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COLUMN

Curry Flight

文・写真:カレー細胞

ラーメンと並ぶ日本のソウルフード・カレー。こと近年は、めくるめくスパイスの芳醇な香りにトバされ、蠱惑の味わいに心を奪われる“中毒者”が後を絶たない。そして食べると同時に、語りたくもなるのもまたカレーの不思議な魅力だ。この深淵なるカレーの世界を探るために、圧倒的な知識と実食経験を誇るカレー細胞さんに、そのガイド役をお願いした。カレーは読み物です。
 
カレーを巡る、知的好奇心の旅。
今日もカレーで飛ぼう。知らないどこかへ。

第5便 カレーとハラール。

「もはや日本は熱帯」と言いたくなる夏が過ぎ、秋をすり抜けて、息は白く、クリスマスキャロルが流れる季節となりました。
 いよいよ目前に迫ったオリンピックイヤー、外食産業においては「ハラール」という言葉を聞くことも増えてきました。

様々な国からの客が訪れる年、グローバル対応として欠かせないのが「ハラール」。今回は、日本のカレー事情と「ハラール」について思いを巡らせていきましょう。

そもそもハラールって??

「ハラール」はアルファベット表記でHalal、アラビア語ではحلال、「イスラム法において合法なもの」という意味の言葉です。
 対義語は「ハラーム」、つまり「イスラム法において許されていないもの」であり、ムスリム(イスラム教徒)が豚を食さないのも、豚がナジス(不浄)とされるが故に「ハラーム」であるからなのです。

また、豚以外の食肉用動物(牛や鶏、羊など)も、生前は「ハラール」ではあるが、「ハラール」に則らない方法で屠畜された肉を食することは「ハラーム」。
 「ハラール」か「ハラーム」かわからないものは避けるべきとされ、「ハラーム」を「ハラール」と偽ることは「ハラーム」とされます。

ムスリムのご馳走はでっかい羊肉!千葉・野田市「HANDI」にて。

つまり、ムスリムの皆さんがイスラム法に則り安心して食事をするためには、それが間違いなく「ハラール」であると証明できる必要があるのです。
 正しい知識や細かく定められた処理を経た食肉を扱う「ハラール対応」の飲食店には入口に「ハラール認証」マークが貼られており、ムスリムの方々はそれを見て入店するわけですが……。
 残念ながらこの日本ではハラールへの理解がまだまだ浸透しているとはいい難い状況です。

ハラール認証マークは日本の他、マレーシアやシンガポールの認証機関から発行されていることも。

世界全体のムスリム人口は15億人以上。地球全体の人口の1/4を占める彼らを、日本はもはや無視することはできません。

日本のムスリム地域コミュニティ。

かような事情もあって、日本においてはムスリムの方々は独自の地域コミュニティを形成しており、そのような地域にはムスリム向けのハラール対応レストランが多くみられます。

一番はっきりしているのは、モスク(マスジド)がある周辺地域。
 神戸・北野、大阪・大和田、福岡・箱崎、群馬・伊勢崎、そして東京・新大久保にはそれぞれパキスタン人やバングラデシュ人によるハラール食材店やハラール対応レストランがあります。

群馬県「伊勢崎モスク」の近辺…と言っても車で移動する距離ですが…にはパキスタン料理店が点在。

神戸北野のパキスタン名店「Ali’s Halal Kitchen 」の激旨ハリーム。
野菜や豆、大麦小麦と肉をトロットロになるまで時間かけて煮込んだシチュー料理です。

さらに踏み込めば、ムスリムの方々が日本におけるビジネス拠点としている地域、一番有名なのは中古車輸出業を営むパキスタン人コミュニティなのですが、そういった場所に行けばさらにレストランの数も多く、出てくる料理のバリエーションも豊富になります。

関東では中古車オークション会場のある千葉県野田市から埼玉県八潮市にかけての地域が通称「ヤシオスタン」と呼ばれており、そこから陸路を伝って日本海側、対ロシア貿易の拠点となる富山県射水市周辺も「イミズスタン」と呼ばれ、ムスリム食文化のまさにメッカとして知られています。

イミズスタン代表店舗のひとつ「ザイカ」のパキスタン料理ブッフェ。

ひとつ注意したいのは、これらムスリムによる同胞向けレストランにおいては、日本人向けに用意した「普通のインド料理メニュー」とは別に、同胞向けのとっておきのムスリム料理メニューが黒板に英語表記で掲示されていること。せっかく頼むならそちらですよ。

日本カレーのハラール化へ。

このように、日本に暮らすムスリムの方々は地域コミュニティを形成し暮らしているのですが、観光やスポーツ観戦が目的の訪日ムスリムの方々にしてみれば、せっかく日本に来たのなら、自国の料理じゃなく日本の料理が食べたい! と思うのが筋。
 日本が誇る国民食「カレーライス」のハラール対応はどうなっているのでしょうか?

残念ながらこれまで、カレーライスのハラール対応はほとんどと言っていいほど進んでいませんでした。
 特に東日本においてポークカレーはカレーの大定番。豚を扱う調理場でハラール対応などありえない話ですし、原材料やスープ、出汁など全てにおいて厳しく管理することがいかに難しく、原価がかかることか。

そんな状況に風穴を開けたのは、日本の外食カレー最大チェーン「CoCo壱番屋」でした。
 2017年9月、東京・秋葉原に「CoCo壱番屋ハラール」1号店をオープン。

「CoCo壱番屋ハラール」の緑のファサードにはハラール認証マークも。

ビーフカレーや、チキンカツカレーをラインナップした完全ハラール対応のこの店がオープンした直後には、ヒジャブを被ったムスリム女性たちの行列が。
 日本にいながらにして、周りのみんなが食べているカレーライスをずっと食べられなかった潜在顧客がこんなにいたのか! と感動したものです。
 その後オープンした「CoCo壱番屋ハラール新宿歌舞伎町店」もムスリム女子たちで大賑わい。その先にインド進出をも見据えたココイチの大手柄です。
 ちなみに味はといえば、通常のココイチを超えるほどの美味さ。非ムスリムなあなたも試す価値ありですよ。

「CoCo壱番屋ハラール」の牛しゃぶカレー。和のエッセンスでハラール対応です。

また、外国人観光客の定番である浅草には日本の二大国民食であるカレーとラーメンをハラール対応で一度に楽しめる「たいざん桜」が登場。
 インド人シェフによる独自アプローチのカレーラーメンは、観光客が喜ぶコッテコテの日本の記号が満載ながら意外なほどの美味さ。その完成度は決して侮ることはできません。

浅草「たいざん桜」の桜えびかき揚げカレー。
スパイシーなカレーラーメンに駿河湾桜海老のかき揚げで完成された美味さに。

そしてこれから注目したいのは、江古田にある「プランポーネ」。
 バングラデシュ人シェフによるイタリアンレストランであるこの店、2019年夏には完全ハラール化を宣言。名物の江古田ハンバーグのみならず、ここで提供されるカレーライスの美味いこと!
 ニッポンカレーライスとバングラデシュカレーの絶妙な融合が、ハラールカレーライスの新しい美味さを見せてくれるんです。

江古田「プランポーネ」のスパイシーマトンカレー。
ハラールかつグルテンフリーでありながら、スパイスと旨みの融合が素晴らしい傑作カレーライスです。
※店舗は2019年12月1日で閉店、今後は「移動型シェフ&ハラールクリエイター」として
「プランポーネ」Facebookページで活動告知とのことです。

さあ、もうすぐ2020年。
 ハラールの理解を深めるセミナーやワークショップも増え、一方では在日ムスリムの方々による日本独自のカレーへの取り組みもあり、ニッポンカレーライスのハラール対応は今後一層進んでゆくことでしょう。

世界各地のムスリムの方々が、カレーライス目当てに日本を訪れる…、そんな日が近々やってくることを期待して。
 さて、次回はどんなFlightをしてみましょうか。

PROFILE

松 宏彰(カレー細胞)
カレーキュレーター/映像クリエイター

あらゆるカレーと変な生き物の追求。生まれついてのスパイスレーダーで日本全国・海外あわせ3000軒以上のカレー屋を渡り歩く。雑誌・TVのカレー特集協力も多数。Japanese Curry Awards選考委員。毎月一店舗、地方からネクストブレイクのカレー店を渋谷に呼んで、出店もらうという取り組み「SHIBUYA CURRY TUNE」を開催している。

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