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COLUMN

Curry Flight

文・写真:カレー細胞

ラーメンと並ぶ日本のソウルフード・カレー。こと近年は、めくるめくスパイスの芳醇な香りにトバされ、蠱惑の味わいに心を奪われる“中毒者”が後を絶たない。そして食べると同時に、語りたくもなるのもまたカレーの不思議な魅力だ。この深淵なるカレーの世界を探るために、圧倒的な知識と実食経験を誇るカレー細胞さんに、そのガイド役をお願いした。カレーは読み物です。
 
カレーを巡る、知的好奇心の旅。
今日もカレーで飛ぼう。知らないどこかへ。

第6便 カレーラーメンは進化する。

ニッポンの二大国民食といえば、ラーメンとカレーですよね。
両者とも純粋な和食ではなく、外国料理にルーツを持ちつつ日本独自の進化を遂げたという共通項があります。異文化を寛容に取り入れてきた日本文化の一側面を象徴する存在であるとも言えるでしょう。

そんな二大国民食がひとつの料理として融合したのが「カレーラーメン」。
カレーうどんほど普及してはいないものの、高いポテンシャルをもつこの料理、近頃面白いことになってきているんです。

恵比寿「つなぎ」の「味噌カレーラーメン」。カレーラーメンにも様々なバリエーションがある。

今回は、カレーラーメンを巡る、進化の旅へとご案内しましょう。

カレーラーメンの発祥は?

カレーうどんにしても、カツカレーにしても、その発祥には諸説あるもの。カレーラーメンの発祥にも諸説あります。

まずは「新潟三条発祥」説。
三条市にあった「東京亭」の店主が戦前に修業していた東京・向島の食堂から持ち帰ったのが起源とされ、現在では市内で「三条カレーラーメン」を多くの店が提供、ご当地グルメとしての存在感を見せています。

次に「苫小牧発祥説」。
苫小牧市「味の大王」が1965年、札幌の味噌ラーメンに対抗する名物として開発したと言われています。
現在は「とまこまいカレーラーメン」として地域振興に役立っているようです。

関東では、「千葉発祥説」。
1953年千葉・小見川で創業した「美之和食堂」が開店当時から提供していたカレーラーメンが元祖とされています。現在、本店はクローズしていますが、「元祖カレー麺」を提供する居酒屋「実之和」として都内に複数店舗展開、創業の地・小見川にもお店を出しています。

実之和赤坂店の辛口「赤いかれー麺」。

実際には古くから、カレーもラーメンも全国の食堂で提供されていたわけですから、それらを1つにするというアイデアが同時多発的に生まれても何ら不思議はありません。そういう意味では上記の店全てがカレーラーメンのパイオニアなのでしょう。

異端の進化「味噌カレー牛乳ラーメン」。

全国で親しまれるカレーラーメンの中でもとびきりの異端児と言えるのが、青森名物「味噌カレー牛乳ラーメン」。味噌ラーメンにカレー粉と牛乳を入れるとなぜか美味い、という噂をヒントに、青森市「味の札幌」がメニュー化したものだそう。
確かに博多豚骨のようにラーメンスープがミルキーなこと自体は自然なことであるし、「食事に牛乳をかける」という違和感も、カレー味にすることで難なく払拭できてしまう。
「異文化を容易に取り入れることができる」カレーの特性をうまく活かした発明であるといえるでしょう。

新潟名物「味噌カレー牛乳ラーメン」(写真はかつて「六本木ラーメン」で提供していたもの)。。

今、始まるカレーラーメンの劇的な進化。

このように、異文化融合の極みとも言えるカレーラーメンですが、ここ数年で目覚ましい進化を見せているんです。

しかもそれは、「もはやカレーと呼べるのか?」「もはやラーメンと呼べるのか?」という域に達し、食ジャンルの壁をさらに壊しにかかっている。個人的にはそれがとっても面白く、しかも別の意味でとってもカレーらしい進化であるとも思っているポイントなのです。

まずご紹介するのは「スパイスらぁめん釈迦」。

2018年池袋にオープンしたこの店は、ラーメン界の風雲児「麺屋 庄の」と、東京スパイス番長シャンカール・ノグチさんがタッグを組んで誕生。
南インドやベンガルなど、インド各地のスパイス使いをラーメンのノウハウと融合した麺には目から鱗。
現在、池袋店はクローズし、新宿で営業を続けています。

「釈迦」の「天空」はグンドゥチリ、カシミリチリ、ガーリック、
マスタードシードなど10種のスパイスを用いた辛口スパイスらぁめん。

別の意味で興味深いのが、下北沢「点と線」。

実はここ、北海道スープカレーの大人気店「Rojiura Curry SAMURAI.」の新業態となるラーメン屋さん。東京初進出を果たした下北沢の地での新たなるトライなのです。ラーメン文化華やかなる札幌で進化した、もう一つのスープ食文化「スープカレー」、その手法とエッセンスが今度はラーメンにフィードバックされるという面白さ。

これはカレーなのか、ラーメンなのか、カレーラーメンなのか、スープカレーなのか……考えれば考えるほどわからなくなる美味しさですよ。

「点と線」の「スパイスラーメン」。選べる具材、華やかな盛り付けは北海道スープカレー譲り。

最後にご紹介するのは「スパイス・ラー麺 卍力」。

今や日本最大のインディアンタウンとなった西葛西で開業した、超個性派ラーメン店。看板メニューの「スパイス・ラー麺」は、香り、酸味、辛さと、五感をブンブン振り回す如きインパクトがとにかくすごい。
その個性は最早カレーラーメンを超え、カレーの概念をも超えただけでなく、インドとも中華とも東南アジアとも全く違う、全く新しいスパイス料理であり、それでいて驚きの完成度を誇っています。

「卍力」の「スパイス・ラー麺」は全ての固定観念が覆される麺料理。

新たなカレーラーメンのキーワードは、「カレーもラーメンも超えたスパイス麺料理」。

日々熱帯化する日本では、かつてカレーと呼んでいた食べ物以外にもスパイスがふんだんに使われるようになり、カレーとカレーでないものの境界が日々曖昧になってきています。
けれどもそれは自然の流れ。
電話が進化することで最早電話とは呼べない「スマホ」となったように、進化したカレー料理は最早カレーではなくなるのか? それともカレーの再定義が始まるのか?
カレーラーメンの進化は、カレーの進化そのもの。日本の食の変化そのものなのかもしれません。

とうとう2020年の未来まで来てしまった私たち。
 さて、次回はどんなFlightをしてみましょうか。

PROFILE

松 宏彰(カレー細胞)
カレーキュレーター/映像クリエイター

あらゆるカレーと変な生き物の追求。生まれついてのスパイスレーダーで日本全国・海外あわせ3000軒以上のカレー屋を渡り歩く。雑誌・TVのカレー特集協力も多数。Japanese Curry Awards選考委員。毎月一店舗、地方からネクストブレイクのカレー店を渋谷に呼んで、出店もらうという取り組み「SHIBUYA CURRY TUNE」を開催している。

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