ヴィルヌーヴのセンスとフィルモグラフィーとの関係。
ー 他の『DUNE』作品はご覧になっているんですか?
テレビ版だけは観ていないけど、リンチ版は観ています。今作を観たら、原作もホドロフスキー版もリンチ版もリスペクトしているのだなと随所から感じました。原作があるとはいえ、細かな話のピックアップはリンチ版を結構踏襲している気がします。原作は人や種族の名前が覚えづらいんですが、リンチ版はわかりやすく説明しているので、補助線として観るのがおすすめです。わけわからん映画の名手であるデヴィッド・リンチの作品が解説/入門編として機能するのはおかしな話ですが。
ー ヴィルヌーヴ監督についてはどうですか?
大好きなヴィルヌーヴが小説『デューン』の映画を撮ると聞いて、率直に嬉しかったですね。砂漠を撮るのが抜群にうまい監督ですからこれ以上ない起用だと思いました。彼のフィルモグラフィーに目を向けると、『灼熱の魂』はレバノンが舞台、『複製された男』は都会の物語ですが、ハイライトが暗くて黄色く、埃っぽく乾いた雰囲気が漂っている。『ボーダーライン』はもろ砂漠。まさにうってつけじゃないですか。
ー たしかに。
(スパイスである)メランジって、いわば麻薬じゃないですか。麻薬をめぐる複雑に入り組んだ組織間の権力闘争って、まさに『ボーダーライン』の物語構造と同じ。あとは(宮崎駿の)『風の谷のナウシカ』の要素もありましたね。ヴィルヌーヴは現実味のある映画が得意とされているけど、ファンタジーも撮れるんだなと。しかもどんなジャンルでも自分の作風に寄せるのが上手いから、どの殻品も作家性にブレがない。たとえば、『ブレードランナー 2049』は、リドリー・スコットの『ブレードランナー』の常に雨が降る湿度高めの近未来のイメージを、荒涼とした廃墟や灰といった乾いたイメージに反転させている。その後、溢れ返るサイバーパンク的その他創作物もろともオリジナル版への反旗といっていいほどの大きな転換だと思います。すごい度胸。
ー 映像以外で気になったところはありますか?
サウンドエフェクトを含めた音楽がすごい。ぼくはIMAX®で観たんですが映像だけではなく音響も最高で、実は(『メッセージ』の)ヨハン・ヨハンソンや(今作の)ハンス・ジマーの音楽力にだいぶ騙されてるんじゃないのかと疑うほど(笑)。さきほど話したように、SF映画はまず映像で魅せたがるけど、目に見えない音や音楽の力によって、映画の豊かさと新しさを提示するというのがヴィルヌーヴの持ち味。この取材のテーマのデザインに即して言えば、まさしくサウンドデザインは今作の最も重要な要素のひとつだと思います。音楽が際立っているのと同時に、あれだけ音楽を映像や物語に溶け込ませられる監督はなかなかいないと思いますね。