デザイナーを公表しないアノニマスなブランドでありながら、着実にその存在感を高めている〈シティー カントリー シティー(City Country City)〉。そんなブランドの実態を探るべく、設立当初から親交の深いクリエイターたちへのインタビューを行う連載企画。謎のブランドの気になる中身を、あらゆる角度から迫っていきます。
今回は「ビームス(BEAMS)」のメンズディレクターである吉川基希さんが登場。このブランドとの出会いは、90年代の青春が蘇るような感覚があったといいます。そうした過去の“点”が現在につながり、今回はコラボレーションも実現。そこにはどういったストーリーがあるのか、吉川さんに語ってもらいましょう。
90年代のストリートをの残像が、頭の中に残っていた。
ー吉川さんが〈シティー カントリー シティー〉を知ったきっかけから教えてください。
吉川:インスタでおもしろいブランドはないかなと掘っているときに、〈シティー カントリー シティー〉を見つけて。なんの情報もない中で「このブランドなんだろう?」ってすごく気になったんですよ。
ーその謎を追いかけたくなったわけですね。
吉川:その後、富ヶ谷にある「Mr.Clean」で服を販売するっていうポストを見て、ぼくも行ってみようと思ったんです。オープン前にお店に到着すると、すでに5~6人くらい並んでいて、ぼく以外にも気になっているひとがいるんだなと。
実際に服を見てみると、Tシャツは〈オニータ(ONEITA)〉のボディを使っているし、最初は「『Mr.Clean』の栗原さんのブランドなのかな?」って思ったんですよ。だけど、そのとき栗原さんは不在で真相を掴めなかったんですけど。
ーアイテムは購入されたんですか?
吉川:Tシャツを買いました。普段もよく着ていて、ちょうどたまたま〈ウェルダー(WELLDER)〉の清水さんと食事をするタイミングあって、そのときも着ていたんです。そのときに「〈シティー カントリー シティー〉って知ってるの?」って聞かれて。どうやら清水さんはブランドとつながりがあるようで、別の機会に紹介するよって言ってくれたんですよ。
ー偶然がいろいろと重なったわけですね。
吉川:そうですね。それでブランドのひとを紹介していただき、展示会にもお邪魔したんですけど、そのときに「トラットリア ラ・ベルデ」とのコラボアイテムをつくられていて。このお店はぼくらもなじみがあって、原宿のとんちゃん通りにあったから、先輩たちもよく通っていたんですよね。
ー現在は原宿から内幸町に移転した、イタリアンのお店ですね。
吉川:ぼくも「ビームス」に入る前、とんちゃん通りにあるセレクトショップでアルバイトをしていた時期があるんです。その頃に先輩に連れられて行ったのが「ラ・ベルデ」で、新潟出身のぼくとしては、パスタといえばファミレスとか喫茶店でしか食べたことがなくて。だけど「ラ・ベルデ」で、分厚いベーコンのカルボナーラを食べたときに衝撃を受けたんですよ(笑)。そうゆう思い出もあいまって、〈シティー カントリー シティー〉というブランドに親近感を覚えて。
ー〈シティー カントリー シティー〉と一緒に、「ビームス」でイベントもやられてましたよね。
吉川:そうなんです。去年の12月、ちょうどクリスマスのタイミングでパーティしましょうということで、音楽を流して、お酒も提供して楽しいイベントになりました。過去から現在にかけて、いろんな点が一気に線として繋がっていったんです。
ー吉川さんが最初に気になったのは、やはりデザインも魅力的だったからなのでしょうか?
吉川:まずは90年代によく使われていた〈オニータ〉のボディをTシャツに採用していたこと。あとはロゴもかっこよかったし、なによりもデザイナー非公開という部分に惹かれました。〈グッドイナフ〉とかもそうだったじゃないですか。ぼくは高校生の頃に90年代のストリートを体験して、その残像が頭の中に残っていたんです。アイテムを展開しているお店も限定的だったし、そうしたアプローチにやられてしまったんです(笑)。
〈シティー カントリー シティー〉と〈ホンダ〉の「シティ」を掛けて。
ー「ビームス」での反応はいかがですか?
吉川:今季の最初のデリバリーはすでに完売してしまいました。とくにセロニアス・モンクをフィーチャーしたアイテムはすぐに売り切れましたね。取り扱い店舗は原宿と渋谷、そして関西の1店舗と、あとはウェブだけなんですけど、オンラインでも完売するということは、コアなファンがいる証拠だと思うんです。ぼくが最初に感じていたのと同じように、気になっているひとも多い印象です。
ー客観的にこのブランドの魅力を挙げるとしたら、どんなところにあると思いますか?
吉川:すごく日常に寄り添うブランドだなと思うんです。コーディネートのしやすさをすごく感じるのと、着ていると「そのグラフィックいいね」とか、コミュニケーションが生まれるデザインセンスもあって。かゆいところに手が届いて、主張しすぎないんだけど、メッセージはしっかりしている。そのバランスがすごくいいんだと思いますね。
ーそして、今度は「ビームス」のエクスクルーシブでアイテムをリリースすると聞きました。
吉川:そうなんです。〈シティー カントリー シティー〉と、〈ホンダ(Honda)〉の「シティ」を掛けて、カプセルコレクションをつくりました。それが決まったのも、内幸町にある「ラ・ベルデ」で食事をしているときだったんですよ(笑)。
ーそれもまた偶然ですね(笑)。
吉川:〈ホンダ〉のオフィシャルライセンスでできるということで、めちゃくちゃおもしろい取り組みになりそうだなと、ぼくらも前のめりで話を進めていきました。
ー〈ホンダ〉の「シティ」は80年代のクルマですよね。
吉川:81年の発売で、「ホンダ・モトコンポ」っていう超小型バイクをクルマの荷室に収納できたんですよ。80年代のクルマって、いますごく市場価値が上がっているみたいで、インスタでも写真をよくみかけます。
ーそれを〈シティー カントリー シティー〉のデザインに落とし込んでいると。
吉川:提案いただいたデザインがすごく魅力的だったので、そこに関してぼくらはノータッチで進行しました。〈ホンダ〉の「シティ」のロゴが、80年代の空気感を絶妙に演出していますよね。サイズ展開など、MD的な部分はぼくらが担当して、いまの時代に合ったサイズ感で着られるアイテムになっていると思います。
ー発表されたヴィジュアルもかっこいいです。
吉川:アートディレクターの菅谷幸生さんにご協力いただいて、80年代の香りが漂うものに仕上がりました。菅谷さんが得意とする都会感というか、クリーンなんだけどかわいさもあるヴィジュアルになったと思います。そして今回は通常よりも店舗展開を広げて販売するので、お近くのお店でぜひ手に取っていただきたいです。原宿店ではこのヴィジュアルを使用して、大々的に今回のコラボレーションを盛り上げていくので、そちらも注目いただけたらうれしいです。
ーでは最後に、これから〈シティー カントリー シティー〉に期待することを教えてください。
吉川:先ほどもお話した通り、日常的に着れて気分が上がるというのがこのブランドの魅力だと思うんです。聴いていて気持ちが前向きになる音楽があると思うんですけど、〈シティー カントリー シティー〉の服にも、それと同じ効果があると思うんですよ。そうしたクリエイションをこれからも継続して欲しいです。普段着として気持ちもいい服をこれからも着たいので。
吉川基希
2001年に「ビームス」に入社し、ショップスタッフとして経験を積んだのち、2012年よりメンズカジュアルのバイヤーに就任。2015年にはチーフバイヤーへと昇格し、現在はディレクターを務める。
Instagram:@yoshikawamotoki
Photo_Kazunobu Yamada
Text_Yuichiro Tsuji