CLOSE
FEATURE
THINK ABOUT FASHION vol.2新時代を予感させる10のファッショントピックス。
MONTHLY JOURNAL SEPT.2020

THINK ABOUT FASHION vol.2
新時代を予感させる10のファッショントピックス。

ちょっと先の未来において、2020年のファッションシーンはどのように語られるのでしょうか? ポストコロナ時代の新しいアプローチを予感させる動き、従来とは少し違う意味を持ちはじめた “コラボレーション”、進化するデジタルテクノロジーを活用した取り組み、顕在化した環境問題やサスティナビリティへの意識の高まり…。いずれもパンデミックが起こる前から動いていたプロジェクトですが、新型コロナを契機とするぼくたちの生活感覚の変化とともにスポットライトが当たりはじめました。ここではそんなこれからのファッションを予見するような10のトピックスをクローズアップ。

  • Photo_Hiroyuki Takashima, Yoshio Kato
  • Text_Tatsuya Yamaguchi
  • Edit_Ryo Muramatsu

TOPIC 01 バーチャル空間でショッピング? 仮想伊勢丹新宿本店の狙いとは。

大げさに言うと、ステイホームとは、人を自宅の外に広がる世界から遠ざけることを意味していました。テーブルを囲んで好きな人たちと酒を酌み交わすことも、人々が集うショップで買い物をすることも等しく自粛されるべき事柄とされ、新たに定着したフィジカルディスタンシングはかつての日常を “懐かしい時間” に変えてしまいました。むしろ、自粛期間中はそれらの大切さに気づく時間だったといえるのかもしれません。そんな中、絶対に “三密” が生まれないデジタルの世界は、日に日に活気を帯びていきました。オンライン上でのコミュニケーションがこれまで以上に定着し、成熟していけばいくほど、きっとこれまでになかった現象が起こるはずです。

可能性に満ちたケーススタディのひとつが「伊勢丹新宿本店」の仮想店舗。コロナ禍の4月29日から5月10日、仮想現実上の展示即売イベント「バーチャルマーケット」内にある仮想都市「パラリアルトーキョー」にトライアル出店し、注目を集めました。自社ECへの誘導も実装される一方、メインで販売されたのは “アバター” のためのバーチャルなファッションアイテムの数々。そんなこれまでの「伊勢丹」の常識を覆す、次世代の取り組みについて発起人の仲田朝彦さんに話を聞きました。

PROFILE

仲田朝彦

1984年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業。2008年「伊勢丹」(現・三越伊勢丹)に入社。紳士服担当の店頭・バイヤー業務、MD統括部シームレス推進部を経て、20年から三越伊勢丹ホールディングス チーフオフィサー室関連事業推進部に所属し、現在はアバターへのライフスタイルを提案する “仮想店舗とデジタルウエア事業” のトライアルを進行中。

ー 構想は約10年と聞きました。「バーチャルマーケット」出店という発想が生まれたきっかけを教えて下さい。

きっかけは、私が「伊勢丹」に入社するのと同時期に開催された、「アップル」社の「iPhone」のカンファレンスです。革新的なスマホの機能のなかでも、「グーグルマップ」上で世界中を自由に飛び回るスティーブ・ジョブズの発表を見て、「いつかインターネットのなかに『伊勢丹』を建てたい」と夢を思い描いたのです。その後、働くなかでオンライン上に持っていけるのは建物だけではなく、服も、サービスも、すべて可能なのではないかと感じながら計画を続けてきました。2018年に社内起業制度が誕生し、挑戦するもあえなく落選。その翌年、3DCGを独学で学び、“仮想伊勢丹” をつくった上で再挑戦、ついに採択されました。

画像上は現在作成中の「仮想伊勢丹新宿本店」。下は地下の入り口。

インフォメーションカウンターに立つ仲田さん。

ー 仲田さんが考える「バーチャルマーケット」の可能性とは何でしょうか?

小売業や百貨店を含め、現実以上に収益も価値も上回る可能性があると考えています。百貨店の役割は、時代に応じてお客様の求めるものを集め、お客様の関心に応じて編集、展開することだと考えています。現代のオンラインコミュニケーションで求められる商品、つまり、今回でいうアバターの服やボイス、動作という商品を揃えることも百貨店本来の役割なのだと感じています。また、在庫ではなくデータを販売するという点では、チャレンジングなデザインの商品も、在庫を抱えるリスクがない環境で企画できる。ファッションに再びデザインの力を与え、新しさあふれる明るい未来が待っているのではないかと思います。そうした商品を、装飾的な展開、サービス、イベント、オケージョン、人の力といった要素を掛け合わせ、24時間、世界中のお客様に提供できることも大きな可能性と考えています。

今回の出店で確認できたことは、リアルな場所でブランディングされたものは、仮想でも同じ価値以上の成果があるということでした。実際、「わっ、『伊勢丹』がある」「販売員さんに会えて心が動いた」など、長年築き上げられてきた “暖簾の価値” を大いに感じましたし、先輩方が後押しをして下さったのだなと感じています。

画像上は “仮想伊勢丹” につくられた〈ミノトール インスト〉の売り場。下は婦人靴の販売スペース。

ー 実店舗と仮想店舗の相互作用など、今後のビジョンや具体的に期待しているのはどのようなことですか?

ほんの一例ですが、実店舗でボディスキャニングをすることで、お客様はスマホのなかに自身の体のスキャンデータを持ち歩くことができるようになります。近未来の百貨店では、試着や採寸などが省略され、“時間のロス” を削減できるスマートなショッピングを実現することができます。その一方、仮想世界ではスキャンデータを自身のアバターとして活用でき、好きな人と交流しながらショッピングする「プロセスを楽しみ、思い出を生み出すショッピング体験」に繋がっていきます。つまり、「リアルでもスマートに買い物ができるし、オンラインでも誰かと交流しながら買い物を楽しむ」という、これまでの概念を逆転させる相互作用を生み出すことができると考えています。これからの通信システムでは空間を丸ごとデータ化できる時代に突入していくので、そういった “遠回りなプロセス” の価値をオンラインショッピング上に生んでいきたいと思っています。

これからの未来は「リアルな自分と仮想の自分、二人の自分で自己実現をしていく時代」と考えているからです。デジタル化が進み、時間や空間を超越できるこれからの時代は、従来に比べ、対象顧客の年齢や商圏を拡大できると思っています。ですが、時代が変わっても百貨店のコアサービスである「誰か好きな人と一緒にお買い物をする場所」「思わぬものに出会える場所」「最高のサービスを受けられる場所」といった価値観はそのままにチャレンジしていきたいと思っています。

写真のショートブーツは「バーチャルマーケット」で現在も購入可能。共に「三越伊勢丹」が手がける婦人靴のブランド
〈エヌティ(NT)〉のもの。各¥1,500+TAX(仮想伊勢丹新宿本店

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事#MONTHLY JOURNAL

もっと見る