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COLUMN

Curry Flight

文・写真:カレー細胞

ラーメンと並ぶ日本のソウルフード・カレー。こと近年は、めくるめくスパイスの芳醇な香りにトバされ、蠱惑の味わいに心を奪われる“中毒者”が後を絶たない。そして食べると同時に、語りたくもなるのもまたカレーの不思議な魅力だ。この深淵なるカレーの世界を探るために、圧倒的な知識と実食経験を誇るカレー細胞さんに、そのガイド役をお願いした。カレーは読み物です。
 
カレーを巡る、知的好奇心の旅。
今日もカレーで飛ぼう。知らないどこかへ。

第11便 カレーとクラウドファンディング。

この半年ほどで、カレー店が行うクラウドファンディングが急増しています。
名店復活への資金集め、コロナで経営難になったお店支援、そしてインドやネパールへの支援など、そのカタチはさまざま。
一体何が起きているのか?

今回はカレー店のクラウドファンディングから見えてくる2020年のリアルについて考えてみましょう。

クラウドファンディングは資金集めよりも共感集め。

私がクラウドファンディングに初めて関わったのは2015年。
某アニメ関連のクラウドファンディングチームに参加、当時日本歴代最高額の5500万円が集まりました。
その後、自分たちで制作したアニメーションの原画展クラウドファンディングを行ったりもして、ひとつ気づいたことがあります。

それは、
「クラウドファンディングは、手軽にお金を集める手段ではない」
ということです。

クラウドファンディングによって原画展を開催したアニメ「トキノ交差」。
現在も渋谷スクランブル交差点4面ビジョンで上映中。

プロジェクトへの熱意を訴え続け、支援者へのアクションを喚起するのは、それなりの時間と労力を要します。
その時間をプロジェクトメンバー全員が労働へと割き、儲けたお金をつぎ込めば、それで目標額に達してしまうんじゃない?
プロジェクト実現しちゃうんじゃない? なんて考えたこともありました。
じゃあなぜクラウドファンディングをするのかいうと、集まったお金以上に価値のある、共感の輪が広がるからなんです。

強い想いを伝えることに時間と労力をかければかけるほど、ファンが増えていく、そして関わった(支援していただいた)ファンの方々は、プロジェクトを自分事として知人に広めていってくれる。
個人でできる「共感ベース」の広報としてクラウドファンディングは非常に有効な手段であるといえましょう。

強い想いがカレーを動かす。

日本中の飲食店がコロナによる深刻な打撃を受けている今、カレー店の店主たちも口々に「色々なことを考える時間ができた」と言います。
そもそも強い想いや信念があってこそ、人の心を打つカレーを作れるわけですから、私が好きなカレー店の店主たちは皆パッションが強い。
その衝動が、クラウドファンディングという手段で、世の中にアクションを呼びかけることに繋がっているのは間違いありません。

クラウドファンディングによってカレー名店が復活。

早稲田メーヤウ名物、激辛のインド風チキンカリー。

早稲田の学生たちのソウルフードとして長きにわたり愛された「メーヤウ早稲田店」。
後継者不足により2017年に閉店したこの名店が今年、クラウドファンディングにより復活しました。

復活プロジェクトに立ち上がったのはかつての「メーヤウ」ファンたち。
クラウドファンディングは2020年2月15日に募集を開始、312人の支援により4,279,110円の資金を集めて3月26日に募集を終了。

コロナによるオープン延期があったものの、晴れて7月4日に「メーヤウ早稲田店」復活オープンとなったのです。

復活オープンしたメーヤウ早稲田店。

2020年8月13日現在はテイクアウトのみ、完全キャッシュレスのPayPay支払いでの営業を行っています。
※最新の営業情報は公式Twitterにて。

『21年間早大生に愛された激辛美味カリー「メーヤウ早稲田店」の味を復活させたい!』
目標金額:1,500,000円
支援総額:4,279,110円
※現在は募集終了
「CAMPFIRE」サイト

インド支援に全国のカレー店が結集!『MASALA AID INDIA』。

新型コロナウイルスにより、日本をはるかに超える被害を受けている国・インド。
いまだに感染拡大は止まらず、その影響は広範囲に及んでいます。

もちろんそれは日本のカレー事情とも無関係ではなく、スパイスの輸入やインド人シェフの渡航などに大きな影を落としつつあります。

支援先のひとつ、グジャラートの人々。

スパイスを愛する者たちが力を合わせることで、少しでもまとまった資金を寄付できないか?
そう考えたのは、昨年大阪から東京に移転し話題となった「ゼロワンカレー A.o.D」の立田さん。

立田さんの呼びかけにより、北は北韓道から南は九州まで全国40以上のカレー屋・スパイス料理店がプロジェクトに参加。
サイトによるクラウドファンディングと併せ、各店にも募金箱を設置するなど、大きなムーブメントを引き起こしています。
(私もこのプロジェクトに参加、協力をしています。)

集まった支援金は被害の大きい北インド・グジャラート、および南インド・チェンナイの団体へと寄付されます。

『Covid-19 インドへ寄付プロジェクト|#スパイス愛がインドを救う』
目標金額:5,000,000円
支援募集:2020年8月31日
「CAMPFIRE」サイト

大阪スパイスカレーのレジェンドもクラファン始動。

大阪におけるスパイスカレームーブメントの震源地として知られる「Columbia8(コロンビアエイト)」。

スパイスカレー店初のビブグルマンを獲得(その後3年連続)した名店もクラウドファンディングに動き出しました。

コロナの影はこの大人気店にまで及んでおり、新たな試みとしてキッチンカーに挑戦。
その製作資金と運転費用をクラウドファンディングで募っています。

「キッチンカーを始めようと思ったのは、もう一度初心に戻りコロナで生まれた外食に対する新たな需要やニーズに柔軟に対応しながら、大阪のカレー文化にまた新しい風を吹かせればという思いからです。
コロナからの新たなリスタート!とにかく新しい事に挑戦をする!という事でクラウドファンディングに挑戦することを決めました」。

『Columbia8の新たな挑戦!!キッチンカーゴーゴー8プロジェクト』
目標金額:3,000,000円
支援募集:2020年9月10日
「CAMPFIRE」サイト

今こそ、カレー好きの想いを繋げること。

コロナによって、人と人とが物理的に切り離され、主義や主張で分断されいがみ合うことも増えてきた今、一人ひとりが強い想いを発信し、共感の輪を広げていくことがとても重要だと感じます。

行政による保障も不十分で、これからも厳しい闘いが続くであろうカレー店経営。
今こそ、カレーを愛するみんなの「心の距離」だけは「密」になり、互いに支え合っていこうではありませんか。

カレーで繋がる人の縁は、不安を煽るどんなニュースよりも確かなのです。

さてさて、次回はどんなFlightになるのでしょうか。

PROFILE

松 宏彰(カレー細胞)
カレーキュレーター/映像クリエイター

あらゆるカレーと変な生き物の追求。生まれついてのスパイスレーダーで日本全国・海外あわせ3000軒以上のカレー屋を渡り歩く。雑誌・TVのカレー特集協力も多数。Japanese Curry Awards選考委員。毎月一店舗、地方からネクストブレイクのカレー店を渋谷に呼んで、出店もらうという取り組み「SHIBUYA CURRY TUNE」を開催している。

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