CASE 2. 出渕裕
PROFILE
メカニックデザイナー、キャラクターデザイナー、アニメ監督など。『機動戦士ガンダム逆襲のシャア』『機動警察パトレイバー』『ガサラキ』『超電子バイオマン』などアニメや実写作品のメカニックデザインのほか、産業技術総合研究所による二足走行ロボットHRP‐2のスタイリング、『ラーゼフォン』『宇宙戦艦ヤマト2199』の監督など幅広い分野で活躍。2023年公開予定の『シン・仮面ライダー』にも参加。
ドラッグのメタファー、古典的物語のSF、ナウシカの生態系…
ー ご覧になっていかがでしたか?
もともと原作のファンなんですが、すごく満足できました。原作好きだと、できあがった映画に対してふざけんな!(怒)ってことになることもあるけど、この映画は大丈夫。原作ファンっていちばん恐ろしいでしょう?(笑)それぞれが考える “DUNE” がありますからね。
ー 出渕さんは、いつごろ原作に出会ったんですか?
最初に手に取ったのは、中学か高校生の頃。そのときは石ノ森章太郎さんの絵が表紙でした。小説では(今回の劇中に登場している)スパイスであるメランジなど、作中の構成要素や用語が自然と語られていて、巻末には副読本として用語解説が載っているんです。わざわざ物語内で説明しないというのが、当時かっこよかった。
ー 小説に関わらず、表現が説明的すぎると白けますよね。
物語としては、アトレイデス家とハルコンネン家の勢力争いや復讐劇というシェイクスピア的な古典的なものですよね。でもそこにSFや70年代…つまりドラッグ的要素も入っている。たとえばメランジもドラッグのメタファーとして描かれていますよね。
ー たしかに!
あとは生態系SFとして着目してもおもしろい。 “DUNE” という砂の惑星の生態系が描写されるなかで、その星でしか生まれないメランジが覇権争いの引き金になっていたり、その惑星アラキスに住むサンドワーム(砂虫)がメランジの生成、星の砂漠化と緑化に関係していたりと複雑に絡み合っている。(宮崎駿の)『風の谷のナウシカ』にも似た生態系も出てきます。
ー ナウシカにも影響を与えた小説と言われていますね。
他にも、ジェンダー要素もあります。たとえば女性ばかりの教団(ベネ・ゲセリット)が交配によって女性の救世主を待望していたり、その交配のために男の子のポールを産んでしまったジェシカなども正妻ではなく愛妾として描かれていて、そういうところは古典的ではあるんですが、裏ではパワーゲームのプレイヤーとして女性が重要な地位を占めている。劇中で、現代にもつながるようなファクターがいたるところに散りばめられていると感じました。