスコから派生した音楽というか。だけど、かつてロンドンに住んでいたDJ HarveyやDJ Marboさんからヨーロッパのおもしろいダンス・ミュージックやいままで聴いたことのなかったさまざまなジャンルのレコードなどをたくさん教えてもらったりしましたね。
ー今日お持ちいただいたTシャツも、年代を感じるものばかりです。
キシタ:パーティで買ったり、いただいたりしたやつです。普段は着ないけど絶対に捨てられないものでもあります。眺めていると、当時の思い出が蘇ってくるというか。
ー“ブランドのひと”とクラブで一緒に踊っていたんですか?
キシタ:クラブ遊びはもちろん、食事をしたり、レコード屋さんに行ったり、週に3、4日は一緒にいました。当時、私が住んでいた部屋がたまり場になっていて、遊びに行く前は送られてきたプロモのレコードやゲットしたばかりの新譜をチェックしたり、必死で掘り当てた中古レコードなどを擦り切れるくらい一緒に聴き込みました(笑)
ーキシタさんが手がける〈イズネスミュージック〉は音楽にまつわるクリエイションをおこなっていますが、そうした歴史が原体験になっているわけですね(笑)
キシタ:そうかもしれません。いまでもクラブにはよく行くし、やっぱり音楽が好きで、踊るのが好きなんですよ。あと、クラブでは普段交わらないようなひとたちと一緒に遊べるのがおもしろい。
ーいろんなアイデンティティを持ったひとたちがいますよね。
キシタ:そうですね。そうしたひとたちの考えに触れることで、それがデザインにつながったりとか、クラブにいるひとたちのファッションも同じくインスピレーションを与えてくれますね。
ー〈シティー カントリー シティー〉も同じように音楽を背景にしたクリエイションをおこなっていますが、はじめてこのブランドをご覧になられたときの印象を教えてください。
キシタ:ブランド名を見て、真っ先に「WARじゃん!」って(笑)。本当に音楽が好きなんだなっていうのが伝わってきました。
ーデザインに関してはどんなことを感じたのでしょうか。
キシタ:たとえばグラフィックに関して「これってあのネタじゃん」とか、やっぱり、どこかシンパシーを感じさせてくれるところがさすがだなと。わかるひとにはわかるコアな部分がそこにはあって。一方で、その元ネタがわからないひとにも「かっこいい!」って思わせるグラフィックセンスもあるんですよ。
ーそこに魅力を感じると。
キシタ:それでいてジェンダーレスかつボーダーレスですよね。国籍や世代、性別も関係なく着られる。音楽やアートなどカルチャーの趣味が合うと、言葉の壁を越えて通じ合えるところがあると思うんです。
音楽というキーワードがあって、クラブにも着ていける。
ーそして今回、〈シティー カントリー シティー〉と〈イズネスミュージック〉によるコラボアイテムがリリースされます。
キシタ:仙台にある「ステアワイズイースト」というお店の企画で、10月にポップアップイベントを予定してます。どちらのブランドも取り扱っていただいていて、我々の歴史を知ってのお声がけでした。
ーこのアイテムが生まれた経緯を教えてください。
キシタ:お店から、スエットのセットアップがいいというリクエストがあって。そこからグラフィックをどうしようか? ということを〈シティー カントリー シティー〉と一緒に考えたんです。
ー〈イズネスミュージック〉の“ハウス”を想起させるロゴと、〈シティー カントリー シティー〉のおなじみのロゴがバランスよくミックスされていますね。
キシタ:そこはうまく調整しました(笑)。細かいところですが、“ISNESS MUSIC”の“E”の文字が〈シティー カントリー シティー〉のロゴになっていたりとか。
ーバックプリントはないんですか?
キシタ:考えていたんですが、シンプルなものがいいというリクエストに応えて、今回はあえてなくしましたね。バックプリント用にせっかくつくったグラフィックがあるから、それはどこかの機会で使えたらいいんですけどね(笑)
ーリフレクタープリントになっているのは、どんな意図があるのでしょうか。
キシタ:暗いところでも安心だから(笑)。ディーラーさんの中でも音楽というキーワードがあって、クラブにも着ていけるとか、そういうイメージもあったようです。なので、ぜひパーティに着て行ってほしいです。
ー最後に、今後〈シティー カントリー シティー〉に期待することを教えてください。
キシタ:今後のクリエイションでダークサイドやクレイジーな部分も見てみたいですね。〈イズネスミュージック〉では“ACID”って書いたTシャツなどをつくったりしていますが、そういう感じのちょっと微笑ましくなるようなネタのアイテムとか(笑)。あとはゲームやメタバースなどのバーチャル空間上でのデジタルファッションも見てみたいですね。
ーそうした仮想空間上のファッションにもハマるということですか?
キシタ:時代的にそうなってきているのもありますし、画面上で“CCC”って書いたロゴアイテムを着ているひとがいたらおもしろいなって。そうやって型にはまることなく、いつまでもエネルギッシュに活動を続けてほしいです。
キシタトモミ
1989年より服飾学校にてファッションに関するデザイン、パターン、裁縫を学ぶ一方、在学中にファッション誌の編集部でもアルバイトとして働く。 1994年に原宿にあった「PERV / パーヴ」の店長を務め、その後さまざまなショップのアドバイザーなどを経て2001年に独立。心で感じるプロダクトを生み出すべく〈is-ness〉を立ち上げた。
Photo_Yuta Okuyama
Text_Yuichiro Tsuji