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着ぶくれ手帖 〜金子恵治のファッション備忘録〜  2022年夏のバイイング日記 第二回 フランス編

着ぶくれ手帖 〜金子恵治のファッション備忘録〜
2022年夏のバイイング日記 第二回 フランス編

ここ数年のファッションシーンを、名実ともに牽引してきたファッションディレクターの金子恵治さん。フイナムでは、彼の一挙手一投足を追いかけていく連載「着ぶくれ手帖」をスタートさせました。初回の記事は、この夏に久しぶりに海外で行ったバイイングの完全記録。第二弾はエスプリの国、フランスです。写真を見ているだけで旅に行きたくなる、そんな道中記となっております。

  • Photo_Keiji Kaneko
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Komuta

いいものは長い時間をかけて生まれるという哲学。

ー続いて、こちらの方も会いたかった人のひとりですか?

金子:この人は特別に会いたかった人のひとり。イヴ・シャルトンさんという人で、〈ハートフォード(Hartford)〉というブランドの社長さんです。この人はアメリカのB.Dシャツをフランス流に初めてアレンジした人だと僕は思っているんです。

話を聞くと、大学生の頃にアメリカで留学をしていて、その当時〈ハートフォード〉を立ち上げたそうで、細畝のコーデュロイでB.Dシャツを20色くらいつくっていたそうなんですよ。しかもアメリカ製で。なんとなく細畝のコーデュロイというあたりにフレンチっぽい考え方があるなぁと感じました。

「レショップ」の裏テーマとして80年代のパリや、「エミスフェール※」が僕のなかにあるんですけど、どうやらこの人が「エミスフェール」のシャツをつくっていたそうなんです。

※エミスフェール / 1978年にパリで誕生したブティック。品が良く、上質で、伝統的な服を取り揃えていた。

金子:ぼくは〈ハートフォード〉というよりは、この人の名前でブランドができないかなということを思っていました。アメリカでファーストコレクションをつくったのなら、またアメリカでつくるのはどう?と提案したら、ちょっと変な雰囲気になってしまって。

ーそれはどうしてですか?

金子:この人は、いいものは長い時間をかけて生まれるという哲学を持っていて、日本人のそうした話の展開の速さにちょっと面食らったようなんです。僕もイギリスで歴史あるものをたくさん見てきたので、腑に落ちる部分がありました。いまだに細畝コーデュロイのシャツをつくっていて、こだわったものづくりをしているという話が聞けて勉強になったり。それで、長い時間をかけて取り組みをしていきましょうという話をして。

でも、「アメリカへ行くなら一応工場に聞いてみなよ」と一応了承は得ることができました。ということで〈ハートフォード〉で僕のイメージに近いシャツを購入してアメリカへ持っていくんですが、続きはアメリカ編でまた話をしますね。

ーこちらはものすごく高級そうなブランドですね。

金子:これは〈シャパル(CHAPAL)〉という革のブランドですね。ドライビングシューズやムートンのバッグなんかをつくっていて、ぼくも「エディフィス」に在籍していた頃に扱っていましたが、いまは値段が上がりすぎていて断念しました。

ー相変わらず〈ラベンハム(Lavenham)〉もこちらで撮影されているんですね。

金子:隙あらば撮影しています(笑)。そして、街での買い付けも楽しんでいますね。

ーこちらは古着屋さんですか?

金子:ここは街のワークウェアショップですね。前に「ウィークエンド(WEEKEND)」をパリでやったときにユニフォームをつくったんですけど、「レショップ」のユニフォームをつくろうと思ってまたここに来て爆買いしました。 それにこれから刺繍を入れようと思っているところです。日本でも似たものが買えるんですが、ここに来て買うというのがいいなと。

金子さんのお買い物 その1

古着屋で購入した〈シャルべ(CHARVET)〉のシャツ。かなり大きめサイズの一着。「シャルべのシャツは基本小さいので、大きいのは古着ならではという感じがします」

ホテルの近くで開催されていた蚤の市で見つけたM-47のショーツ。絶対に何もなさそうなところでもなにか見つけてやろうという意気込みをもって臨んだ結果、発見した一品。

左胸のペンを入れるようなポケットと、普通サイズのポケット。このディテールのあるアイテムは絶対に買うと決めているそう。おそらく50年代よりも前のアイテム。

ーなるほど。古着屋さんにも行かれたりしたんですか?

金子:もちろん行きました。「カサブランカ(Casablanca)」という超老舗の古着屋で、僕が通っているお店です。アフリカ出身の女性からいろいろ教わって、ここでフレンチワークとか勉強しましたね。私物もたくさん買いました。

金子:あとはこのワークシャツも購入しました。台襟がなくて、なぜか“ESSO”のマークがついてて、裾にはマチがついてたりと、なかなか面白いつくりをしているんです。

この後、彼はイタリアで〈サルヴァトーレ ピッコロ(Salvatore Piccolo)〉や〈ルイジ ボレッリ(LUIGI BORRELLI)〉を見にいく予定なんですが、イタリアンブランドのなかでもそれぞれ特徴ってあるじゃないですか。 でも〈サルヴァトーレ ピッコロ〉はいい意味でそういうのがないんですが、なんでも色気のあるものをつくれるのが大きなポイントだと思うんです。

それでこのシャツを彼に持たせて、ワークウェアだけどピッコロさんがつくったら、どんなシャツになるかなと妄想をして(笑)。後から聞いた話だと、ピッコロさんがこのシャツを持ってきたことにえらく感動してくれたそうなんですよ。 ということで、このシャツのピッコロ・バージョンがいま企画として進行しています。

ーこちらはマーケットの様子ですか?

金子:パリのマーケットです。ここでは全然買うものがありませんでした(笑)。全体的に古着はイギリスのほうが収穫がありましたね。掘り出し物もなくはなかったんですけど…。 でも、古着屋のお兄ちゃんの親戚がフランス軍にいて、その人が横流ししている「GORE-TEX」の迷彩ジャケットとか、絶対に現行で出てこないようなアイテムがちらほらとあったので、そういうのをまとめ買いしました。

金子さんのお買い物 その2

インタビューでも登場した「カサブランカ」で購入した、ショップオリジナルの、ジャケットとジレの間のようなアイテム。その曖昧な感じに惹かれたそう。

縫製などの作りが最高レベルで、とにかく感動したという〈スルカ(SULKA)〉のドレスシャツ。「運針の細かさなどが半端じゃない」と金子さんも絶賛。

イギリスの〈ヒルディッチ&キー(Hilditch&Key)〉のスコットランド製のカシミアカーディガン。「Vが結構深めでそのフォルムが今の気分にはまりました」

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