小径逍遥、再び。
青野賢一
ビームス クリエイティブディレクター / ビームス レコーズ ディレクター
「ビームス創造研究所」所属。選曲・DJ業、執筆業。音楽、ファッション、文学、映画、アートを繋ぐ。
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No.19 hon-ne
2010.08.02
予てから企画していたイベント「hon-ne」を
8月1日に開催することが出来た。
このイベントは「NUMA BOOKS」の内沼くんから話をもらい、
ふたりで企画を膨らませて実現に漕ぎ着けたものである。
内沼くんの「全員DJの方向いて読書してたら面白くないですか?」
という言葉を受けて、二つ返事で一緒にやることを決めた。
我々の愛する音楽と本を同時に楽しめるなんて、
きっと面白いに違いない、と。
読書というものは、非常にパーソナルな体験だ。
家で、電車で、カフェで、ひとはひとり本を読む。
それはそれでひとつのスタイルなのだが、
これをみんなが同じ本を同時に読むという
共通体験にしたらどうだろう。
私たちが考えたのは、映画や演劇を友人と観に行った後、
作品について語り合うあの時間を、
読書を通じても作ることが出来るのではないだろうか、
ということである。
そこに、作品の世界を拡げる音楽を添えることで、
読書という行為がある種のエンターテインメントになりはしないか、
とも考えた。
そうしたコンセプトのイベントを表す言葉は
シンプルに「本+音」で「hon-ne」だろう
ということで、タイトルはすんなり決まった。
いざ、本番となった8月1日。
普段のDJよりも、もっとライブ感のある
インスタレーション的な表現が出来ないかと思い、
ターンテーブル×1、CDJ×2、サンプラー×1、iPad×1
という変則的なセッティングを採用し、
作品中、象徴的に感じた音をサンプリングして、
曲にサブリミナル的に織り込んでみたり、
物語を想起させる日本語を突然差し込んでみたりした。
音楽をかけながら、お客さんの方に目をやると、
みんな真剣に読んでいる。
果たして、この音楽は届いているのだろうか
という不安を払拭するように、懸命に音楽をかけ、
2時間が過ぎた。長いような短いような、不思議な時間の流れだった。
読書時間が終わり、私と内沼くんとのトークを挟んで
お越しいただいた方との懇親を深める時間。
実は、この時間が一番大切だ。
多くの方からいいお言葉をいただけて、
ああ、音楽も届いていたんだと実感し、
嬉しくなった。
本だけでも音楽だけでも得られない
ある種の独特な雰囲気。
なかなかハードルは高いが、
続けていきたいとこころから思う。
会場である馬喰横山の「フクモリ」は
カフェであり定食屋。
この場所でやらせていただく意味も考え、
しばらくは食にまつわる本を選ぶことになるだろう。
今回読んだ『つむじ風食堂の夜』の「つむじ風食堂」では
コロッケをクロケットと呼ぶ。
それに倣って供された少し細長いクロケットを
みんなで食べる、その時間も素晴しかったし、
味も素晴しかった。
次回の内容はこれから打合せていくが、
どんな本、どんな音楽、どんな食べ物になるか、
自分が一番楽しみにしているかもしれない。
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