FEATURE
写真が飽和した時代に、濵本奏が問うカメラの可能性。
MONTHLY JOURNAL JUN. 2026 Vol.01

写真が飽和した時代に、濵本奏が問うカメラの可能性。

ぼくらが利便性を追求するなかで、煽りを受けたのはカメラです。撮影という行為がスマホひとつで事足りる時代に、その存在意義を問い直してみたくなりました。そこでまず声を掛けたのは濵本奏さん。今年「木村伊兵衛写真賞」を受賞した若き写真家です。今後の人生、写真一本で行くと腹を括ったばかりという彼女の手には〈富士フイルム(FUJIFILM)〉のカメラがありました。

  • Photo & Video_Hana Shimizu
  • Text_Shinri Kobayashi
  • Edit_Ryo Muramatsu

PROFILE

濵本 奏

第二次世界大戦末期の人間兵器「伏龍特攻隊」を取り上げた写真集『ー・・(チョー タン タン)』で2026年、第50回「木村伊兵衛写真賞」を25歳で受賞。展示方法や写真をプリントする媒体もユニークで、写真表現を拡張するような活動が注目されている。その他、写真集『midday ghost』『VANISHING POINT』を刊行し、作品ごとにそのテーマに合致する機材を選択してきた。
Instagram:@kanadehamamoto

コントロールできないことは面白い。

—— 写真をはじめたきっかけが「使い捨てカメラ」なんですよね。

濵本: 実家の引っ越し中に使い捨てカメラを見つけて、現像に出したんです。昔、両親が撮ったフィルムだったようで、現像された写真は全体が紫がかっていて、どこか不気味な雰囲気でした。私が絶対に立ち会えない、生まれる10年から20年前の二人の姿があって、家族アルバムを見るのとはまた違う、過去の時間がいまポンと目の前に現れたような感動がありました。カメラや時間によって、自分ではコントロールできないことが起きているのがすごくいいなと。

—— 最初に手に入れたカメラは?

濵本: 現像したその帰り道に、〈キヤノン(Canon)〉の「AE-1」というカメラを買いました。カメラ屋さんで「フィルムカメラで撮りたい」と相談したときに、初心者向けとしておすすめされたんです。普通ならもっと全自動で撮れるコンパクトカメラをすすめると思うのですが、なぜかこれで。

実際に使いはじめると操作が分からなくて、最初はまともに撮れませんでした。フィルムなので現像するまで結果が分からないし、当時はどう設定したのかメモも取らず、なぜそうなったのか原因が分からない。でも、その手探り感自体がすごく面白いなと思ったんです。デジタルだとISOなどの撮影データがいろいろと残るので振り返ることができますが、それができない環境だったことが、結果的に私にはよかったのかなと思います。

—— 写真以前は、いわゆる表現活動みたいなことはしていたんですか?

濵本: それまでは本当に何もしていなくて、普通の中学生、高校生でした。スマホで撮るのだって、体育祭の自撮りくらいだったし、将来の夢も特になく、ぼんやりと過ごしていました。小さい頃に絵のアトリエに通ってましたが、出来上がったものを見ても全然ピンとこなくて、自分の描くものが好きになれなかった。

でも、はじめて写真を撮ったときに、自分でも予期しないことが起きるし、カメラという道具に頼っている分、どこか自分100%の責任ではないというか、いい意味での無責任さがあって。そもそも写っているもの自体、すでにそこにあるものだから、ゼロからイチを生み出すようなプレッシャーもなくて、そこではじめて自信を持ってひとに見せられるものに出会えたと感じました。

—— お伺いしていても、濵本さんの場合、きれいな写真を撮りたいという一般的な願望とは違いますよね。

濵本: 例えば、カレンダーにあるような美しい絶景写真を見ても、自分がそれを撮りたいとは思いません。それよりも、両親の古い写真を見たときに感じた、時間の経過による変化に惹かれたんです。私たちの記憶って、思い出したときに鮮明ではないですし、気づかないうちに少しずつ形や色が変わっていきますよね。写真が経年変化していくさまが、その人間の記憶の曖昧さにすごく似ているなと。

それまではすごい日記魔だったんですよ。認知症を患った親戚と話していても、何もかも忘れていて、このひとの人生はどこに行ってしまったんだろうと怖くなってしまい、「自分が死んだとき、一体何が残るんだろう」と。すべてを忘れたくない一心で、自分の行動を事細かに記録する日記を書きはじめました。

でも、細かく書きすぎた日記は、後から読み返してもピンとこないことがある。「こんなことあったっけ?」と逆に思い出せなくなって、忘れている自分にまた落ち込んでしまう。そんな時期に写真に出会って、これでいいのかもしれないと。上手く撮れていなくても、どこでシャッターを切ったとか、そのときの体感や気温とかを意外と覚えているんですよ。現像された写真を見たときに、なんだか解放されたような感覚があって、日記に代わるものじゃないですけど、たまたまカメラや写真が自分にフィットしたと思います。

QUESTION

Email Interview
フロットサムブックスの小林孝行に聞く濵本奏。前半

濵本さんと旧知の仲で、写真集や写真家に精通する「フロットサムブックス」のオーナー小林孝行さんに、彼女の魅力を聞きました。

Q1. 今日はじめて濵本奏という名前を知ったひとが「フロットサムブックス」に来たら、小林さんは彼女の作品をどう説明しますか。

A1. 面白い写真家がいますよ。何やっているのかよく分からないけど、毎回面白い。

Q2. 小林さんは彼女の写真の特徴はどこにあると思いますか。

A2. シリアスな作品、過激な作品、面白いアイデアの作品など、いろいろありますが、最終的なアウトプットが美しいってところだと思います。

Q3. 多くの写真家やクリエイターと接している小林さんから見て、例えば気質やキャラクターなど、濵本さんを表現者たらしめている性質はありますか。

A3. 行動力がすごい、気がします。大体やろうと思って、先に「やろうと思ってる」みたいなことを宣言してやるひとが多い気もしますが、濵本さんは先に行動してる気がしますね。どこかに行ったと話を聞いてから知る、みたいなことが多い気がします。例えば、ボリス・ミハイロフの大きな展覧会があるって知ってそのためだけにフランスに飛んだこと。店番をお願いしようと思って連絡したら九州にいたり、どこにいるかいつも分からないところ。

INFORMATION

FUJIFILM GFX100 II

オフィシャルページ

富士フイルムデジタルカメラサポートセンター

電話:0570-04-1060
受付時間:10:00~17:00(日曜、祝日を除く)

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