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青野賢一ビームス クリエイティブディレクター / ビームス レコーズ ディレクター「ビームス創造研究所」所属。選曲・DJ業、執筆業。音楽、ファッション、文学、映画、アートを繋ぐ。www.beams.co.jpshop.beams.co.jp/shop/records/blog.beams.co.jp/beams_records/

小径逍遥、再び。

青野賢一
ビームス クリエイティブディレクター / ビームス レコーズ ディレクター

「ビームス創造研究所」所属。選曲・DJ業、執筆業。音楽、ファッション、文学、映画、アートを繋ぐ。
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No.18 ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶

2010.05.09

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チェルフィッチュをご存知だろうか。

チェルフィチュとは、
演劇作家、小説家の岡田利規が主宰している
1997年設立の演劇カンパニーである。

海外招聘公演も多数あり、
タイトルに掲げた
『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』は
2009年10月にベルリンで開催された
Asia-Pacific Weeks Berlin 2009の
世界プレミアとして上演されたものだ。


その『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』が
ラフォーレミュージアム原宿で上演されるというので、
早速観に行ってきた。


首を切られ退職する人の送別会のお店選びをする
派遣社員の3人が登場する『ホットペッパー』。
「23度とかホントマジあり得ないっていうかー」と
会社のクーラーの設定温度、寒さを訴える女性社員と
それを聞く男性社員のやりとりを描いた『クーラー』。
そして、最後の出勤日、仕事仲間への挨拶を見せる
『お別れの挨拶』という3つのエピソードから成る作品が
『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』だ。


演劇というと、
やけに誇張された台詞まわしを想像する人も多いだろうが、
本作での台詞は、日常的にどこでも聞く、「普通の」言葉である。

そこに、反復する動き
(ダンス、とも呼べる)
が加わる。

音楽も加わる。

するとどうだろう。
無責任なまでに言葉は身体から遊離し、
とてつもなく表層的で、
役者から発せられる「普通の」言葉が
どんどん違和感を醸し出すようになる。

普段、私たちの使っている言葉が
こんなにも可笑しいし狂っている。
そんなことを思わずにはいられないのだ。

これは、
身体表現と言語表現、
それぞれを絶妙に断ち切り、
その断面を曝け出すことで、
観る者にその意味を改めて問いかけてくるような
作品なのである。

各エピソードに流れる音楽もまた、
動きに呼応しているような
していないようなところがありながらも、
これらの音楽なしでは物語が完結しないような
つくりになってるところが面白い。
単に心情描写のために使われるそれとは
随分と趣を異にしているのだ。


題材として選ばれている
派遣社員、首切りといった
現代の日本の社会が抱える課題。
そして前述の言葉の問題を、
芸術表現を用いて
軽妙に突きつけてくるこの
『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』は、
普段、演劇やダンスに触れることのない人にも
是非観てもらいたい作品である。


全体を通して、決して深刻なものではなく、
むしろ笑いを引き起こすような作品ではあるが、
自分が発した笑いは、他でもない自分を笑っている
ということに気付いた。

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