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いわく付きの物語は映画になり得るか。『DUNE/デューン 砂の惑星』を観た、デザイナー二人の視線。
That dune stir someone's feelings.

いわく付きの物語は映画になり得るか。
『DUNE/デューン 砂の惑星』を観た、デザイナー二人の視線。

原作となった小説『デューン/砂の惑星』は恐るべき怪物だ。映画監督としていまや大いなる名声を獲得したリドリー・スコットとアレハンドロ・ホドロフスキーは戦う前に挫折し、ようやくつくられたデヴィッド・リンチ版の『デューン/砂の惑星』は本人も認める黒歴史となった。映画界、いや人類悲願でもある『デューン』の映画化がいよいよ実現された。監督は『メッセージ』『ブレードランナー 2049』を手がけたドゥニ・ヴィルヌーヴ。デザイナー、美術、衣装、俳優など、現代の才能が結集したこの壮大なる映画の魅力をひとかけらでも掬い取りたく、メカニックデザイナーの出渕裕さん、フイナムの映画連載でもおなじみのグラフィックデザイナー大島依提亜さんのお二人に映画を観る “目” を借りることにした。

  • Photo_Kaori Nishida
  • Text_Shinri Kobayashi
  • Edit_Yuri Sudo
あらすじ

全世界から命を狙われる、 “未来が視える” 能力を持つ青年、ポール・アトレイデス(ティモシー・シャラメ)。その惑星を制する者が全宇宙を制すると言われる、過酷な “砂の惑星デューン” への移住を機に、アトレイデス家と宇宙支配を狙う宿敵ハルコンネン家の壮絶な戦いが勃発した。父を殺され、復讐そして全宇宙の平和のために、巨大なサンドワームが襲い来るその星で “命を狙われるひとりの青年” ポールが立ち上がる―。

※記事内の表記について
小説『デューン/砂の惑星』(フランク・ハーバート)→小説『デューン』、小説
映画『DUNE/デューン 砂の惑星』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)→今作、ヴィルヌーヴ版
映画『デューン/砂の惑星』(デヴィッド・リンチ監督)→リンチ版
映画『DUNE』(アレハンドロ・ホドロフスキー監督)→ホドロフスキー版
(世界観としての)砂の惑星 DUNE→ “DUNE”

CASE 1. 大島依提亜

PROFILE

大島依提亜(おおしま いであ)

グラフィックデザイナー、アートディレクター。栃木県出身、東京造形大学卒業。映画まわりのグラフィックを中心に、展覧会広報物や書籍などのデザインを生業としている。主な仕事に、映画は『パターソン』『万引き家族』『ミッドサマー』『ラストナイト・インソーホー』、展覧会は「谷川俊太郎展」「ムーミン展」、書籍は「鳥たち/吉本ばなな」「小箱/小川洋子」がある。フイナムで映画コラム「シッティング・ハイ」を連載中。

監督の主眼はデザインではない!?

ー 映画『DUNE/デューン 砂の惑星』(以下、今作)のデザイン面について、どうご覧になったのか教えてください。

デザインについては、このあとに話しますが、監督のヴィルヌーヴの主眼はそこにはないんじゃないかなというのがぼくの見方です。それはおいおいお話ししますね。

ー おお! そのあたりのお話も楽しみです。今日は、たくさん資料をお持ちいただいたようですが…。

この『SF映画のタイポグラフィとデザイン』という本は、SF映画のフォントを徹底的に調べ挙げたウェブサイトが元になっている本で、テキスト含めてとてもおもしろいんです。たとえばSF映画でよく使うフォントがあるんですが、オーソドックスなフォントでもあるので、海外の老人ホームの看板にもよく使われています。SF映画マニアは、そのフォントを使った老人ホームを見るたびに、これはディストピアだ(笑)って言うくらい。SF映画のなかで使われまくったことで、既存のフォントのイメージがひっくり返ることもあるんですよね。

ー フォントひとつとってもSF映画はおもしろいという好例ですね。

今作のティザーのタイトルはこれ(上記画像)だったんです。これで「DUNE」と読ませるなんて、どういうことなんだ!って思いました。最後の「E」なんてもはやこれって「C」だよね(笑)。いくら小説が広く認知されているとはいえ、これはすごく勇気があるなあと。衛星写真のような俯瞰の写真と組み合わせているのもいい。

この書体が刷新的な一方で、タイトルバックとしてはSF映画のセオリーにのっとっているんです。「DUNE」の最後の「E」の真ん中の棒は「C」という文字に後から点「・」をつけてEと読ませるっていうモーションになっています。映画『エイリアン』の場合、最初にただの白い棒が出てきて、そこからさらに棒が付け加えられていって、タイトルの「ALIEN」が出てくるんです(上記画像参照)。このタイトルバックがセンセーショナルだった、SF映画の金字塔である『エイリアン』をなぞってもいて、その目配せに思わずニヤついてしまいました。

ー こちらの資料は大島さんがデザインされたアレハンドロ・ホドロフスキーBlu-ray Boxのブックレットの中にある『ホドロフキーのDUNE』の項目ですね。

(途中で頓挫して実現しなかった)ホドロフスキー版『DUNE』のメビウスのデザイン画なんですが、衣装や宇宙船もすごい派手だったんです。この映画のスタッフとしてホドロフスキーがパリに呼んだ特殊効果のダン・オバノンがのちに『エイリアン』の脚本を担当したり、他にもギーガーがホドロフスキー版の建造物デザインを担っていたりと、ホドロフスキー版の人脈が『エイリアン』で活かされていて、功績は非常に大きいんですよね。

ー 今作は、ホドロフスキー版とは違い、とても抑えた衣装や建造物のデザインでした。

今作では、削ぎ落とすことに重きがあったんだと思います。スパイク・ジョーンズ『her/世界でひとつの彼女』(以下『her』)の衣装デザイナーを務めたケイシー・ストームのインタビューをウェブで読んだんですが、あの映画では引き算していると。SF映画の美術は、未来的なゴーグルとか銃とか足し算しちゃいがちなんですが、『her』は現代の延長である近未来の話だから、引き算しようとスパイク・ジョーンズと話したそうです。

たとえばあの世界ではネクタイやジーンズが出てこないんですが、画面にないものだから一見気づかない。けど、そこはかとない違和感で近未来性を表象している点と、ファッションは繰り返すものだから、むしろ少し古い時代の服飾のイメージであってもおかしくないという考えからそうしているらしいんですが、デコラティブから、シンプルなものへと推移してきた服飾史を踏まえて、衣装もシンプルにしようとしたんじゃないかなと僕は思いますね。今作でもそれに近い考え方をしている可能性がある。

ー その視点はおもしろいですね。

あくまで原作の忠実な再現というのはもちろん大きいと思います。今作はフィクションではあるものの、幾度となく繰り返される建築や服の文化史のなかで、遠未来のあの時代にたまたま中世のイメージのターンであるだけのことかもしれない。にしても、闘牛士の置物とかバグパイプとか、いまもそのまま使われているものを劇中で使っているのは、とても勇気あるなあと。でも、それがSF映画としてとても新しく、同時にリアルな表現でもある。

INFORMATION

映画『DUNE/デューン 砂の惑星』

全国公開中
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:エリック・ロス ジョン・スペイツ ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作:『デューン/砂の惑星』フランク・ハーバート著(ハヤカワ文庫刊)
出演:ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック、ジョシュ・ブローリン、ステラン・スカルスガルド、ゼンデイヤ、シャーロット・ランプリング、ジェイソン・モモア、ハビエル・バルデムほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト
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