大島さんとカウリスマキ。



ー大島さんはこれまでにカウリスマキ作品を長きに渡って、パンフレットなど日本のビジュアル制作をされてきたんですよね。最初に手がけた作品は?
駆け出しの頃、『過去のない男』のデザインが最初です。2003年だったかな。恥ずかしながら、それまではあまり観ていなくて、『白い花びら』と『浮雲』くらいで。ただ、僕はジャームッシュがすごく好きなので、カウリスマキ自体は知っていて、そこから後追いです。ジャームッシュとは共通する部分も非常に大きいと思っています。
ー長年携わっている大島さんからご覧になって、カウリスマキ作品はどうですか?
改めて思うのは、カウリスマキの映画は変わらないんです。すごく寡作な監督なので、僕の駆け出しの頃から今までのキャリアの中で季節労働者的に関わらせてもらってます。だから、その時その時の自分が試されている気がするんです。その時の流行り云々というよりは、その時の自分のスキルやセンスのような物を当てはめていく感じで、不思議です。たとえるなら、変わらない味のラーメン屋さんがあるけど、実はその時代、時代によって少しずつ味を変えているという感じ。パンフレットの構成も全作品でほとんど同じです。もちろん変えてもいいんだけど、ここまできたらというのと、カウリスマキ作品のスチールをずっと撮られてる方がいるんですが、そのスチールが素晴らしい。本編映像と同様に素晴らしいんです。それを最大限に活かす方法を考えます。
ーフィンランドを訪れたことで、カウリスマキ作品に対する眼差しは何か変わりましたか?
今回のフィンランド訪問は、7年ぶり2回目でした。久しぶりにヘルシンキに行くと、どんどん洗練されていっているのがわかります。でも都市というのは洗練されればされるほど、均一化していきますよね。だからカウリスマキ作品で、変わらないロケーションを探すのはどんどん難しくなっているんだろうなと映画だけ観ていても感じます。だから手間とコストはおそらくかかっているはずで、そうしてでも変わらず守られているという事実だけで涙しちゃうみたいなところがありますね。たとえば、昔、『過去のない男』で観たような何気ないシーンが非常に貴重で愛しく感じられます。

ーそういえば、今回はフィンランドの代名詞であるサウナとかは見て回れたんですか?
行けなかったですね。でも、今回痛感したことがあって。フィンランドの文化は、サウナや北欧のデザイン家具、ムーミンとかトピックがいっぱいあるじゃないですか。でもなんていうんだろう、全部が分離している気がしたんです。たとえばカウリスマキ文化のなかにムーミン要素は全くない。北欧デザインもカウリスマキ映画には感じません。もちろん色彩含めてデザイン的な映画ですが、モダンで洗練されている感じはしない。それぞれのコンテンツが独立して全く関わりなく存在しているということがわかって、すごく不思議でしたね。でもそこがフィンランド自体のおもしろさでもあるのかも。