1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
この連載もいつの間にか18シーズン目に突入し、新たなショップでお届け。第138回目は、気が付けば古着屋激戦区となった東京・世田谷区松陰神社前にある「コンプ(comp)」。店主の石川さんは、どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
石川大樹 / comp 店主
Vol.138_クラウドベイルのナイロンシェルジャケット
ー本連載は“トゥルー・ヴィンテージのように記録や記憶に残っていくようなグッドレギュラーをいまの内に探す”のがテーマ。石川さんの考えるニュー・ヴィンテージの定義とは?
そうですね。“キッカケひとつで、多くの人々から評価される可能性を持っているモノ”ですかね。ぼくは古着屋出身ではありませんし、現行のアイテムに触れる機会も沢山ありまして。現行アイテムのサンプリングソースになった古着が人気になるケースも結構あるじゃないですか。それって、ブランドのデザイナーが「いま着たら面白い」という考えのもとサンプリングしていると思うので、自ずとニュー・ヴィンテージになり得る可能性もあるのかなと思います。
ーそこに共通性を見出すことはできそうでしょうか?
トゥルー・ヴィンテージやアートピース的なモノとはまた違った視点になりますが、“希少性よりも、大量生産によって多くの人々の目に触れやすく、評価されやすい土台ができている”というのは、ひとつあるのかなと。シンプルに需要と供給の話になりますが、いわゆる古着好きだけでなくビギナーからの需要も高まることにより、価値は高まっていくんじゃないかなと思います。
ーなるほど。そこで今回紹介いただくニュー・ヴィンテージなアイテムとは?
1巡目ということで、まずは分かりやすく〈クラウドベイル(Cloudvell)〉のジャケットを用意しました。
ビギナーまで情報を届けるためには、ブランド文脈も評価に関わるひとつの要素。例えば「元〇〇の〇〇が創立したブランド」とか。ここのブランドもまた「元〈パタゴニア〉の人間がデザイナー」というストーリーがありますし、近年の〈パタゴニア〉人気もあるので、今後人気になる可能性もあるんじゃないかと予想されます。
クラウドベイルのナイロインシェルジャケット 1万2100円(コンプ)
クラウドベイルのナイロインシェルジャケット 1万2100円(コンプ)
ーグッドレギュラーとして注目しているショップもちょいちょいありますよね。どんなブランドなのかをもう少し詳しく教えてもらえますか?
〈クラウドベイル〉は、1997年にアメリカ・ワイオミング州ジャクソンホールで設立。〈パタゴニア〉と関わりのあったステファン・サリバンと相方のブライアン・カズンズの二人により立ち上げられ、当初は地元のハードコアなバックカントリースキーヤーやクライマーたちに、機能美を備えたウェアを提供していたそうです。
ー当時の日本では、アウトドアショップやセレクトショップなんかに並んでいたのを覚えています。
通気性と伸縮性に優れた素材=ソフトシェルをいち早くメインファブリックに採用した“ソフトシェルの先駆者”としても知られていて、まだソフトシェルという概念が珍しかったこともあり、アンテナ高めの早い人たちの間で人気だったようですね。ただし、00年代中頃に大手スポーツグループの買収などもあって、ブランドとしては2010年で一度消滅しています。こちらは〜00年代前半のアイテムで、スタンドカラーのナイロンシェルジャケット。チャイナ製ではありますが、正直アメリカ製が絶対ではないと思っていて。
ーというのは?
どちからといえば、タグに“Jackson Hole”の文字があるかどうかに買い付けの際は注視しています。これは製造年代による違いだと思うのですが、この文字の有無でクオリティも変わるように感じます。
ーチェックすべきポイントですね。
あとは、素材が薄く軽いナイロンリップストップというのもストロングポイント。この手のアイテムはハーフジップのプルオーバーが多いのですが、フルジップなのでインナーの選択肢も広がりますし、ジップのあしらい次第でフォルムに変化をつけることが可能です。また、同時期の〈パタゴニア〉のアイテムでも見かける、斜めについた胸ジップにも注目したいところ。開閉しやすよう設計されており、運動性を上げるヨークの切り替えや雨風の侵入を防ぐ裾のドローコードなど、シンプルで派手さはないけれど考え抜かれた機能美が詰まった1着です。
ーこのタイプのライトアウターって定番アイテムなんですか?
〈クラウドベイル〉自体はたびたび入荷しますし、ウチでも徐々に認知を得てきているように感じますが、それだってソフトシェルがほとんど。こういったナイロンシェルは案外少ないかも。そもそも、ぼくはアウトドアのアイテムに関しては、新しい方が良いと思っているタイプでして。というのもコレクションではなく着こなしに取り入れるというのを前提にすると“着用できるかどうか”が重要。化繊は裏地が経年劣化するリスクもあるため、00年代のこの辺のアイテムがオススメというわけです。
ーどちらもイイ色してますね。
ウチのお客さんですと、アウトドアアクティビティで実際に使う実戦派だったり、そのジャンルのマニアではなく、あくまでファッションのひとつのスパイスとして古着のアイテムを取り入れたいという人がほとんど。だからこそ、現行のアウトドアウェアにはない、こなれた風合いやちょっとレトロシックなカラーが求められるのだと思います。ぼく自身も“ウンチクよりも感覚で選ぶ古着の楽しみ方”を推奨していますし、自分にフィットするかどうかで選んでもらえればイイんじゃないかって。
ー先ほどの話にもあった“ビギナーにリーチできるかどうか”という点で考えるなら、たしかにそうですね。大事なのは「どう合わせられるか」っていう。
あとはプライスも。イイ感じのアイテムが見つかったとしても「値段が安ければ欲しいけれど、高いなら別に他のでイイや」ってなっちゃうと思うんです。〈クラウドベイル〉の場合。その点、チープシックをテーマとしている「コンプ」的にも“流行や価格を気にせず、気軽に楽しめる”という意味で非常にマッチすると言いますか。ただ、人気が出ると自ずとプライスも上がってしまうため、願わくばこのままでいてもらいたい…と思っている次第です(笑)
石川大樹 / comp 店主
気が付けば古着屋激戦区となった東京・世田谷区松陰神社前の商店街入り口付近に、2025年6月にオープンした「コンプ(comp)」の店主。“チープシック”をコンセプトに、訪れたひとが流行や価格を気にせず、気軽に楽しめる古着を提案。自分に本当にフィットする服が見つかると、古着ビギナーから業界関係者までが注目するルーキー店である。
インスタグラム:@comp_used_clothing

