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着ぶくれ手帖カルチャーをなくしたものづくり。金子恵治が手がけるAORのリミックス。
Keiji Kaneko × Adult Oriented Robes

着ぶくれ手帖
カルチャーをなくしたものづくり。金子恵治が手がけるAORのリミックス。

「ぼくはファッションの人間であって、カルチャーの人間ではない。だから〈AOR〉はずっと憧れだったんです」。「着ぶくれ手帖」を主宰する金子恵治さんがそんなことを呟きます。今回取り扱うのは、〈アダルトオリエンテッドローブス(Adult Oriented Robes)〉の服。このブランドのデザイナーである弓削匠さんの背景には音楽が流れています。だからこそ「手が出せなかった」と金子さん。それならば、ということでつくられたのが「AOR Classics」と名付けられたコレクション。カジュアルな〈AOR〉の服をイチから見直し、クラシックなテーラードの手法を取り入れて“リミックス”した今作。その裏側にはどんなストーリーがあるのでしょうか? 金子さん、弓削さんに、思う存分語ってもらいましょう。

ジョルジオ アルマーニのスーツをラルフ ローレンの軽さを以って着崩す。

ー弓削さんはファッションブランドである〈ユージュ〉をやめて、代々木上原にレコードショップをつくられました。そして2020年に〈AOR〉をスタートして、服づくりを再開されましたよね。そこにはどんな想いがあったんですか?

弓削: ずっとウィメンズをやっていて、自分の名前を冠したブランドだったし、ぼく自身のアイデンティティを投影しなきゃいけないと思っていたんです。とはいえ、長くやっているとどうしてもビジネスのことを考えなければいけない。それで別注のオーダーばかりいただくようになって、思うように自分のクリエイションが反映できていなかったんです。ファッションデザイナーとして、そのストレスをずっと感じていて。一度ファッションから足を洗おうと、そのとき思ったんですよ。

金子: そこまで追い詰められていたんですね。

弓削: 結構悩んでました。それで一回ブランドを畳んで。もともとぼくはファッションを絡めながら音楽の仕事がしたかった。ぼくはDJもやっていて、10代の頃からレコ屋でレコードを掘ってますけど、ファッションブティックのようなレコード屋をつくりたいと思ってスタートしたのが「アダルトオリエンテッドレコーズ」なんです。

ーそれが2018年のことですね。

弓削: 「AOR=Adult Oriented Rock」って、大人目線のロックという意味なんですけど、ぼくなりにそれを解釈したら“洗練性”ってことなんじゃないかと考えて。それをキーワードにレコード屋をつくって、いつかはそこから派生するファッションブランドも立ち上げたいと思っていたんですよ。

金子: へぇ~! そんなストーリーがあったなんて知らなかったです。

弓削: ただ、それを言い過ぎちゃうと、今度は押し付けがましくなっちゃうんですよ(笑)。

金子: あまり言わないようにしてますよね? そうしたコンセプトをサラッと表現しているというか。

弓削: そのバランスを取るのが難しくて。うちの服ってQRコードがついていて、それを読み取ると音楽がダウンロードできる仕組みになっているんです。

ー音楽付きの服ということですよね。

弓削: そうですね。そうやって自分のアイデンティティを体現しているんですが、発信しないと忘れられていくし、発信しすぎても色がつきすぎてしまう。音楽はおまけ的な感じでつけているんですが、ビックリマンのチョコレートみたいに、おまけであるシールを集める文化もあるじゃないですか。どこかで淡い期待はしているんです。音楽ファンがぼくらがつくった音楽を集めてくれないかなって。

ー〈AOR〉の背景にはそうした弓削さんの想いが詰まっている一方で、服のデザインはどんなことを意識しているんですか?

弓削: 80~90年代のシルエットを意識してますね。〈ジョルジオ アルマーニ〉と〈ラルフ ローレン〉、そして〈コム デ ギャルソン〉のエッセンスを取り入れたいと思っているんです。

ー〈ジョルジオ アルマーニ〉が構築したソフトスーツのムードは強く感じますね。

弓削: それはいちばん最初から意識していますね。

金子: 〈AOR〉の服って、シルエットやディテールが不思議なバランスで成り立っていると感じていたんですけど、いまの話を聞いて腑に落ちました。その3つのブランドをミックスするって、あまり思いつかない発想ですよね。

弓削: 〈ジョルジオ アルマーニ〉はあくまでもイメージというか。ああゆう服を上手にかっこよく着崩すことをいつも考えてますね。だからセットアップはブランドに必要不可欠なんですよ。

金子: やっぱりセットアップがブランドの顔ですよね。ブランドをはじめた当初はもっと型数も多かったですよね?

弓削: 最初はセットアップしかなかったですね。でもセットアップだけを売っていくのも大変だし、それをいまのストリートでどうやって着崩すかということをイメージしながら、他のウェアもデザインするようにしていきました。セットアップにダウンジャケットとか、ダウンベストを合わせたりとか、そうゆう自由な発想ができるように。〈ジョルジオ アルマーニ〉のスーツを、〈ラルフ ローレン〉の軽さを以って着崩すようなイメージですね。

ーでも、どうして〈ジョルジオ アルマーニ〉なんでしょう?

弓削: 80~90年代のヴィジュアルが頭の中に残っているんです。ぼくってめちゃくちゃテレビっ子だったんですよ。いちばん強烈に残っているのは84年から92年くらい。バブル前夜からど真ん中にかけて。自分のインスタで当時のCMをアップしているのは、その頃の記憶にずっと頭を支配されているからなんです。あの頃の日本っていちばんお金があって、なんでもできる時代だったんですよね。

金子: たしかにそうゆう時代でしたよね。

弓削: 当時の20代の人たちって格好がめちゃくちゃ大人で、DCブランドのスーツを着たり、もっとお金があるひとは〈ジョルジオ アルマーニ〉を着ていました。それを子どもの頃に見て憧れて、早く大人になりたいなぁって思ってましたね(笑)。だけど、いざ大人になると、既にその時代は通り過ぎていた。90年代も後半になるとアメリカのヒップホップ・カルチャーとか、イギリスのアシッド・ジャズの文脈がストリートに入ってきて、ファッションが急にカジュアル化するんです。

金子: そっか、そんな感じでしたよね。その当時、ぼくは自分の好きなアメカジとか、古着とかしか見てなかったんですよ。雑誌は全部読んでましたけど、弓削さんが話してくれたカルチャーは、やっぱり全然通ってないんです。

ー弓削さんが話していたような当時の〈ジョルジオ アルマーニ〉を筆頭とするスーチングスタイルは、金子さんの目にどう映っていたのか気になります。

金子: いやぁ、当時はなにも印象に残ってないですね(笑)。

弓削: あれが流行ったのはぼくらが中学生くらいの頃で、ファッションに興味を持つか持たないかくらいの年代なんですよ。だからイメージしか残っていない。中学生の終わりから高校に入学するくらいはもう完全にアメカジ一色でしたし。

金子: 〈ジョルジオ アルマーニ〉とかのスタイリングって雑誌で見た印象はあるんですけど、ぼくは体型的に似合わなかったんですよ。だからその魅力を理解しないまま、違うものに傾倒していったんです。

弓削: たぶん、ぼくらの10歳上の世代がど真ん中なんじゃないですかね。

金子: ぼくは18歳で服屋で働きはじめて、その頃は量販店にいたんですけど、ソフトスーツをひたすら売ってましたね。だけど、自分は全然そういう服を着てこなかったです。

弓削: それって1991年とか、それくらいですよね。東京のおしゃれな若者たちがアメカジを表現する一方で、テレビから流れてくるファッションはまだまだソフトスーツなんです。ぼくはめちゃくちゃテレビっ子だったから、やっぱりそのヴィジュアルが頭に残ってて。

金子: 当時のストリートファッションと、トレンドのファッションがリンクしてないということですよね。

弓削: そうですね。東京のストリートはアメカジだった。でも〈ジョルジオ アルマーニ〉には憧れがあって。どこかでそれを表現したかったんです。いいスーツを着て、いいクルマに乗って、きれいな彼女とデートするっていうライフスタイルを夢見ていたわけです(笑)。

ーそんな弓削さんと金子さんが大人になってようやく出会うわけですね。

金子: ずっと平行線のままここまで来ましたからね。さっきも話しましたけど、〈AOR〉のヴィジュアルを見て、しっかりとファッションに落とし込まれているのを感じて。

むかし、〈AOR〉のヴィジュアルを手がけているスタイリストさんと一緒に死ぬほどをデカいジャケットをつくって「レショップ」で販売したことがあるんです。そのときのフォルムも〈AOR〉に近いものがあって、なんとなくの免疫があった。大きいは大きいんだけど、ちゃんとしたジャケットだったんです。

ーただ大きいだけではなく、ファッションとしてしっかりと成立していたということですか?

金子: そうですね。うまく言語化するのが難しいんですけど、ただ大きければいいというわけではないんです。〈AOR〉のジャケットはぼくでも着られるバランスというか、いい塩梅のフォルムなんですよ。ぼくの肩って結構クセがあって、上手に着られるものって限られる。それでいて〈AOR〉の服には、万人受けする汎用性もどこかに感じたんです。そのバランス感が本当に絶妙で、そこに惹かれたんだと思います。

ーそのバランス感には、先ほど話していた〈ラルフ ローレン〉の影響があるのですか?

弓削: そうかもしれないですね。誰でも着られますからね、〈ラルフ ローレン〉って。このブランドのすごいところは、服だけじゃなくて、雑貨類もつくったりしながら生活に関わるあらゆることを手がけてますよね。そうやって〈ラルフ ローレン〉っていう世界観を築き上げているというか。

金子: たしかに。それってすごいことですよね。

弓削: あの世界観のつくり方には大きな影響を受けています。アメリカのファッションを築き上げたひとですから。

金子: 弓削さんって、どこかにプレッピー感がありますよね。

弓削: あるかもしれないですね。ぼくは若いときからデザイナーになろうと思って桑沢デザイン研究所に通って、当時は〈コム デ ギャルソン〉の服に〈リーバイス®〉の“BIG E”を合わせてました。綺麗なものと古着を合わせながらバランスを崩して、それを自分の個性にしていた時代があって。そうゆう気持ちはいまでもありますね。崩しているけど、どこかで綺麗な部分もキープしておきたいというか。

金子: たしかに、カジュアルだけど清潔感ありますもんね。

INFORMATION

Adult Oriented Rooms

080‐4874‐5038

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