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西本克利連載。作家としてあるべき姿とは?FACEと語るアートにまつわるエトセトラ。
MONTHLY NISHIMOTO IS THE MOUTH vol.05

西本克利連載。作家としてあるべき姿とは?
FACEと語るアートにまつわるエトセトラ。

〈NISHIMOTO IS THE MOUTH〉を主宰する西本克利による連載企画。今回のゲストは、コミカルかつシニカルな表現をおこなうアーティストのFACEさん。現在のアートシーンにまつわる話や、作家としてのあるべき姿についてふたりで自由に語ってもらいました。

“平和ボケした日本人”というテーマ。

ー こうしたキャラクターというか、FACEさんの作風はどのようにして生まれたんですか?

FACE:ジェームス・ジャービスがすごく好きで。高校生の頃に真似して描いてたんですよ。

西本:それこそ『relax』とかでも彼の絵が載ってましたよね。

FACE:そうですね。高校生のときに付き合っていた彼女とプリクラを撮ったときに、落書き機能で「描いて」って言われて描いたりしてて(笑)。

西本:そのプリクラ、残ってないんですか(笑)?

FACE:さすがにもうないです(苦笑)。

ー それを描きながら、自分らしさを模索していたんですか?

FACE:そうですね。何度描いてもやっぱりジェームス・ジャービスっぽくなっちゃって。だから自分的にはしっくりきてなかったんです。いつか自分らしいアイコニックなものを描きたいという気持ちはあったので、自分にハマるものを探すためにずっと描き続けていましたね。

ー そこから転機はあったんですか?

FACE:BiSHのプロデューサーの渡辺(淳之介)くんっていう人がいるんですけど、むかしバイト先が一緒だったんですよ。彼がBiSHをやる前に、その先駆けになったプー・ルイちゃんっていう子のデビュー作のジャケットを描かせてもらったことがあるんです。

そのときに、ぼくのキャラクターのような顔を描いて。笑っているんだけど、首が切れている絵だったんですよ。

西本:へぇ~! おもしろいですね。

FACE:なんか若干の皮肉をいれたくて。それはいまでも意識しているんですけど。

西本:FACEくんの絵ってどこかそんな感じがしますもんね。

ー そうしたメッセージというか、テーマがあるんですか?

FACE:“平和ボケした日本人”っていうテーマでいつも描いています。表現する上でそういうのがないと、薄っぺらくなっちゃうなと思うので。

西本:そのテーマが生まれたきっかけはあるんですか?

FACE:9.11のときにうちの兄がアメリカにいたんです。それでどこか他人事じゃないところがあって。事件が起こった数年後にニューヨークへ行って、グラウンド・ゼロに訪れたんです。そこに“PEACE”って書かれてたりとか、崩れた柱を十字架の形にして立ててたりして。それを見てすごく喰らっちゃったというか、めちゃくちゃ感じるものがあったんですよ。

ー 日本にいてニュースで見ているだけでは絶対に感じられない何かがありそうですね。

FACE:そうですね。日本人ってそのリアルを知らないというか、自分ごととして捉えている人ってどれくらいいるんだろうってそのとき思って。自分自身もいまだに平和ボケしている部分もありますけど、自分への戒めも含めて“平和ボケした日本人”っていうのはどこか心の中にずっとあって。

西本:そうゆう皮肉はぼくも好きなので、服に落とし込みたいですね。裏テーマとして。

ー 海外へ行くと、良くも悪くも日本がいかに平和かを感じることが多いですよね。

西本:そうですよね。忘れ物とか平気でパクられたりしますからね。ウクライナとロシアの戦争も、どこか対岸の火事みたいに見てしまっているところもあると思うんです。

FACE:むかしは学生運動とかがあって、ものすごくパワフルでしたよね。そうゆう時代を経てのいまなのかなって思ったりもして。なにがよくて、なにが悪いとかじゃないと思うんですけど。

西本:当時の映像とか見ると怖いですもんね。そういえば、『ロビンソンの庭』っていう映画があって、めちゃくちゃおもしろくておすすめですよ。ジャガタラのボーカルの江戸アケミさんとか、G.I.S.M.の横山SAKEVIさんが出ているんですけど。

FACE:おもしろそうですね。

西本:山本政志さんっていう人が監督しているんですけど、カルト的な作品をいくつもつくっているんです。

FACE:いままで歴史とかにあまり関心がなかったんですけど、いまになってようやく興味が湧いてきた感じがあって。

西本:過去から学ぶことはあっても、それはあくまで未来のためにですよね。あまり懐古的になりすぎるのもよくないなって。あの時代はよかった、あの時代はすごかったで終わりたくないというか。さっきも話しましたけど、いまってインターネットでなんでも検索できるし、誰とでも繋がれる時代だから、そういうツールを上手に使うのがいまの自分の課題なんです。むかしみたいに自分の足で情報をゲットしたり、服とかレコードを掘るみたいなことって減っているし、そのぶんドキドキもしなくなってきているんですけど、そういう状況って簡単に変えられるもんじゃないから、それをどう活かすかっていうことを考えたいですね。

FACE:西本さんのインスタを見ていると、かなりアートを掘ってるじゃないですか。ぼくは美術系の大学を中退してますけど、いい意味でやばい表現をしている人って世の中にたくさんいるんですよね。そういう人たちを見ずに人気のある人たちだけをフックアップするのって、どうなのかなって思うんです。だけど、西本さんはそういう人たちにスポットライトを当てようとしているじゃないですか。

西本:誰がサポートしているとか、誰にフォローされているかとか、そういう色眼鏡って必要ないですよね。そういうの関係なく、かっこいいやつはかっこいい。いろいろ見ていると、素晴らしいアーティストがたくさんいるんですよ。その人たちとなにか一緒にしたいと思ってますね。

FACE:そうやってちゃんと作品を見てフックアップしてくれる人がいるのって、若いアーティストにとってはすごくありがたいことなんですよ。学生のときに「マスにハマらないものは違う」ってよく言われたことがあって。だから、「君の表現は間違ってない」って言ってくれるだけで救われるんです。

西本:いろいろ若いアーティストの展示とかを見にいって話を聞くと、2日間ご飯を食べないで作品をつくっている子とかもいて。服も好きだけど、お金がなくて買えないみたいなんです。そういう子には自分の服をあげて、それで浮いたお金で好きなもの食べたり、楽しい時間過ごしなよって伝えているんですけど。自分はまだそれぐらいしかできないから。

FACE:そういうの、本当に大事だと思います。このアクリル絵具のチューブをひとつ買うのも2000~3000円くらいするんですよ。それを10色集めようとすると、結構な金額になっちゃうので。アーティストも結構お金かかるんです。

西本:2日間飯も食わずにやりたいことをやろうとうする気持ちがすごいなって。いまの自分にはそんなことできないですから。いろいろ学ぶこともありますね。その子とご飯を食べにいったんですけど、無限に食べていいよって(笑)。それでその子たちが将来ビッグになったら、なんか報われるような気がするんです。若い子たちのパワーってすごく強いし、それをいい方向へと導くのがいまの自分の役目なのかなって思ってますね。

ー それはすごく意味のあることだと思います。

西本:そうだといいですね。日本にもおもしろいアーティストがたくさんいるから、それをみんなに知ってもらいたくてインスタにあげてますね。

ー コロナ禍でアートにお金をかける人が増えたという話をよく耳にするんですが、その中で投資目的で作品を購入する人も増えているようなんです。もちろん、そうゆう人たちがいてマーケットが成り立つ側面もあると思うんですが、いわゆるパトロンのようにアーティストを支援するという目的は薄いような気がします。

FACE:アートが消費されてる感覚はちょっとありますね。ファッションもそうだけど、とくに日本はトレンドのサイクルがものすごく早いですし。

西本:文化よりもビジネスが優先されている感覚はありますよね。

FACE:ぼくも最近若いアーティストから連絡をもらったりするんです、「作品が売れるようになるにはどうすればいいですか? 値段とかどうつければいいですか?」って。だけど、ぼくがその子の年齢の頃って自分で部屋に飾るために作品を描いていたから、売ろうなんて思ってないんですよね。

西本:そうですよね。

FACE:「ただ自分が納得のいく作品をつくり続けるだけだから、はじめから売ろうなんて考えないほうがいいよ」って伝えてて。アーティストとして売れたいっていう気持ちはもちろん大事なことなんですけど、そうやっていまの市場に踊らされてしまうと、作品をつくることが徐々に楽しくなくなっていっちゃうんじゃないかと思うんですよ。

西本:技術とか経験ってお金で買えるものじゃないですからね。たとえ作品が売れなくても、はじめはやりたいことをやって自分を突き詰めることのほうが大事だなとぼくも思います。

FACE:それが大前提ですよね。

西本:あとは最近、作品を生で見るっていうことが大事だなって思いますね。当たり前のことなんですけど。インスタとかで見て、展示に行った気になるのはよくないなと。

FACE:そうですよね。作品のサイズとか、質感とかわからないですからね。

ー インスタグラムで見たとしても、結局なにも残らないですよね。

西本:そうなんですよ。だから音楽とかもやっぱりレコードで買いたくて。それでターンテーブルに乗せて、針を落として、はじめて音が鳴るっていう。そういうフィジカルな体験がいいなと思うんです。それってすごく残るから。むかしはレンタル屋でCDを借りてパソコンに取り込んだりしたんですけど、結局全然聴かないんですよね。どこか適当にあしらっちゃっていて。自分でお金をだしてちゃんとモノを買うっていうのは、リスクもあるけど、リターンもそのぶんあると思うんですよ。

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NISHIMOTO IS THE MOUTH

nishimotoisthemouth.com

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