アメリカの原風景が、やっぱり忘れられない。
ー実際にできあがったサンプルをご覧になられて、いかがですか?
松浦: やっぱりいいですね。オックスフォードのシャツってボタンダウンが一般的で、なんだか神話化しているじゃないですか。だけど実際に袖を通すと、なかなかアメリカ人のようにかっこよくは着れない。そうゆうコンプレックスを抱いていると、レギュラーカラーであり、ボタンが白いプラスチックでカジュアルなつくりになっているシャツってちょうどいいんです。
金子: あの神話を疑うひとっていないですよね(笑)。いたとしても、その代替案として別のアイテムを探したりするひとってあまりいない。そういう意味でも、オックスフォードのレギュラーカラーシャツって、すごく盲点だったなと思います。
松浦: そうそう。ぼくはもともとアメリカかぶれなので、これが理想的だなと思ってずっと着ていたんです。とはいえ、他のメディアでも紹介することはなかったんですけどね。
金子: どうして紹介してこなかったんですか?


松浦: 基本的にアメカジ、アメトラが好きで、若いときにどっぷりと沼にハマっていたんですけど、それをあえて公言しなかったんです(笑)。
日本でアメカジが好きと言うと、どうしてもヴィンテージとか、そうした文脈で見られがちじゃないですか。「自分はそうじゃない」「誤解されたくない」と思っていたんです。それでなかなか自分から言い出すことができなくて。その後にヨーロッパものとかも好きになったりするんですが、結局は自分がカテゴライズされてしまうのを恐れていたんだと思います。
ーだけど、いまこうやってシャツを紹介されて、それを隠されていないですよね。
松浦: 歳を重ねると、アメカジがしっくりくるんです。だから着たくなる。ようやくアメカジが好きって言えるようになったんです。
金子: 前回の対談で「ファッションはコミュニケーションだけど、プレゼンをする必要はない」って仰ってましたよね。その話と通じるような気がします。

松浦: ぼくの中のアメカジって、音楽とか、カルチャーとかが絡んでいない普通の一般的な格好なんですよね。日曜日のお父さんみたいな感じというか、なんてことないシャツをチノパンにタックインしてるようなスタイル。決しておしゃれしている様子はないし、すごくコンサバティブなんだけど、あれがぼくにとってのアメカジなんです。
金子: 本当の日常のアメリカですよね。
松浦: 理想は宇宙飛行士の休日の格好というかね(笑)。それに憧れがあったから、今日もポロシャツ、チノパン、キャンバスのスニーカーなんです。出かける前に家で鏡を見て、まさに保守的なアメリカン・クラシックだなと思いましたよ。とくに主張はないけどちょっと小綺麗で、全然ファッションとは関係のないアメリカの原風景が、やっぱり忘れられないんです。それが年齢と共にできるようになってきて、だからカミングアウトしてもいいかという気持ちになったんですよ。
ーそうしたコンサバティブなアメカジって、大量生産されたもので構成されるような気がします。今回のシャツも「U.S. AIR FORCE」のシャツがオリジナルとしてあって、やっぱり工業製品なんですよね。
松浦: そうですね。アメリカのそうした服って質実剛健なんですよね。デザインよりも、そうしたつくりに憧れます。